抗がん剤中止というつらい提案をする時に医者が行うべき3点 #34
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
今日のテーマは「抗がん剤中止の提案」です。
医師にはつらい瞬間が多くあります。もちろん多忙ですので肉体的なつらさはありますが、それ以上に精神的なつらさが多い職業だと私は思います。
その中でも精神的なつらさの1つが、がん患者さんに積極的治療を終了する、という提案をする時です。
動画はこちらですので、こちらもよろしくお願いいたします。
今回はそのことに関する悩みを持っておられる先生から相談を受けたので紹介します。がん治療医の先生からのご相談です。
進行がん・再発がんの患者さんに抗がん剤治療を続けていると、いずれ抗がん剤治療をやめましょう、という話をしなければいけない時がやってきます。その話をすることが私は非常に苦手です。先輩の先生方を見ていると、つらい話にも拘わらず、患者さんは最後には納得されておられ、うまく伝えられているように感じます。私が話すと、患者さんやご家族は、怒ったり、泣いたり感情的になります。そうなると、こちらもしどろもどろになってしまい、お互い不完全燃焼のような状態になることも多いです。
私のこの苦手意識を無くして、患者さんやご家族にうまく伝えるやり方はないものでしょうか。教えてください。
ご相談ありがとうございます。
がんに限らずどのような疾患であっても、積極的治療を差し控える話をすることは医師と患者さんご家族の双方にとってとてもつらいことです。患者さん、ご家族にとっては、したくない選択をせざるを得ないつらさだと思います。
積極的抗がん剤治療ができないということは、失望したり、悲嘆にくれたり、怒りなどのネガティブな感情を引き起こすことになります。
そして医師にとっては、医療に対して、さらには自分に対しての無力感や失望感に直面せざるをえないわけです。極端に言えば、患者さんに対して、死の宣告をしているような気持ちになることもあるかもしれません。
それゆえ、人によっては、無意識にこうした話し合いを避けたり、あるいはあえて淡々と伝えたりする場合もあるように思います。
しかしその結果、患者さん側にとっては見放されているように感じたり、不信感を抱くことも少なくはありません。
抗がん剤中止のする際に重要なことは何でしょう。重要な点は3つあります。
1点目は伝え方です。
家族に先に伝えたり、家族のみに伝えることは避けること、家族も同席して一緒に伝えることが大事です。
直接患者さんに言うことをためらい、先に家族に話してから本人に伝えた方が良いのでは、という意見もあります。もちろんそれでうまくいくこともあるでしょう
しかし、家族が本人に話すことに反対したため、本人に伝えられなかった、というケースも良く聞きます。本人に事実が伝わらないと、患者さんの自己決定ができないので、私は家族も同席して一緒に伝えることが大事だと思います。
2015年の国立がん研究センターの研究で、80%のがん患者が、家族だけ、もしくは家族に先に話すのを望んでいない、76%の患者が、家族の同席を望む、(がん告知、および再発期患者の調査では18%)という報告があります。
勇気を持ってご家族同席のもと、本人に話しましょう。
看護師など他の医療者の同席を考慮することも、場合によっては良いと思われます。もちろん緩和ケアチームの同席も良いです。その理由は、医師が話した後の患者さん、ご家族への精神的ケアを同席した方々も手伝えるからです。
2つ目です。ここで一番重要と思えることをお伝えします。それは、双方にとってつらい話なのだから、あえてこちらの感情を隠す必要はないということです。
医師であるあなたの感情に直面し、率直に自分の気持ちを伝えることが、むしろ患者さんのつらい感情を癒す働きもあるのです。
私は泣きながら伝えている医師の姿を見たことがあります。その時は同席していた全員が、医療者も含め泣いていました。同席していた私も泣きました。そして患者さんが主治医の申し出を受け入れたことは言うまでもありません。
患者さん、ご家族が感情的になるのは自然なことです。そして医師のあなたもです。
お互いに今まで頑張ったこと、そしてつらい選択をさせる方、する方共に気持ちを分かちあったらいいんじゃないでしょうか。
ただ、私はあなたにここで演技をしろとか、患者さんの感情にあわせろと言っているわけではありません。
あなたがあなたの心を見つめ、患者さんへあなたの心をオープンにしてください、と言っているのです。あなた自身を見つめ、患者さんのことを考えた末のことなら、患者さんにはあなたの言葉は必ず伝わります。うまく言わなくてもいいんです。しっかりとあなたの心を見つめ、素直に気持ちを伝えてください。
3つ目は、あなたの気持ちを伝えたあとに、患者さん、ご家族とともに、「次なる最善の目標」を共に考えることです。
すなわち、「もう打つ手がない」のではなく、「積極的治療をしない選択のほうが、ある目標のためには最善である」こと、このある目標を共に考えるのです。そうなると新たなケアを提案することもできるかもしれません。
ある目標の具体的な例として、大好きな娘と最期まで家で元気に暮らしたいという目標があるとします。その目標をかなえるために在宅緩和ケアが最善である、という新たなケアを提案できるというわけです。
緩和ケアは、積極的抗がん剤治療が終了しても、最期まで行えるがん治療です。
再発・進行がんでの抗がん剤治療の目標は、QOLを高めながら、寿命を延ばすことですよね。緩和ケアの目標もQOLの向上です。つまりQOLを向上させるという点で同じ目標なのです。
患者さんの最期まで自分らしく生きる、という思いを支えてあげてください。その際、緩和ケアチームはあなたにとって役に立つサポーターです。是非ご活用をお願いします。
抗がん剤中止のする際に重要な3つの点をまとめます。
1.ご家族同席の上、直接本人に伝える。
2.医師であるあなたが、あなた自身の心に向き合い、率直に気持ちを伝える。
3.次なる最善の目標を共に考える
以上の点を参考に、患者さんとお話してください。
きっとあなたの気持ちは患者さんやご家族に伝わると思いますよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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