今度ねって、いつなんだ?大人気ないことをしてしまった

大変、大人気ないことをしてしまった。

日曜日の朝のことだ。

ことのはじまりは、前日の夜に遡る。


∞∞∞∞∞


その前日、つまり土曜日の夜のこと。

もうすぐ6歳の長男が寝る直前になって、

「ぬり絵やりたい」

と言い出した。

最近、すみっこぐらしというキャラクターのぬり絵にはまっている長男。私もぬり絵が好きなので、一緒にぬり絵するのがそうとう楽しい模様。

彼にとっては、母との貴重なふれあいタイムなのである。

日々、3歳&7ヶ月の2人の弟に邪魔され、母を独り占めできない長男が、母を独占できる絶好のチャンスとしてぬり絵タイムを利用していることに、私は気がついていた。


でも、この時は時間が遅すぎた。

弟たちも眠くてご機嫌が最高に悪い。私も一緒に寝室で授乳したり、一緒に寝る体勢にならないとおさまらないだろう。

それに、私自身もその前日の寝不足でまぶたが限界だった。あくびがこらえきれず、おばけみたいに鼻と喉の奥の方から何回も顔をだしていた。

「今日はもう遅いから。ごめんね、明日の朝早く起きて一緒にやろう?ね?」

たしかに私はそう、約束した。

長男は顔を曇らせ、「えー…」と言ったけど、しぶしぶ寝室のある2階へ足を運んでくれた。

最近、私が言ったことには「えー…」で応えるのがお決まりになってきたな。


その夜も、三男はいつものように母乳を求めて泣いて起きた。それが、3時間おきくらいに3回ほどあったと思う(記憶が曖昧…)

家族みんなで雑魚寝しているわが家。

ヨリ家のように、まさに「川の字なんて、所詮まぼろし」である。

授乳が終わるたび、子どもたちがバラバラに寝っ転がる布団の上で自分がなんとか横になれるスペースを探し、倒れこむ。

その前日、3時間程度しか寝ていなかった私は、吸い込まれるように眠りに落ちていった。


∞∞∞∞∞


---翌朝。

長男が先に起きた。

実は寝室に時計がないので、正確には何時だったかわからない。後から逆算してみると、たぶん7時くらいだったんだと思う。

平日は6時〜6時半くらいの間に起きるわが家にとって、少しゆっくりめの時間だった。

いつもなら、その時間には自然と目が覚めるように体にインプットされつつある私が、長男に起こされるまで寝ていたので、そうとう眠かったんだろう。

「ねーねー、ぬり絵やりたい」

長男が、私の耳元でささやいた。

「うーん…」

私は長男との約束を覚えていたけれど、頭と体がずっしり重くて起き上がれない。ここは、重力が5倍くらいある眠れる惑星にちがいない。

「ねーねーねー」

長男の、ねーねー攻撃が始まる。このまま、ねーねー攻撃が続けば、周りで寝ている弟たちにも誤爆しかねない。

弟たちが起きてしまったら、長男が母を独占できる時間がなくなる。彼はまだ、そこらへんのつながりが理解できてないようである。

たまりかねて、夫が声をかけてきた。

「とっと(父)なら、一緒にぬり絵できるよ?」

「…やだ、かっか(母)がいい」

(だーよーねー)


長男は、頑なだった。

今度は、布団に突っ伏したまま起き上がれないでいる私に向かって夫が話しかけてきた。

「マーさん(私のこと)、長男と昨日の夜、約束してたよね?これ、大人の友だちとかが同じことしたらどう思う?許せる?約束でしょ?大変なのはわかるけどさ…」

…夫の口調は、別に責めるでもなく、きつく叱るでもなく、上から目線でもなかった。

限りなくおだやかで、言い方にも配慮したんだろうなぁという印象。


こんなときって、なんていう?

『…わかってるよ…!』

頭に浮かんだこの言葉を、口から出かけたこの言葉を、私は歯を食いしばって呑み込んだ。

最近、長男が言う言葉の中で、1番嫌な言葉だからだ。

(かつて、私がよく両親に言ってた言葉でもある)

長男がその言葉を使うと、決まって私はこう言っている。

「本当にわかってるなら、行動にうつすもんだよ。『わかってる』『今やろうと思ってる』は、わかってることにならない!」


ああでも、それはキレイゴトだ。

本当に頭ではわかってても、体が動かないときってあるんだよ。

そして、この事実について私も頭では理解していたけれど、子どもたちがしたそれを許せないでいた。

許してしまえば、ズルズルと自分の発した言葉と行動に責任をもてない子どもに育つんじゃないか?

そんな恐怖が私自身が支配しているからだ。


私は意を決して、起きあがる。

だけど、夫の方は見れないでいる。

夫の言った言葉は、正しい。約束を守れない大人なんて最悪なのも、わかっている、本当に。

正論を言われて、かなりくやしい。

胸の中をもやもやが支配している。

…でもきっと、ぬり絵をすれば、もやもやだって色鉛筆の色に溶けていってしまうにちがいない。


「よし!ぬり絵、やろ!」

小さめの声で長男に声をかけて、リビングでぬり絵をした。

ダイニングテーブルの上に朝日が差し込んで、まっすぐに光の道を作っている。

長男とたわいもない話をしながら、色鉛筆をせわしなく動かしているうち、すぐにさっきのモヤモヤはどこかへ行ってしまった。

色鉛筆の繊細な色が、線が、複雑に絡み合い、濃淡をつけながら、おとぼけ顔のキャラクターたちを染め上げていく。

幸いなことに、そこから1時間ほど二男&三男は起きなかったから、じっくり長男単独と向き合うことができた。


ぐぅぅうう…。

時計をみると、8時を少し過ぎていた。

いつもは6時台に朝ごはんを食べているので、こんな時間まで水しか口にしなかった私のお腹の虫が腹ペコ・コール。


「そろそろ、朝ごはん食べよう?」

長男に声をかけたが、うーん…と上の空だ。

集中してるんだとは思うけど、私はもう、集中が切れてしまった。

卵焼きが食べたかったので、長男と一緒に作ることを提案するも、うーん…とまた生返事。

最近、料理したがりの長男がのってくるかと思ったのに。

「じゃあ、かっか作っちゃうね」

ここは、突き放した言い方じゃなく、普通のニュアンスで言ったつもり。

でも、次の瞬間、

「やだ!」

…でた、速攻、やだやだ反撃…。

もうこのパターン飽きた。


そのとき、何かがぷちんと、きれた。


「…もう!いい加減にしてよ!」

いい加減って、どんな加減だ?

もう一人の自分が、斜め45度上空から疑問を投げつけてくるけど、こうなったらもう止まらない。

「かっか、ずっと言ってたよね?じゃあ、かっかはどうしたらいいの?お腹すいたから、ごはん食べたいの!…もういい!卵焼き、作らない」

我ながら、大人気ない。

大変、大人気ない。

さっきまで、消えたと思っていた胸のモヤモヤが、いつのまにかさらにどす黒くなって、身体中をかけめぐっていた。


ただならぬ声に、夫が下2人を連れて2階から降りてきた。

「長男、よかったね、かっかとぬり絵、できた?」

真っ先に、しゅんとしている長男に声をかけ、それからソファにふて寝している私を、何も言わずにぎゅーっとハグしてくれた。

たぶん、事情は察しているのだろう。 

…この対応は、ずるい。


ハグで少しどす黒いものを吸い取ってもらった私は、もう卵焼きは完全にあきらめた。

とりあえず、朝ごはんにしよう。

パンしかないけど、糖質ガツンだけど、とりあえずお腹に何か入れなければ。

その前日、家族でヤオコーに行ったとき買っておいたパンをみんなの前にならべる。

私と夫は、クロワッサン。

子どもたちは、カラフルなスプレーがまぶさったドーナツ。親としては避けたい色だったけど、どうしても!と子どもたちが譲らなかったやつだ。


さくさく、クロワッサンをほおばるうちに、気持ちが落ち着いてきた。

自分でもわかってる。

1度目のモヤモヤは、眠かったから。そして、夫に図星を突かれたから。

2度目のモヤモヤは、お腹がすいてたから。

文字にしたら、なーんて単純な理由。

単純な自分…。はずかしい。


「長男、ごめんね、かっか言いすぎた」

「…うん、ぼくも返事しなくてごめんね」

心がほぐれてくのを感じながら、

「お腹がすいてて、イライラしちゃった」

子どもみたいに、すべて正直に自白した。

子どもたちにもニコニコが戻り、目がチカチカするようなスプレーをボロボロこぼしながらドーナツにぱくついている。

もういいや、今は「こぼさないでね」って言うのはやめとこう。

あとで片付ければいいや。

せめてもの、罪滅ぼし。


∞∞∞∞∞


私たち親は、子どもの要求にこたえられないとき、いったい何度、

「また今度ね」

「また明日ね」

と、先延ばしにするんだろう?

そして、その先延ばしを本当に実行に移せているだろうか?


実は、夫は常々、

「『また今度ね』でうやむやにしたくない」

と語っている。

ごまかすつもりはなくても、すぐに実行しないことで忘れていってしまう約束がきっとたくさんある。

夫が言うとおり、大人同士で「明日会おう」という約束をやぶったらオオゴト、信頼を失い、きっと友だちもいなくなる。

私は、眠さに負けて長男との約束をやぶりそうになった。その上、空きっ腹に負けてひどいことを言ってしまった。


育児は体力勝負だ。

365日24時間無休だし、休憩時間だって決められてない。

睡眠中だって、オンコール。要請があればすぐに出動する体勢を整えておかなくてはならない。

疲れてて、眠くて、お腹がすいてて…

だからといって、約束をやぶっていいわけではないし、子どもを傷つける言い訳にもならない。

約束をやぶられた子どもはきっと、約束をやぶっても何も感じない子になっていくにちがいない。

傷つけられた子どもは、ひとを傷つけることにためらいをもたなくなるかもしれない。


つまり、何が言いたいかというと、にんげんだもの、欲求をがまんしすぎちゃいかんよね。

だけど、そのために自己管理をちゃんとしなくちゃいかんよね。

大人気ないことしちゃったら、素直に子どもみたいに謝ろう。

もちろん、それですべてがチャラになるわけではないけれど、そうやってちょっとずつ進んでいくしかない。

ああ大人って、大人って…!


〈おわり〉

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