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追いつかない日々と、おべんと狂想曲


息子たちが通う保育園には、年に2回、春と秋にお弁当日がある。

いつもは保育園内でつくってもらう給食なのだけど、この日は大きなクラスの子たちは遠足にでかけ、小さなクラスではお天気がよければ園庭やテラスでお弁当を食べる。

息子たちをはじめ、子どもたちはこの日をとても楽しみにしている。


私はふだん、忙しさにかまけて「栄養は保育園の給食で…!」とべったり甘えているから、いつもあったかくて栄養ある食事を提供してくれる給食の先生方(調理師さん)には頭があがらない。

6歳と3歳の息子たちは、家ではあまり食べない食材でも保育園では完食しているし、取り入れにくい季節の食材なんかも工夫してだしてくれたりする。給食の先生に弟子入りしたいくらいだ。

このお弁当日には、給食室の大そうじをするということにもなっている。普段から給食室に足を向けて寝られない私は、「今日ばかりは…!」とはりきってお弁当日にいどむ。


けれど、そんな気持ちとはうらはらに、実はこのお弁当日、ものすごくプレッシャーだったりもする。

家族や自分のために、定期的に頻繁にお弁当を作っている方々が神々しく輝いてみえる。

子どもたちにとっても、親が作ったお弁当はうれしいだろうなと思う。年に2回だけなんだし、それくらいね…と、自分でも思う。

けれど、時々しかないからこその緊張感というのもあって。

私は心配性だから、朝ちゃんと起きられるか不安で寝られない。むしろ寝ない方がいいんじゃないかと、変な方向に思考がすすむ。

ちゃんと食べられるお弁当ができるだろうか、食中毒なんて起こさないだろうか、息子たちは喜んでくれるだろうか…心配は尽きない。

今回は末っ子の育休中なので、前日の昼間に買い出しにも行けるし、当日の昼間を丸々犠牲にしてでもなんとかお弁当を仕上げるという荒業ができる。

けれど、働いていたときのお弁当日は、正直ちょっと憂鬱だった。平日に買い物するのは至難の業だし、当日なんとかお弁当をつめこんで、子どもたちを保育園に送り届けた時点で燃え殻となり、その日は1日仕事が手につかなかったなんてこともしょっちゅうだった。


∞∞∞∞∞∞


お弁当日の前日、私は真ん中っこの二男と手をつなぎ、末っ子を抱っこしてイオンに向かっていた。

道すがら、

「いーよん♪いーよん♪」

と何かを許し続ける二男。何かと思ったら、「イオン」のことだった。かわいいい。

彼がすこぶるごきげんなのは、自分だけ保育園をお休みにしてもらったからだ。ごきげんな二男は目に入れても痛くないくらい、かわいい。

二男は数日前、私の不注意で手の甲を軽くやけどしてしまった(お料理お手伝い中、フライパンのふちにじゅっ…)。そんなに深い傷ではないけれど、まだ傷口が乾いていないので、保育園の先生からは家でようすをみるように言われていた。


そして、彼の最大のごきげんポイントはイーヨンで新しい水筒を買ってもらえること。

今もっているトイストーリーの水筒は、二男の意向も聞いて買ったはずなのだけど、そんなことはきれいさっぱり忘れている。兄のカーズの水筒がかっこいいからと我が物顔で使用し、長男はくやしいのをぐっと飲みこんで、カーズの水筒を貸してあげている状態が続いていた。

長男も不憫だし、二男が3歳になった今、翌日のお弁当日に合わせて、もう少しお兄さんな水筒を選んでもいいかもしれない。


ゾンビに注意しながら水筒売り場に向かう。

二男がまっさきに選んだのは、いま兄弟ではまっているポケットモンスター(ポケモン)の青い水筒だった。

その水筒の上には、同じシリーズのお弁当箱や箸、おしぼりなども並べられている。

そういえば、今回はおしぼりもいるんだった。そしたら、おしぼりケースも…。あ、前回まではフォークだったけど、今回は箸でもいいんだったわ。

3歳児未満のクラスだった去年にくらべて、今年、二男はできることがたくさん増えた。

そんな成長を実感するのがうれしい。どうせなら大好きなポケモンでそろえてもいいかも…と二男に聞くと、「うん!」とキラキラの目でこたえる。

しかしそうなると、長男もほしいに決まってる。

長男が使っているお弁当箱や箸箱、お弁当バッグなどは、年に2回しかないからと100円均一のだったり、もらいものだったりする。最近、長男はたくさん食べるようになってきたし、お弁当箱自体が小さくなってきているかもしれない。

ポケモンのお弁当グッズは1種類しか売ってなかったので、まったく同じものを長男と二男に2セット買うことにした。

「わおん!」とWAONカードが鳴いて、予想以上の出費に私も泣いた。


∞∞∞∞∞


夕食を食べ終えると、私はさっそく「名前書きマシーン」に変身した。

ぐずぐずな末っ子を夫におまかせし、お弁当グッズたちに名前シールを貼る。

わかりやすいように、テーブルの上にずらっと並べた新しいお弁当グッズに、わくわくが止まらない息子たち。真新しいツルツルのお弁当箱をさわりたくてしかたない気持ちはわかるけど。

名前シールがあちこちに飛び散り、そのようすはカオス以外のなにものでもない。二男が箸で遊んでて危ない。

実は、息子たちの名前には同じ止め字を使っている。

ふだんから私はよく名前を呼び間違えるのだけど、今回、なまじ同じお弁当グッズを買ってしまったものだから、よけいに頭が混乱し、名前を書き間違えそうになる。


あぁ、明日の朝が心配だ。

どれくらい心配かっていうと、しばらくしまい込んでいた電気炊飯器を納戸からひっぱりだしてくるくらい心配だ。

実は、ここ2年くらい炊飯器を使わずにストウブの鍋でごはんを炊いていた。

丁寧な暮らしってものにあこがれを抱いてる節があり、さらに食いしん坊な私は、おいしいものに少しの手間はおしまない。

けれど、最近は色んな物事が追い付いてない。

息子たちが散らかすスピードに、どんどんたまっていく洗い物に、私のスキルが追いついてないし、末っ子三男がソファの背もたれやダイニングの椅子、テーブルによじのぼって、にかぁと笑うまでのスピードにも追いついけていない。

もちろんnoteやTwitterのタイムラインにも、色んな楽しそうな企画にも、日々のくらしがさらさらと流れていく速さにも、季節が移り変わっていくなめらかさにも、息子たちが成長していく速さにも…。

なにもかも、気持ちと体が追いつかない。

もうそんなだから、変にこだわるのはやめようと決めた。お弁当日の朝、起きたらごはんが炊けている安心感は、何ものにも代えられない気がした。

お米と水を入れて、5時に炊き上がるようにセットして、完璧だ!

おやすみなさい。


∞∞∞∞∞


………

ちゅんちゅんちゅん…(すずめのこえ)

「マイさん、5時45分だよ」

早番の夫に起こされて目が覚めた。

案の定、寝坊だった。むしろ、すがすがしい。


ラッキーなことに、息子たちはまだ、くーくー気持ちよさそうに寝ている。

そぉっと寝室を抜け出し、洗っておいたお弁当箱をダイニングテーブルに並べ、水筒を用意して、ごはんをボウルに入れ、ふりかけとシャケの2種類のおにぎりを作ろうとした、そのとき。

「かっかぁ~ちょっと、こっちにきてくれない?」

1人でひぃっと変な声がでた。

二男が階段の上で呼んでいる。

起きるの早いよぉ…。こういうときに限って、子どもは早起きするという現象に、だれか名前をつけてほしい。

でも、この声は怒ってない。お弁当日ってことがわかっていて、早く目が覚めちゃったもよう。まだ眠そうに目をこする二男を寝室からリビングに搬送する。

寝てていいからね~とソファにごろんとさせて、私はまたせわしなくお弁当作りに戻る。


夫は、家事全般やるけれど料理だけはしないので、毎回お弁当にはノータッチ。しかも今回は早番で早々に家をでてしまう。こんなときにかぎって~という気持ちと、慣れないお弁当作りが思うようにいかない苛立ちとで、

「だいじょうぶそう?」

という夫の声掛けにも、

「だいじょばないーーー!」

と、ひとこと放つのが精一杯のTHE大人げない嫁。


が、次の二男の衝撃のひと言が、そんな険悪ムードをぶちやぶってくれた。

「おにぎり、いらないの…」

私と夫は、思わず無言で顔を見合わせる。

昨日、リクエスト聞いたら、

「えっとぉ~チャケとぉ~こんべのおにぎりとぉ~(訳:シャケと昆布のおにぎりを所望する)」

って言ってたじゃんか。すごくオニギリ楽しみにしてたじゃんか。かなり身勝手な思いで申し訳ないけど、オニギリなしのお弁当なんて、お弁当箱すっかすかじゃんか。母はオニギリなしでお弁当箱をきっちり詰められるほどお弁当レベルまで高くない。

あせって色々聞いてみたら、どうやらヤケドした右手に巻いてる包帯がオニギリについちゃうからダメだと思ったらしい。

オニギリはね、キャラ弁作れない母が(金にものを言わせて)買ったポケモンのオニギリラップにくるむからだいじょうぶだよ。

そう言ったら、なんとか納得してくれた。ふぅ。


そうこうしてるうちに、長男も起きてきたので、息子×2にはオニギリを多めに握り、朝ごはんとして食べてもらう。

長男は、うめーうめーとオニギリを頬張っていて、なんか男子らしくなってきたなと思う。

私も一緒に、オニギリやおかずをつまみながら作業を続ける。つまみ食いって、どうしてこんなにおいしいんだろう。空きっ腹にしみわたり、まだ眠い体の末端にまでエネルギーがたまってくる感じが心地いい。

二男には「失敗たこさんウインナー」をあげていたんだけど、つまみ食いしすぎて成功たこさんまでなくなりそうなので、さすがにストップをかけた。


もう夫もでかけてしまったし、お弁当を集中して詰めたい私は、

「朝だけどポケモンみてもいいよ!今日は特別!」

と伝家の宝刀「今日は特別」を繰り出す。

息子たちがみているのはアマゾンプライムで、ポケモンのサン&ムーンというシリーズの初期の頃。

私が子どもの頃もアニメでポケモンやっていたけれど、そこまで詳しくない。でも、よく知っている歌が流れてきた(『めざせポケモンマスター!』のリバイバル版らしい)。

要約すると、

いつもいつもうまくいくとは限らないけれど、仲間と一緒に目標に向けてがんばるぜ!

という内容。いいこという。

これを聴きながら、「よっしゃー!お弁当GETだぜー!」とノリノリでおかずを詰め詰めする。なんか楽しくなってきた。というか変なテンションになってきた。オベントウズハイというやつだ。


ちょっと先が見えて余裕がでてきたので、テーブルの上のカオスっぷりを撮影。

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年に2回なので、おかずはいつも代わり映えしない。基本的には子どもたちのリクエストを聞くけれど、子どもたちもお弁当のおかずの知識がないので、大体いつも同じメニューだ。

今回、初の試みとして卵焼きを星型のクッキー型で抜いてみたら見事に失敗した。


ともかくなんとか完成。

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ちょうど完成した頃、テレビから流れてきたのは、エンディングテーマ『ポーズ』だった。

もうね、私の心は「おべんとできてよかぁた〜♬」でしたけどね…。

そんなこんなで、なんとか息子たちを保育園まで送り届けた。

途中、お弁当バッグの入ったリュックをひっくり返したりしてたけど…もうしーらなーい(涙)


思えばこの朝、1番空気読んでたMVPはお弁当が完成するまで寝ててくれた末っ子だった。

お昼には、末っ子と一緒に残ったオニギリやおかずをもぐもぐした。離れてても、同じものを食べてるってなんだかいいな。お弁当箱をとおして、同じ時間を共有しているみたいだ。

来年には末っ子も保育園でお弁当食べるのか…。そう思うと、ちょっと冷んやりした秋の風が胸の中にふいた気がした。(もちろん保育園に入れる保証はどこにもない)


帰ってきた息子たちは、口をそろえて

「おいしかったよ!ありがとう〜!」

と言ってくれた。

うぅ…がんばってよかった。

(おそらく、先生方のお気遣いとご指導の賜物と思われる。先生方こそ、遠足お疲れ様でした…!)


大変だったけど、こんな日には愛おしさが曲線を描いて、ぐいんと加速度的に増えていく。

追いつかないなぁ…ほんとうに、なにもかも。


∞∞∞∞∞


こんなにツラツラ書いてしまったのは、明らかにお弁当日を乗り越えたという解放感&達成感がなせる技で…。

最後にもう一度、何が言いたいかというと、

やっぱり定期的にお弁当作ってる方、本当にすごいよ!えらいよ!めちゃめちゃ尊敬します…!


どんなに簡単なお弁当だとしても、その小さな箱には愛がつまっているんだなぁと改めて実感した日でした。

いつも本当におつかれさまです…!

〈おわり〉

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