登園時間の過ごし方
お家に帰るまでが遠足です。旅は道中も楽しむもの。というように、保育園の行く時間と帰る時間もまた特別な時間だったことを知ったのは息子の卒園式の日だった。
私は車に乗れない。免許は持っているし、家に車もあるのだけど、超がつくほどのペーパードライバーで家の駐車場にも車を停められないのだ。息子が生まれてから託児付きのペーパードライバー講習に通ったり、何度も夫を隣に乗せて練習をしたけれど、何度やっても乗れない。そもそも免許を取るときに教習所内の仮免で2回落ちたくらいだから、やっぱり向いてないのだろう。
だからどこに行くのにも自転車だ。体力だけはあるので、どんな遠い距離だって子どもたちを連れてどこまでも自転車で行ってきた。当然、保育園の送り迎えだって自転車だ。雨の日も、風の日も、寒い日も、暑い日も。そのことを子どもたちに申し訳なく思うことは多かったし、車で送迎するお母さんたちに引け目を感じることも多かった。
それが、去年息子の卒園式の日。思い出を振り返れば、浮かんで来るのが一緒に自転車に乗った送り迎えの時間のことばかりだったのだ。雨の日に大きく口をあけて雨つぶを飲みながら帰ったこと。自転車に乗れないほどの吹雪の日にベビーカーを押しながら30分歩いて帰ったこと。信号待ちで止まるたびに息子がまだ赤ちゃんだった妹に「大丈夫?」って聞きながら冷たい手でカバーに積もった雪をとってくれたこと。晴れた日に後ろから聞こえてくる楽しそうな歌声。
春にはたんぽぽをつんで木のウロに入れながら「誰が食べにくるかな?」「てんとう虫?」「リスに来てほしい!」と保育園に着くまで止まらなかった想像の世界。
びっくりするくらい私はそのひとつひとつを覚えていた。
なんて愛おしい時間だったんだろう。
初めてペーパードライバーで良かったと思えた。
それからあと2年の娘との登園時間は大事にしようと決めた。
今朝、自転車のカバーに溜まった雨水が凍って薄い氷ができていた。まるで鍵みたいな形の氷を見て「うわ〜!鍵が届いた!」と興奮した私たち。「何の鍵かな?」「宝箱の鍵じゃない?」「宝箱に雪だるま入ってるかな?かき氷も入ってるかな?」と自転車に乗りながらも話は続いた。そのうちに娘が後ろで歌を歌い出した。それは今日、生活発表会で歌う泉の精の歌だった。
今年はコロナで保護者は観に行けないけど、こんな風に劇の歌を歌いながら行ったこと。その日の朝は氷ができるくらい寒かったこと。またひとつ思い出が増えた。
もうこんな風に2人と手を繋いで保育園に行った日々は戻らない。でも、小学校から帰ってきた息子に「ねぇ、今日さ!氷の鍵見つけたの!」と写真を見せると「わ〜!!すごい!」と目を輝かせたあと「豪華な氷の家の鍵なんじゃない?」と言い出した。さすが、兄の想像力。
これまでとは違った形。でもやっぱり子どもたちとのこんな時間は楽しい。
一方であと1年と少しになってきた娘との登園時間。
もうすぐその最後の春がやってくる。
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