位置情報


心の位置がわからなくなることが頻繁にある。

「またなにか言い出したよこいつ…」って感じ?大丈夫、私もそう思ってる。サンキュー


心の位置というのは、例えば

①すごく集中して歌ったり、絵を書いたりしている時。

②社会人だということを心に言い聞かせながら、結構うまく人付き合いしている時。

③飲みに出かけて、まだ酔っていない段階で一人で端っこでオロオロしている時。

④オロオロを悟られまいと無表情を装う時。

⑤幸いなことに話しかけてくれる人がいて、そのまま「よくわかんねえけどイエーイ」となっている時。

⑥イエーイの帰り道の灰色の空をタクシーの中で眺めている時。

⑦ふと大切な記憶をなぞりそうになって慌てて小人に脳を掃除させる時。

⑧思い出したくないことを思い出せるようになった時。

⑨他人の奥を見透かせるような気持ちになった時。

⑩勘が外れて、見透かせないよな、そりゃそうだと悟る時。


10個上げてみたけれど、もっともっとたくさんあると思う。

そりゃ人間なんだから色んな感情があるでしょうよあなた、という感じなのだが、私はいつもその「心の位置の違い」に困惑する。

昨日の私と今日の私が別人なのではないかというような気がする。

もっと言えば、1時間前とも別人なような気がしたりする。

「自分を持っている」と言ってもらえることが多いけれど、私が自覚している限り、私はとても流動的だ。


太った猫がすごい狭い場所に入って行っておったまげる。

太った猫は「ワタシ太ってるけどこの隙間、入れるかしら…」なんて思わないだろうけれど私は思う。

入れるかしら…と思いながら入っていって、入ることができて、自分の七変化におどろく。

七変化の七を全て眺めてまたおどろく。

それをまじまじと観察できる自我にもおどろく。


そしておどろいた私は1時間後にはイエーイとなっていたりするのだ。


暇なのだろうか。

心に隙間があるからこんなことを考えるのだろうか。

隙間を埋めようとする私と隙間を追いかける私は交わることがあるのだろうか。


全てが交わって私という人間になっているのだろうが

どこかその私達はお互いによそよそしい。

だからと言っていきなり全員がタッグを組んで私に挨拶してきても困る。

その時は、娘が突然彼氏を連れてきた時の父親のような気持ちになるのだろうか。


全てが交わって私という人間になっているのだろうが

今と、まさに今の次の瞬間では、私の全てが入れ替わっているような気がする。

私という器の中で、イエーイの私と歌っている私と漠然ととんでもない悲しみの予感を感じている私と全人類と肩を組みたい私と誰かから肩を組ませたら絶対にぶん殴ってやろうと意気込む私がひしめき合っている。

そいつらは隣のやつを器の外に蹴飛ばして自分にスポットを当てようとする。

私はそのスポットの当たっているやつしか見ることができない。

だから自分のことを単純で流動的だと感じるし、自分の器の脆弱性を知る。


みんなの器は、そいつらがひしめき合う余裕を与えないような頑丈なものなのではないかと思ったりする。


そして、そんなことはないのだと悟る。というか知っている。


ひび割れそうな、

なんなら既に、女子高生のiphoneくらいひび割れているのでは、というくらいに脆い、

そんな器をみんなが持っている。


困惑して、統合したいと嘆いて、センチメンタルを眺めたりして、そんな自分をちょっと好きだと思う自分を叱っているのに、

みんながその器を持っているのだと自分に言い聞かせるとき、それは孤独を埋めるものだとわかっているのに、なんとなく嫌な気持ちになる。悔しいような気持ちになる。


自分の器の中でのすったもんだを人と一緒にすることに抵抗がある。

なのに理解者が欲しいとずっと思っている。


そしてその理解者がいつか現れたとき、「その気持ちわかるよ」と慰められて、静かに「わかるわけねえだろ」と毒づいている自分も想像できる。



全ての、自分と自分の周りで起きていること全ての、

規則性だとか、近さ、遠さ、平凡さ、奇抜さ、奇妙さ、貪欲さ、悲しさ、瞬間的な嬉しさ、美しさ、汚さ、惨めさ、怖さ、新しさ、難しさ、

そんなものたちが分からないから、

位置情報があれば良いのにと思う。


「この目的地までは歩いて〜分ですよ〜」と言われて、

「あ〜20分も歩く気力わかねえから帰るべ」となったり

「タクシーで5分なら近いし行ってみようかな」となったり


とにかく私の中の全てが入れ替わる前に知らせてくれるものがあれば良いのにと思う。

徒歩何分なのか教えてくれれば良いのにと思う。


あまりに遠い場所から来るならば身構えるし、

近いならば自分から迎えに行ける。


私が死ぬまでに開発されないかな〜と思う。

開発されるわけねえだろと次の瞬間の今、そう思う。




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