初夏、新緑と“孤悲”の物語 / 「言の葉の庭」
昨日の記事でも書いたように、
気圧が乱高下しやすいこの時期、私にとってなかなかポジティブになれない季節。
この作品に出会うまでは、梅雨の間は心も体も俯きがちでした。
「言の葉の庭」
監督・脚本・原作 新海誠
公開年月日 2013年 5月31日
【ストーリー】
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性・ユキノと出会う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。
(「言の葉の庭」公式HPより)
公開からもう7年も経つのか…。
「君の名は。」「天気の子」、近年すっかりアニメ映画のヒットメーカーとなった新海監督作品の一つ。
ネタバレ無しで、この映画の好きな所を記していこうかと。
匂い立つように鮮やかな彩色表現
(公式キービジュアルより)
5月が終わり、草木はますます緑の濃さを増して
大地や木の幹、水面からまさに「匂い立つ」この季節の空気
鼻の奥にその匂いが蘇るような映像描写なんですよ。
二人が東屋の軒下で過ごす時、
屋根の外では雨垂れに打たれた藤棚が揺れ、
池にはいくつも無数の波紋が描かれる。
草木の青さは、実際のそれよりもより鮮やかに
雨に濡れ、つややかに揺れる葉は
より潤みを湛えてよりつややかに
「まるで実写のような映像美」などとよく評される新海監督作品。
私は「実写のそれよりもずっと鮮やか」だと思っています。
よく使われる表現だと「思い出フィルター」って感じかなあ。
人の思い出、記憶の中にある風景って、それぞれの心模様によって大きく印象が異なるはず。時が経てば経つほど、それはどんどん強くなったりして。
そういう「心象風景」と「目に映る実際の風景」をうまく調和させているような、そんな表現。
磨き上げられた「46分間」
劇場アニメ作品なんですが、上映時間はなんと
全編 46分
知る限りの劇場制作アニメでも、かなり短めの上映時間。
ドタバタした展開になってしまうのでは?なんて思うんだけど、これが全く無い。
冗長さは全く感じない、テンポの良い展開で、
無駄な説明や描写が全く無いとも言える。
小説的な表現で言えば、必要な「行間」の描写はちゃんと残されていて
人物に話させる、というよりは映像と音楽による表現に、声優さんの「声」の表現が合わさって、作品の濃さがぐっと高まっている、というか。
加えて、計算された「カット割り」
各シーンのカット、各場面の繋ぎ方って事ですね。
1秒にも満たない、パッとフラッシュバックのように映る一枚絵も、後から見直すとちゃんと意味付けがなされていたりするんです。
なんでこのシーンの繋ぎにここの風景?
って思ったりしていた初見時と、見返した時とでは見方が変わってくる、なんて事も大いにあったり。
ただ見た感じが綺麗だからその景色を切り取っている、という訳では無いんだ…!
と気付いた時改めて、「46分」という上映時間がより一層洗練されたものに感じました。
「Rain」という曲
主題歌は「Rain」という、元々は大江千里の曲を秦基博がカバーした曲。
映画では、物語における一つのピークでこの曲が流れる
と文字にすると実に味気ない事になるんですが
なんというか、「化学反応」感がすごい。
鮮やかな画による表現力と、声優さんから発した熱を帯びている声の演技力と、
音楽の力。
その引力が、ちょっと驚いてしまうくらいに強い!
山下達郎や荒井由美の音楽作品と何処か通じるようなノスタルジックなメロディが、切なさと優しさをうまく共存させているなあ、なんて感じさせてくれるんです。
ベタな事に、雨が降る日の通勤時はつい「Rain」が聴きたくなります。
・ ・ ・
15歳の少年と、27歳の女性が織りなす
「現代の御伽噺」
休日、雨が降ったら。
外の雨音を聞きつつこの作品と共に時を過ごしてみるのも、趣があるんじゃないでしょうか。
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