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弟の好きなところ

わたしは弟が好きである。

「必ず、誰かと二人組でYouTuberになれ」と言われたら、弟となりたい。話しやすいし、話し甲斐があるし、話を聞きたくなる男だ。この3つが揃う相手は少ないと思う。

弟は、頭がいいし理性的だしやさしい。ひとつもキモいところがない。見た目も悪くない。

仕事を楽しんでいるところもいい。常にいい仕事ができるよう、研究と実践を怠らない。実家に帰るたびに、仕事で得た彼の気づきや学びの話を聞くことがわたしの楽しみだ。

駅まで迎えに来てと言えば必ず来てくれるし、どこかに出かけようと言えば付き合ってくれる。「別にいいけど」と、特別面倒くさがらず、特段ワクワクもせずにやってくれるところが至極ちょうどいい。

弟は、友だち付き合いはあまりしない。アラサー男性の独身実家暮らしということで、親や同僚からあれこれ詮索されるらしいが、まったく意に介しておらず、変なコンプレックスをこじらせていないところもいい。とても付き合いやすい男だ。こちらとしては実家にお気に入りの男友達が住んでいるようなものだから、ありがたさしかない。

趣味がたくさんあるところもいい。自宅の彼の部屋はプロジェクターやらデュアルディスプレイのパソコンやらで帰るたびにアップデートされているし、毎年行っているスキーはかなりの腕前だ。サッカーもできる。キャンプやサイクリングなど一人でなんでもやっちゃうところもいい。この前は薫製のつくり方を教えてもらって、庭で二人でスモークベーコンやスモークチーズをつくって食べた。楽しかった。

こちらが勧めたものを食わず嫌いせずにやってみてくれるところもいい。大学生の頃、ストレングスファインダーという自己分析ツールを勧めたらすぐにやって、結果を教えてくれた。たしか彼の強みは「着想、内省、戦略性、親密性、学習欲」だったような。わたしとひとつも被っていないところもいい。

彼はかなりポーカーフェイスで、言葉数は少ない方だけど、とてもやさしい。わたしより断然家族想いだと思う。実家のおばあちゃんの買い物のためにしょっちゅう車を出してあげているし、去年あったおじいちゃんの葬式ではこっそりと泣いていたのを見た。おそらくわたしの方が感情豊かで泣き虫だと思われるタイプだけど、わたしは泣かなかった。

兄弟というのはおもしろいなと思う。(きょうだいの漢字が「兄弟」しかないのが不便。)大抵の場合、10年強は同じ家で暮らさなければならないのだから、相性が悪ければ最悪だけど、気が合えばこれほど心強いものはない。

私は自分の生まれや育ちに対して感謝よりも恨みの気持ちの方が強いけれど、弟のポジションに生まれてきたのが彼だったことは、とてもとてもラッキーだったと思う。この一点に関しては、親にグッジョブと言いたい。

弟の、知りたいとかやりたいとかのガソリンの源泉が、他人ではなく自分の中にある感じがずっとうらやましかった。わたしの方が学校の成績はよかったけれど、本当の意味での学力はぜったいに彼の方がある。実は私の方が断然無気力なタイプだと思う。

このように、私の方には弟を好きな理由がたくさんあるわけだが、弟側に私と仲良くする理由があるようには見えない。弟は家族だから、求められているから、好かれているからという理由だけで人を大切にできるタイプなのかもしれない。

弟はいい人間なので、死ぬまで楽しく健やかに生きていてほしいと思う。いずれ発生するであろう親のあれこれを私一人でやりたくないから、できれば一緒に長生きしたい。すごくいい仕事をしているのでもっと社会的に認められたらうれしいけれど、弟自身はそんなことをあまり意に介さなそうだ。どこまでも本質的な男だ。とにかく健康で、元気でいてくれたらいい。

すっっっっっごいうれしい!