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この不思議な夜に

3日続いた長い雨と曇天。
カンボジアでは、珍しい。

その曇り空が綺麗に晴れた今夜は、
まるで舞台背景の書割りのような三日月。

空から浮き上がって見える。

そして、
夕食と買い物から帰ってきたとき、
私たちが暮らすプノンペンの裏町の長屋の路地で、入る私たちと入れ違いに、出て行くお姉さん。

ハイヒールに、スリットが深めに入ったスカートで、時間的にもこれから夜の街に出て行く雰囲気。

鍵を開ける間に、なんとなく目でその背中を追ったとき、お姉さんが路地の角にあるこのあたりの土地の精霊を祀る、小さな祠に手を合わせた。

息子が自分でやる!と言い張って、なかなか開かない鍵。
その間、お姉さんの祈りはやまない。

カンボジア流の、金色で背の高い、脚のついた祠。目線を少し上げたお姉さんの横顔。
顔の前で微動だにしない、合わせた手。

そして、路地の細い空から見える今日の三日月。

鍵を開け、重い扉を開けて閉めても、
お姉さんの祈りは終わらない。

今日の三日月は特別。
その夜に、なんだか特別な瞬間を、
少しだけ、見せていただいた。

お姉さんの祈りが、どうか届きますよう。

2020.9

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