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「市場価値を高めるには」と言われましても

5/16の土曜日、お声がけいただいて学生向けのキャリアイベントに登壇しました。エンカレッジさん主催の「CAREER THEATER 2020」、zoom越しでしたが800人ほどのこれから就職活動を始める学生の皆さんへ、対談したテーマが「20代の市場価値の高め方」。難しい&偉そーなテーマをいただいてしまいましたが、本番は若干煙に撒きつつ笑、つつがなく終えたわけです。ただ消化不良感もあるので、そもそも「市場価値ってなんや」という思考実験のメモを残してみます。

市場価値=需要 / 供給

原理はこれです。「100人欲しい人がいて、1個しかお届けできない」物が市場価値が高いし、「1人しか欲しがらないのに、100個供給されちゃっている」物は市場価値が低い。要するに、自分と相手の関係次第で相対的に変動するというのが、市場価値の本質です。例えば、僕が大学の学科選びをしていた2000年代前半はまさに法曹界が大盛り上がりで、ロースクールはバンバン増えるし、司法試験熱いぞ!となってました。異論は誰も言ってなかった。その結果、今は弁護士が供給過多になって法曹資格の価値は相対的に下がってしまったわけです。「これが次の正解だよ!」とみんなが知ってそこに殺到すると、そこの価値は下がる。だから、「今の時代の市場価値の高いキャリアの正解はどれですか?」という質問の立て方自体が、市場価値の原理をわかってない。正解はないどころか、わかりやすそうな正解には人が殺到して価値の下落がおこるわけです。

3つの「できること」 : ①「市場」と「価値」をいじる 

じゃあどうしたらいいのか。「そんなもん気にせずに、自分と関わる目の前の人にいかに喜んでもらうかを毎日繰り返せ」が答えだと思いますが笑、なんでそれが答えなのか、もう少し考えてみます。できることは3方向くらいありそうな気がする。

まずは、2つの変数をいじることです。「市場」と「価値」の2つ。「市場をいじる」というのは、自分を変えずに「自分という商品に対して、もっとも需要が高い市場がどこなのかを考えて、そこにいく」ということ。無理難題な営業行為の例えで昔からよく「エスキモーに冷蔵庫を売る」という例えがあるけど、これは要するに「市場の選択を間違ってる例」で、東南アジアの方がよくね?っていう話です。そもそも「市場ってなに?」かというとシンプルに言えば「需要と供給のマッチングを行う場」のことですよね。世の中にはどんな人がいてそれぞれどんな欲望や悩みを抱えていて、それが未来にどう変わっていくのかを、歴史と人間心理をよく考えて、仮説立てしていくのが「需要を考えること」。自分が何ができてどんな性格で、何ができるようになっていきたいと望んでいて、それに向けてどんな準備や計画があるのかを、本質的に考えて客観的に理解することが「供給を考えること」。この二つ、需要と供給のメカニズムを理解して動くことが「市場をいじる」ことです。

もう片方の「価値をいじる」方は、発想力を使うことです。エスキモーに冷蔵庫は売れないよ!とみんなが思えば、エスキモーへの冷蔵庫の供給量は下がります。ただこのままだと需要も少ないので、市場価値は上がりません。でも、北海道出身の方はもう知ってると思うけど、「冬の寒い中で食物を凍らせてダメにせず、かつ暖房の効いた部屋で腐らせないためには、結局冷蔵庫が必要」なんです。冷蔵庫の価値に「食物を凍らせず、保存に適した温度で保管する」という側面を定義できる人は、エスキモーの冷蔵庫に対しての「潜在需要」を掘り起こせるし、供給が少ない分、市場価値を爆上げすることができるわけです。これは、僕みたいな人がセミナーで「市場価値が高い職業はこれです!」と言ってるのをメモって手に入るような浅い知識ではなく、自分自身で発想する知恵の世界。「正解探し」スタンスでは絶対にたどり着けないものです。対談中に質問で、「DXや経営などの、一つのジャンルの飛び抜けた能力を持った人と、色々な領域に広く精通した人、どっちが市場価値が高いですか?」という質問がありましたが、「そんなの自分で考えろ」が答えです、正直。 意地悪で言ってる訳じゃなくて、「その人自身が自分の能力を、今いる市場でどう価値ある定義で発揮するか次第」という意味。深く飛び抜けた人でも「他領域との統合」が求められる市場では苦しいだろうし、広く浅い人でも「実は領域横断的なプロデュース能力が求められている」なら、価値は高くなります。要するに、市場と価値のマッチングを自分の頭と行動でできる人が、本質的に市場価値が高い人であって、ある特定のスキルが今熱いとか熱くないとか、そういう話じゃないと思うのです。

3つの「できること」 : ②人の「かゆいところ」を慮る

市場と価値をよくみて知り、マッチングできるようになるためにできること。これは結局、「目の前の人が何を欲しているのかを察する訓練を繰り返す」しかないです。エスキモーの人のかゆいところを最初に気付ければ、エスキモー冷蔵庫市場を席巻できるという先の例の通り、「人間」のことをよく知るしかないんです。何も「転職市場」のような大きくて実態の見えづらい概念を考える必要はなくて、日々、自分と関わる人たちとの1対1の関係性にも「市場と価値」は存在している(嫌な考え方ですがw)。セミナーに行き、それっぽい偉い人の話をきき、ビジネス書を読んで、「これが市場価値高いキャリアの正解!」と思い込むことはそれともっとも真逆の発想だと思う訳で。市場価値は人と人の間にしか発生しない以上、色々な人と出会い、色々な「市場原理」を体験し、目の前の人の「自分でも気づいていないかゆいところを慮ること」を反復し続ける。それでしか、市場価値の高め方は身につかないんじゃなかろうか。「そんなもん気にせずに、自分と関わる目の前の人にいかに喜んでもらうかを毎日繰り返せ」の意味はこういうことでした。

3つの「できること」 : ③突き抜ける

一方で、「そんなもん気にしないで、突っ走る」っていうのも立派な答えだと思います。”市場価値?はあ?そんなの気にしながら生きてんの?”っていう気もしなくもない訳です。対談の前室で矢沢永吉の話が出て、多分、ヤザワは市場価値なんか気にしてないですよねって。自分がやりたいことを貫き通して高めていけば、「自分の周りが市場になる」時が来る。自分が自分らしくあることそのものに需要が生まれれば、「需要を読む」なんてことはしなくていいわけです。あ、もちろん「ファンの期待に応える」というのも、需要に供給を行なっていると言い換えれば、これも市場価値に答えているのかもしれませんが。要するに、「市場価値を、行動より前に考えない。それは結果論である」というのが第三のアプローチですかね。

「市場価値」に抜け落ちている大事なこと

いずれにしても、「市場価値」という概念にはものすごく重要な観点が一つ欠けていると、イベントでも話しました。僕はとっさに「JOY」と表現したわけですが。大事にしないといけないのは「市場価値JOY」ですよと。

たとえ話として、「うなじ」の話をしました。ある日突然、どうやら自分のうなじは、1000年に一人の「美うなじ」であり、「うなじモデル」として生きていくことで、今の給料の10倍は軽く稼げるとして、それをやるか?という話。要するに、このうなじの市場価値は、今の仕事より少なくとも報酬の面でめちゃくちゃ高いわけです。金額だけで言えば、10倍の市場価値であると。ただ、どんなに市場価値が高くても、「うなじの撮影を毎日繰り返す日々」が、自分にとってどれだけJOYなものなのかは、全く別の話ですよね?

市場価値は、基本的に相手や、まさに市場が判断することです。それは言い換えると、「自分の好き嫌いの判断はそこには入らない」。だからこそ、JOYは市場に委ねずに、自分で判断するしかない。もちろん「人に喜んでもらうことこそ自分のJOYです」という、重なりの部分もあるけれど、頭がものすごくいいから官僚になるべきとか、抜群のプロポーションだからグラドルになるべきとか、そういうことが全てじゃないでしょうよと。「あなた、それやって喜べるの?」というのは、実は誰も教えてくれないし決めてくれない、一番自分で考えないといけないことなんじゃないかなと思います。それに、JOYが高い物事の方が、続くし、遠くまでいけるので、結果として市場価値も高まりやすい訳で。まずは、いろんな市場でいろんな価値を交換してみて、それぞれ「自分はこれは楽しかったのか」を反駁して考えるしかないんじゃないでしょうか。でもそれって、何も就活やら仕事やらをしなくても、20年間生きてきた中でなんどもなんども色々な形で繰り返してきたことなはずなんです。だから、それを振り返るために「自己分析しろ」と言われる訳で。「市場価値JOY」で、考えてみるといいと思います。

自分をいろんな市場に出してみよう

整理すると

・市場価値 = 需要 / 供給 なので、変動し続ける
・だから「正解探し」はやめた方がいい
・できることは
 1. 市場と価値をいじる
 2. 人の「かゆいところ」を慮る
 3. 突き抜ける
 のどれかしかない
・市場価値が教えてくれない大事なことは「JOY」である

ということですかね。
イベント中にお伝えできなかったことの補足はこんなところでしょうか。結局は、「自分という器をよく理解する」ことが大事だけど、その理解のためには自己分析だけじゃなくて、「市場に自分を出してみて相対的にフィードバックされて知る」必要があるのかもしれないですね。20代のうちは、それを繰り返して、まずはとにかくJOYを自認することが大事な気がします。

自分のJOYを知る方法は、この本にも書きましたので、よかったら手に取ってくださいませ。


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