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46. 師弟のあり方について考えさせられる映画3選

年間100本映画を観ることを自らに課して9年目のわたくしが、映画初心者のために「なりたい気持ちで映画セレクト」する企画、THREE FOR YOU。今日のお題は最近部下を持つようになっていつまでも可愛がられ上手な後輩キャラでは生きづらいと悩んでいるらしいSさんから。

先輩後輩とか、上下関係とか、師弟とか、そういうものの形について、視野を広げてくれる映画がもしあればレコメンドして欲しいです。

無人島で狩猟をして一人で生きて行くとかじゃない限りは、誰かと関わってしか生きていけないのが人間の常であって、その時に「教え教わる」というのは、何もできない赤ん坊から人生スタートである以上、必ず発生することだからこそ、摩擦するし、どちらも悩むわけで、自分を顧みてもそこは難題だなあと。ティールだとかフラットだとかリバースメンタリングだとか、いろんな形で新しい上下関係のコンセプトは年々出回っているけど、さて、映画だとどう考えられるか、3本選んでみます。

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グッド・ウィル・ハンティング / 旅立ち

1997年公開
監督:ガス・ヴァン・サント
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天才的頭脳を持ちながら幼少期の虐待のトラウマから心を閉ざす青年ウィルの、成長と自立のお話。彼に手を差し伸べるのがロビン・ウィリアムズ演じる心理学者のショーン。ひねくれ者でプライドが高く他者に対して心を開かないウィルと向き合う過程で、ショーン自身もまた妻に先立たれた失意と向き合って行く。これは何回見ても、いい。主人公にすごい共感するんです。自分をさらすのが怖くて、嫌われたくないから関わらなくて、失敗したくないからやらなくて、今の生活にしがみついて。「そんなに頭がいいのに、こんなに簡単なことにも君は答えられない! 君のやりたいことは、なんだ?」と。この映画から感じる「師弟のあり方」は、”師弟とは一方的な教える教わるの関係とでは限らない”ということ。もし本当に師が範たる存在であるなら、「自らの弱さと向き合う」ことすらも率先して見せることになるわけで、一寸の隙も人間味もないような関係性ではないはずだと。本当に強い人は、自分や人の弱さを大事にできる人なのだと改めて思う名作。マイベストシネマ。


孤狼の血

2018年公開
監督 : 白石和彌
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2つの暴力団の緊張関係続く広島で、「なんでもあり」の捜査スタイルの一人のマル暴の暗躍を描いた物語。見方次第ではこれは、「理想の上司とは何か」と言う映画な気もします。国立大出のエリートが(訳あって)彼の下につくのだけど、初日から散々な目にあうし、違法捜査連発のスタイルに怒りを募らせていく。ただ、そんな破天荒な上司が「何を大事に考えて検察やってるのか」を知ることで、その考えが少しずつ変わっていく。上司であろうと部下であろうと、その人が「もっとも大事にしようとしていることはなんなのか」を理解することってとても大事なことで。そして上司はなんだかんだ言って、部下に教えてあげられることって「自分が思う”最高の仕事”をやってみせること」しかないような気もする。それで”美学が違う”と言われたらそれまでと言うか。この映画から感じる「師弟のあり方」は、”人格的に尊敬できるかとか、人として尊敬できるかとか、それだけが全てじゃない”ということ。もしその関係性で自らリセット出来ないのであれば、どうにか捉え方を変えて糧にするしかない。主人公の日岡は、捉え方を変えて、吹っ切れていく(まあただあまりにもひどいので、現実だったら逃げたほうがいいとは思うけど)。冒頭から豚のうんこ食わされるシーンだし、生首やら水死体やらグロ注意なヤクザ映画です。俳優のみなさんが、楽しそうに演技しているのが眼福。役所広司はやっぱり千両役者。白石監督は、人間の臭さ汚さがやっぱり極上にうまいと思う。

あん

2015年公開
監督 : 河瀬直美
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過去を背負ったしがないどら焼き屋のもとに、謎の老婆がバイト志願に来るお話。誰か1人でも、自分のことをそこにいていいと認めてくれる人がいることの尊さの物語。その尊さがいかに得難いことで、いかに人を生かすか。深く暗い生きづらさを抱えつつも、人間の性根を曲げずにここまで生きてきたどら焼き屋の2人が、強くて眩しい。この映画から感じる「師弟のあり方」は、”教える側だって、教えていることで、そこを居場所にさせてもらっている”ということ。教える側も、教えることで、教わっているということかもしれない。だからくれぐれも、横柄になったり、教えてやってんだ!とギブのみ感じて勘違いしてはならない。謙虚に丁寧に。徳江さんのあんの作り方のごとく、見くびったり、たかをくくってはいけないということかと思います。やっぱり樹木希林が恐ろしい。役者揃い。河瀬監督映画に(僕の好み的には)ハズレなしです。

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こうして見渡してみると、師弟の形とは書いたものの、本当に大事なのは、師弟がまるで別の生き物か何かのように線を引いて振る舞いを異にすることではなく、先に生きてきて、技術も経験も先を行く人間だからこそ、率先して「すごい人間ではないこと」「あなたとそう変わらないこと」をさらけ出すことなんじゃないかと思う。弟子が「俺もできる気がする」と思えることってものすごく大事なことで、それをナメくさってそう思うのではなく、大変なことであるという前提を受け止めた上で、それでも目の前にいる自分と同じ弱くて脆い人間もそこを歩み抜いてここにいるという事実を身を以て見せること。技術がすごいのであれば、人間性で凄まなくてもいいということなんじゃないかなと思います。一方で、「技術がすごい」っていうのもなんなんだっていう話で、これだけ目まぐるしく「”すごい”の定義」が変わっていってしまう現代を見ていると、もはや普遍的に残る凄みって「人間性」なんじゃないかとも思います。やはりそうなると、さらけ出せるかみたいなことに戻ってくるよなあと。

なんだかとりとめない感じになってしまいましたが、この映画で少しでも人間性について考えるきっかけになれば笑、幸いでございます。

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