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放課後まほらbo第十二話 「勉強法」を考える

【第十二話夏の特集号】勉強法が変わる!オンライントークから
■骨太の勉強法
■中学受験で気を付けたいこと
■学ぶ意欲とスキルを育てる
放課後まほらboプレゼンツ勉強法の変わるオンライントークでは、専門家との対話を通して、私たちができる子どもの「学び方」を高める効果的な方法を考えていきます。

■骨太の勉強法

「勉強法が変わる!オンライントーク」では、参加者から事前に専門家にききたいことを募集しました。ラジオ風に、視聴者からの素朴な疑問や質問に専門家が答え、一緒に考えるスタイルをイメージして企画されましたが、まず、事前アンケートでの質問の8割が「やる気」に関することだったことに興味を持ちました。「勉強法が変わる!」とタイトルに打ち出していますので企画の意図をふまえた上で、「うちの子の、やる気を引き出すのにはどうすれば…」という質問が多かったのだと思われます。本番ではあまり触れませんでしたが、事前の打ち合わせで話題になったのが、この偏りです。「やる気さえあれば、なんとかなる」「やればできるのに、やる気がでないので困っている」これらの素朴な悩みは専門家からみると、少し心配な傾向だというのです。なぜ心配なのかというと、「やる気」=意欲、に関心が偏ってしまうことで、学習することそのものへの工夫の範囲を狭めてしまう危険性があるからです。以前にも愛知教育大学の伊藤先生が提唱されている「自己調整学習」という考え方で、3つの要素について紹介しました。(note第3話~第6話)皆さんが望まれている子どもの自立した学習(親に言われなくても、自分で勉強する)は、動機付け学習方略メタ認知という3つの要素をコントロールしてすすめていく力であるというのが自己調整学習の考え方です。自立した学習を進めるための力を効果的に育てるには、そこに関わる大人(親や先生たち指導者)がそのことを意識している必要がありますが、そこでの尺が「やる気」に偏るとバランスを欠く可能性が出てきます。その結果「やる気」さえ出せば出来ると、子どもに擦り込んでしまうことで、方略を身に付けないまま「やる気」を出したときに、失敗を体験し、「やる気を出したのにうまく出来なかった」経験が、次のやる気を削ぐという負の連鎖を生む結果になってしまいます。詳しくは、第二弾の「やる気、意欲」のテーマになりますので、ここではこの辺で。

 勉強法のことに話を戻します。小学校低学年から高学年になると学習の内容も、難しくなります。算数では、それまでの数の大きさ、計算や形から、小数や分数、面積、比などの立式や計算操作と少し難しい概念も獲得していきます。生活科は理科や社会科という身の回りにある世界を関連付けたり、観察・分析したりする力をつけていくことになりますが、これらに共通するのが「意味を理解する」というが求められることです。答えを導き正解に合わせていく力は、知識を記憶し再現することや、計算操作を的確に迅速に出来る事で達成できますが、意味を問われた時には、知識を的確に活用して分析したり表現したり、自在に加工し、アウトプットすることが出来なくてはなりません。つまり低学年で、与えられたプリントや反復を勉強法の中心にして出来たことが、高学年の勉強法では、内容の高度化に伴って、もう一工夫「量から質へ」の転換が必要になるということなのです。また「宿題=勉強」という考え方から一歩踏み出すために、学習サイクルを普段から意識する勉強法が重要だと、市川先生は指摘されています。「授業→宿題」という直線的な学習からの脱却です。「予習→授業→復習」という学習のサイクル化が必要です。市川先生が「骨太の勉強法」と表現されたのは、この「意味理解を大切にする学習サイクル」を中心にした勉強法で達成できると考えられます。その課程でしばしば勘違いされるのは、高学年になって塾に行くことで難しくなる学習内容に対応しようとすることです。もちろん塾の指導方法にもよりますが、「塾の授業→塾の宿題」が増えるだけでは、子ども自身の勉強法の質が変わるわけではありません。子どもは学校で教わり、宿題で反復し、塾で教わり、塾の宿題で反復するという、同じ直線的な学習の量が増えるだけで、主体的な学習になっているかどうかは別の問題でしょう。量が増えるとある程度の学習成果もあがりますが、それはたった数年の一時的なことかも知れません。なぜなら量を拡大させるだけの学習方法では、やがてやってくる高等教育への対応は難しくなると予想されるからです。それはズバリ、大学受験です。

■中学受験で気を付けたいこと

 高等教育の入り口大学受験に対応するためには、ひたすら反復を中心とした勉強法だけでは難しくなるというのは想像できます。例えば、東京大学の英語の問題は、この絵を解説する事と、それに対する自分の意見を決められた単語数で回答するというものです。イラストを解釈する力と、それに対する自分の考え、そしてそれをアウトプットする力が求められますので、とても反復学習で身に付くとは思われません。

東大英語問題

 オンライントークで話題になった「中学受験」と中高一貫教育についてですが、中学受験の勉強法についてでした。高校受験をする15歳の発達段階でいえば、自分で工夫して授業を受けたり、学校で教わったことだけではなく、自ら興味関心のある分野の学びを深めたりする力もついて来ていると思うが、中学受験の頃は、まだ主体的にそこまで出来るかは疑問。入試という期限があるため塾などで必要な知識を詰め込み、量的な対応で学習を進めていくことが多くなることが考えられる。反復は学習の基本なので決して悪ではありませんが、市川先生の秀逸な指摘はそこからでした。その量的な勉強法で中学受験を乗り切った子どもは、それを成功体験として内在化してしまうことで、その後6年間にわたる中高一貫の教育課程を乗り越えようとするかもしれません。高校入試というチェックが働かないまま大学受験に向かうと自らの勉強法を見直す機会がなくなってしまうという危惧がでてきます。せっかく中学入試を乗り切ったとしても、そこから勉強法の質を転換させることができなければ、結局は苦労することになる。そこで気になるのが中高一貫のカリキュラムです。主体的、対話的で深い学びにつながるような授業や学校生活が準備されていること、子どもに合った指導方法であることは、多くの親が望むことですが、もし、そこでも先取り学習と量的な勉強法の価値が中心とされていたら、いったい子どもはどうなるでしょう。「予習→授業→復習」という学習サイクルを身に付け、自立した学習者として、子どもが成長するための進路選択は、ホントに重要になってくると、お話をうかがって感じました。

 8月の放課後まほらbo教育講演会でも松嶋先生が話されていた中学受験に向くタイプ「おませタイプ」(大人びた考え方が出来るという意味で)というのも、今回の市川先生のお話から思い出しました。子どもの成長をしっかりと見定め本人と対話しながら中学受験は決めなければならないものなのです。都会では、中学受験は大切な選択肢の一つですから、気を付けたいところですね。

■学ぶ意欲とスキルを育てる

 こんな風に、勉強法について話をすすめてきました。欧米と日本の教育についての比較も質問が出たので話題となりましたが、欧米の文化に根差した「個」を重視する教育に比べて、東アジア圏(中国、韓国、日本)の特徴は自己の主張よりも、儒教のように教えを貴び科挙のような試験を重視する文化的特徴が教育にもあるかも知れないという、教育文化論的な見方も興味深く聞きながら、この半年間、コロナ禍で子どもたちが置かれた学校教育の状況について、勉強法という観点で話題が及びました。知識の伝達を中心に教え込むスタイルも子ども中心にテーマを基に意見を出し合い考え合うスタイルも、どちらも授業が中心で完結しているところでは教育が機能不全に陥ったところが多いようです。それとは別に、学習サイクルを大切にしていた学校は大きな影響を受けなかったといいます。つまり授業と宿題という直線的な学習では、休校で授業がとまると機能しなくなり、学校は、家庭学習用プリントを出すしかなくなる。子どもは、休校になるとどうしていいかわからず、意欲を失い、大量のプリントに埋もれていく。一方では、休校で授業が機能しなくても、みずから教科書を活用し、質問を投げかけ、自分は理解できているかを確認しながら、復習で学習の内容を確認できる。学校の先生も子どもたちの勉強法を普段から意識して育成しているので、家庭学習の指示がやりやすい。このように学習サイクルが確立していれば、授業も学習リソースの一つとして捉えられ、普段から教科書を活用していれば、ICTがなくても、自ら学習を進める時の手立てとして活用できたというのである。これは、まさに骨太の勉強法の事例といえるでしょう。

 家庭学習でも、学校の授業でも、放課後でも、この「勉強法」に着目した取り組みがサイクルとして定着すると、子どもたちは自立した学習者として成長できると感じました。放課後まほらboの取り組みも、この考え方が基本になっています。今回の勉強法が変わる!オンライントークでは、主体的、対話的で深い学び(意味理解を大切にする)との関係、受験学力(中学、大学受験)との関係、非認知能力(やる気、意欲)との関係、すべてに勉強法が関わっていることに改めて気付かされ、ますます楽しみになりました。
次回のオンライントークは、「やる気!学ぶ意欲」を育てる。
お楽しみに。
 
(みやけ もとゆき/もっちゃん)