見出し画像

伊達眼鏡を買った

先日、伊達眼鏡を買いにメガネ屋へ出かけた。
もともと自分に似合う大きめの丸メガネが欲しかったのだけど、いろいろ眺めているうちに、ブリッジとつるに入った繊細な細工が美しい、見ているだけでうっとりする華奢なメガネを買うことにした。

私の視力は1.5。もしかしたら2.0以上あるかもしれない。幼い頃から暗いところで本を読んでは「目が悪くなるよ」と母に叱られてきたが、全く悪くならないまま、大人になった。同じく目の良い父親の遺伝だと思う。
昔から自分に不要なメガネというものに憧れ(メガネ男子も大好き)、定期的に伊達眼鏡をつくっているけれど一度もレンズに度を入れたことがない。この日も視力検査をしてもらった結果、レンズの入れ替えは不要という結論になった。

せっかくメガネの専門店で買ったというのに、レンズ交換もなくお持ち帰りというのではちょっとつまらない。そう思っていた私の心を店員さんが察してくれたのか、自分の顔の大きさにあわせて、つるの部分をフィットするよう調節をしてくれるというのでお願いをした。

店内のソファーに座る私の前に、おしゃれな黒いセル眼鏡をした小太りの男性店員さんが膝をついてしゃがみ、「私の目をみてください」という。店員さんの眼鏡の向こうの目の中に、私の姿がうつっている。こんなに縁もゆかりもない人と見つめあうのは初めてかもしれない。店員さんがその場を離れて調整しに行く間、少しドキドキしている自分に気づいた。また近づいてきて、調整済みの眼鏡を私にかけてくれた店員さんと、しばし見つめあう。

三度目に彼が近づいてきたとき、あまりの胸の高鳴りに、次の調整は断ろうかと思った。「はい、これでちょうどいいですね。上をみてください」。言われるがまま上を向く。「下をみてください」。同じように下を向く。「ずれたりしないですか?」と聞かれて、はっとした。すごい。眼鏡が自分の顔と一体化している。眼鏡をかけていることを忘れるほど、全く違和感がない。これが見つめあった先の、プロの腕なのか。

彼は「よかったです」と微笑んで、会計係の眼鏡の男性に調整済みの眼鏡を渡した。お会計を済ませている間、そっと様子を伺うと、今度は初老の男性の前に膝をつき、しゃがみこんで見つめあっている。一瞬でもときめいたあの人は、小太りのおしゃれ眼鏡をかけた店員さんに戻っていた。



この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?