バスラットレオン 2021NHKマイルC 振り返り
バスラットレオンのNHKマイルCでの走りを振り返ってみましょう。
といっても、バスラットレオンはスタート直後に落馬競走中止となっているわけですが、空馬で走り続ける姿が各種レース映像にかなりの頻度で映っており、走行データを採ってみると、私か想像していた通りのおもしろい結果となりましたので、類を見ない回顧記事となりますが少々お付き合いください。
まずは個別ラップから。
走破タイム
1:35.4
14.0-11.3-11.7-11.7-11.9-11.9-11.6-11.3
鞍上藤岡佑介騎手が落馬した際の一連の動きによる、いわゆるスタートのロス分は0.6秒ほど。最初の200mは13.4とし、空馬状態での実質走破タイムは1:34.8程度となります。当日3勝クラスのマイル戦だと17着ウイングレイテストの少し後ろで入線したくらいになりますが、この走破タイムだと未勝利戦を勝つのも少々難しそうなレベルですね。通常のレース時より疲労度はかなり少ないだろうと考えるのは至極妥当なところです。
次に快勝した前走ニュージーランドTと個別ラップ、100m毎の平均完歩ピッチを比較してみましょう。
空馬となったバスラットレオンですが、各馬がダッシュを効かせてビュンビュン飛ばして行く中、前の馬を追っ掛けようとする気配が全く感じられません。「とりあえず走っとこか」みたいな気持ちだったんでしょうか。前半300m、残り1300m辺りまでほぼ一定のピッチで走っています。そして残り1300mからピッチを少し落としていますが、ここは坂を上る区間。最遅完歩ピッチ区間となった残り400~300mも同様に坂を上る区間。ストライドを伸ばして坂を駆け上がろうとしている様子が感じられます。
前走ニュージーランドTは中間点辺りまで後続馬を引き付けるような逃げで、スイスイ飛ばしている印象はなかったのですが、中山外回りコースは3コーナー過ぎの内外合流地点まで、内目も芝の状態は悪くなかったと思われます。しかし、内目の馬場が悪くなった辺りから、後続馬との脚色の違いが鮮明に現れ、バスラットレオンのパワー感あふれる走りが印象的でした。ところが今回の空馬状態では、終始内目の芝が悪い部分を避けているようなライン取り。荒れた馬場を苦にしないイメージは、あくまでも騎手に導かれてレースを行っているからこそ、なのかもしれません。また、3コーナーに差し掛かってから、バスラットレオンは幾分ピッチを上げています。コーナリング時の理にかなった走りともいうべきでしょうか。これもまたおもしろいところです。
4コーナーを回り終えた段階でバスラットレオンは手前を替えて若干のピッチアップ。その後、坂を上る残り400mからピッチを落とし始めましたが、スピードは逆に速まっています。騎手が跨ってのスピードアップとなれば、このような事は起こるはずもありませんが、空馬のバスラットレオンにとっては全くの楽走状態ゆえ、それまでより少しだけ力を入れて地面を蹴って坂を上ろうとしただけのレベルかと思われます。そして坂を上り切った残り200mからはピッチが上がって残り100mからは下がるという、ここは少々実戦っぽい走りの波形になっているものの、通常のレース時におけるスパートのようにバテてピッチダウンしたわけではないと考えられます。おそらく下位入線した前方の馬との差が縮まってきたから緩めたようにさえ思えます。
さて、ここからが本題。藤岡佑介騎手が斤量調整のための重りを鞍に入れていたか、あるいは身に付けていたかはわかりませんが、通常より50kg少々背中に背負わずにバスラットレオンは走ったわけで、もし人が乗った状態ならどの程度の走破タイムになったかを推測してみたいと思います。
私の計算上、ニュージーランドTより1秒台前半程度、200m辺り0.2秒近く速い馬場でNHKマイルCが行われたと考えていますが、NHKマイルCのレース時は場内の旗のなびき方、そして楽にハナに立ったピクシーナイトが前半200~400m区間で10.2をマークしたことから、バックストレッチは追い風、その分、ホームストレッチでは若干の向かい風傾向にあったと思います。また、ニュージーランドTのレース時は、風の影響はさほど大きくないものの、前述のように芝が荒れていない外回りコースと後半は馬場の速さが若干異なります。おそらく、NHKマイルCでのホームストレッチと、ニュージーランドTの前半部分は、そう大きな馬場差はなく、あったとしても200mに付き0.1秒までに収まるレベルだったかと見ました。ニュージーランドTでの残り1200~1000m区間の11.3というラップとNHKマイルCでのラスト200m11.3は、まずまず近い馬場の速さでマークした値として考えてみましょう。
ニュージーランドTでの残り1200~1000m区間においては、平均完歩ピッチの値が約0.428秒/完歩。バスラットレオンが騎手を乗せて200mを11.3前後で走るためにはこれくらいのピッチが必要となり、平均ストライド長は7.58m程度。一方空馬で走ったNHKマイルCでのラスト200mでは、平均完歩ピッチの値が約0.450秒/完歩、平均ストライド長は7.96m程度。1完歩に付き実に38cmもストライド長が違う結果となりました。これが人ひとり乗っているか否かの違いを露わにする一つの事象であり、例えば、この38cm違うストライドを26完歩続けたら、その走行距離の違いは約10mにもなるほどの大きな差であるというわけです。もし仮に、この8m近いストライド長でニュージーランドTでの残り1200~1000m区間と同等のピッチで走ったとしたら、200mのラップで10.76をマークできる計算となります。そのラップ差は200mで約0.54秒、1600mで約4.33秒。
昨年12月にTweetした牡牝入線率データの際、斤量差を考える一つの事象としてこんなTweetをしました。
https://twitter.com/mahmoud1933/status/1340941072847970306
ブルミラコロの栗東坂路調教でのラップの内、放馬してマークしたラップと実質のベストラップを比べると、800mで2.2秒差。上記のバスラットレオンで推測したラップ差と近い値になったんですね。実におもしろい結果が導けたのではないかと思います。また、このラップ差を50kg台前半で割れば、1kg当たり1600mで0.08秒ほどの差が生じる、ということにもなります。このNHKマイルCで騎手が乗り続けた際の推測走破タイムは1:39.1程度。通常のレース時より、負荷はかなり低かったと見て良いんじゃないでしょうか。
バスラットレオンは日本ダービーに参戦するということで、この空馬での走行が調教替わりになったと解釈するのも一つの手でしょう。では、栗東CWでの調教ならどの程度のラップとなったか、これも推測してみましょう。
桜花賞直前にこんなTweetをしました。
https://twitter.com/mahmoud1933/status/1380909229754568704
メイケイエールの桜花賞直前追い切りで、栗東CWでのラスト400m11.1-11.3程度のラップが土曜阪神芝なら10.5-10.7あるいは10.6-10.8くらいと換算しましたが、桜花賞でこの追い切りと同等のピッチに上げてブッ飛んで行ったメイケイエールの前半400~600m区間のラップが10.6程度。3コーナーで外を通りながらマークしたものであり、実質10.5と見ても良いくらい。つまり芝とCWは200mで0.6秒ほどラップ差があるのです。このラップ差を使用し、NHKマイルCでの走りを基に、CW8分目を通ったとするザックリとした換算調教タイムはこんな感じとなるでしょうか。1600mからの時計です。
106.8-92.3-79.8-67.0-54.1-39.6-12.4
前半少し飛ばしたものの、長めのユッタリとした調教となり、2400m戦に向かう追い切りとしては悪くない内容になるんじゃないでしょうか。空馬となっても前の馬を一切追うことをせず、淡々と走っていたのは長距離戦への資質があるという解釈が成り立つかもしれません。当然逃げればペースをじっくり落とすことも可能でしょう。もともと1800mの新馬戦でデビューしたくらいですから、日本ダービー参戦の視野は当初から抱いていた可能性があったとも思われます。
最後になりますが、NHKマイルCのレース後、私は普段通りの内容で冷静なTweetをしたつもりですし、また、こうやって落馬したバスラットレオンを題材にした文章を淡々と書いているわけですが、実はNHKマイルCで買った馬券金額の9割ほどは、シュネルマイスターとバスラットレオンの2頭からの3連単・3連複でして、バスラットレオンの落馬を認識した瞬間は、そりゃ頭の中が真っ白になりましたよ、ええ。そして、競馬オタクさんのYouTubeで紹介した牝馬番付ではソングラインを2位にしていたわけで、どの目が私の勝負目だったか、言わずともわかることでしょう。「ウギャー」とでも叫びたい気持ちを、頑張って押し殺してきました。ということで、来たる日本ダービーではバスラットレオンに馬券内へ食い込んでもらって、何十倍、何百倍にして取り戻したいなと。頑張ってな、バスラットレオン。
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