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「まひる野」2023年6月号特集▢結社の魅力▢

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まひる野2023年6月号特集「結社の魅力」は堂々21人21ページの大特集!! 各地の会員や相対的な若手に結社の魅力について語ってもらいました。 その中から12名の作品とエッセイを…
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記事一覧

狩峰隆希▢結社の魅力▢⑫(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

狩峰隆希つばさ   航空機墜落事故の記事つぎつぎに読みてひとりの夜を更かしぬ   車中にて不意にひらきし白傘のつばさは天井に触れむとするや   聞香を生甲斐として犬は嗅ぐ濡れた葦などせつに嗅ぐなり   何者もよせつけぬというあかるさの怖ろし躑躅の花の絶壁   惜しげなく二千円札を使用する人のこころはあやしきものを   春に一度使いしのみの花図鑑アプリをひととせ経て削除しぬ   うつくしき鴉来たりて屋根の上(え)を踵を鳴らすごとく歩むも   ハンカチの木にしらしらと花満ちてこ

吉岡優里▢結社の魅力▢⑪(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

吉岡優里春の歯軋り   確かめて忘れてもまた確かめて時計が時間を信じるように   客死という言葉を知ればあたらしい死の質感が身体を抜ける   帰り道偶然ひかる十字架に真っすぐに立ちカメラを向けた   一日の終わりを決めて舐めているマウスピースの破れたところ    思うように生きているのかわからない 春は眠りを難しくする   真夜中の途中で出会う鳩時計 悪夢は両足からさめていく   春の海 沈めたっきりもどらない口約束を眺めつづける   夢に棲むあなたは徐々に瘦せてきて時間を

佐藤華保理▢結社の魅力▢⑩(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

佐藤華保理白い皿   あといくつ死ぬまでに割るのだろうか軽量茶碗に白飯を盛る   二十四年母が持たせしノリタケの夫婦茶碗は深くしまえり   相次いで二つを壊すノリタケのマグカップの蔓の模様を   母の死後十五年目も春が来てパンの売り場に見る白い皿   十五年使われてなお残りたる白いパン皿いつまでも白い   二回目の春を迎える下宿先にいくつか持たせしパンの白い皿   やや小ぶりさくら模様の子の茶碗が棚より出でて春休みとなる   春の卓にひかりを招く ぼんやりとミルクガラスは白

麻生由美▢結社の魅力▢⑨(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

麻生由美季の堰   暮れゆけば四方のなだりにふはふはと桜が灯す花の雪洞    ふるふると花は脹らみあなあなとくづれ落ちたり言はんこつちやない   滑り落ちてくるくる流れゆくばかりさくらは季(とき)の堰(せき)であつたよ   さくらふる戦車の列を観るべしとSNSに人は喚ばるる   われもわれもみな端末を差し出でていくさ車を収めむとする   回転翼(ローター)を束状髪(ドレッドヘア)のやうに垂れ路傍にをるを見れば慄く   他所ん人(よそんし)が撮影地点(フォトスポット)に集(つ

大谷宥秀▢結社の魅力▢⑧(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

大谷宥秀観音経   内陣と外陣隔てるビニールを外し迎える四度目の春   会う機会話す機会は減りたれど観音経図誦すに怠らざりき   正月を避けての祈祷途切れずに聞こえたような だれのため息   境内に鐘の音響く日のありきおぼろげになる余韻の長さ   アフターもビフォーもあらず鶯は天にさえずる型を忘れず   甥っ子は杉の葉集め火を付けるシンガポールでできぬ一つに   かなわざる遊びとなれば思い出しつかみて渡す藁二束を   ちろちろと燃えたる薪にかける藁余白のありて火となる一気に

曽我玲子▢結社の魅力▢⑦(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

曽我玲子虹   いくたびも薬液たらしぬれぬれと猫の目となりオペ室へ向かう   眼球に今しもメスの突きささる刹那うれしげに覗くのは誰   偵察の気球墜とさるるとの予告 つめたき指が眼帯はがす   蔓に巻かれ腕をもがれし里ざくら村の境に白く咲きだす   薬師寺のお写経おくらん雨の夜に「ノリコエタイ」と返信のきて   老ゆることひときわ怖れいし友の平仮名ばかりになりゆくメール   さびしくて詐欺にあうとう物語り今日のなでしこ明日のひいらぎ   人工のレンズ装着したる目が鮮やかにた

藤原奏▢結社の魅力▢⑥(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

藤原 奏一級遮光カーテン 正しいと人にいうのをこわがって母は毛布をわたしに贈る   あなたの形に朝日が射してコンビニに行くよコンビニしか行かないよ   母はあなたを嫌うだろうかラーメンを鍋からつつき合う昼下がり このひとを母に会わせる日が来るとふいに気づいてしまう花冷え   ぬばたまの一級遮光カーテンに包まれている夜勤者ふたり   お母さん似なんだね。って小包の宛名だけ見て看破するひと   先送りを許されている引越しの日のまま残る実家のアザミ   有り合わせのふたり暮らし

稲葉千紗▢結社の魅力▢⑤(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

稲葉千紗間違い探し 一つずつ片付けてゆくスプーンでコーヒーゼリー震わせながら   カロリーが正義の夜だドーナツを一つ二つ三つ飲み込む   春の土のように眠れよ雨にふくらみ陽を蓄えて朝が来るまで   一片になってさようならよく晴れた追い風の強い日の帰り道   美容室帰りの娘の前髪はごきげんな春の間違い探し   うつむいてばかりの首が痛む午後散歩嫌いの犬の小走り   気持ちよく暮らしたいだけ洗ったり捨てたり炭酸の泡になったり   やわらかなものになりたい簡単に形を変えてしまえる

塚田千束▢結社の魅力▢①(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

塚田千束すべてに顔がある   降る雪のすべてに顔があるのなら白衣からはらいおとす顔、顔   ふっくらと冬空を雲が流れゆく寂しいときはおなかがすくね   傷を重ね道路はさらに磨かれて葬儀場までのワゴン車はゆく   錆びついた孤独はそのまま置いてゆく雪のわだちを踏みしめる朝   世界から私を守るのは私 リップクリーム買って帰るね   真夜中のコールに目ざめ現実がこの手にすがる小さき手をして   骨盤のとがりは柱 するどさに帆をはるようにほの白き皮膚   ほんとうはできることなど

小原和▢結社の魅力▢②(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

小原 和引っ越し   段ボールだらけの部屋にベッドだけ整え家族四人で眠る   柔かきくせ毛を梳かす新しき家に馴染むべく子は眠りおり   段ボールをすり抜け厨に辿り着く素足冷たき春の始めに   ぽこぽこと湯を沸かす朝まめ柄の緑あかるき布巾を選ぶ   段ボールの隙間に挟まりおにぎり二つ夫の昼餉を大きく握る   移り住む度に購うゴミ袋プラは燃えたり燃えなかったり   妹の小さなおむつを穿きたいと転がる二歳 母も転がる   どの街の春にもあおき春キャベツ笑って暮らす、暮らしていける

宮田知子▢結社の魅力▢③(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

宮田知子春の手前   母鳥に包まれ雛になるように布団の中にすっぽり納まる   頭だけ怖々土から出しているたんぽぽそこじゃ踏まれてしまうよ   芽吹く時種は裂けるの十四の由美は泣く時しがみついてくる   花びらを閉じて朝寝をしているか誰も見ていぬ夜に開花し   草の汁に黒ずむ指で編み込んだたんぽぽの輪を冠として   鳴き交わす声途絶えればその黙の意味図るがに首傾ぐ鳥   ところどころ黒ずむ柚子でも細く刻み散らせば酢飯の香り華やぐ   わたくしを常と変わらず呼んだのは今日はお風

滝本賢太郎▢結社の魅力▢④(まひる野2023年6月号特集)(作品とエッセイ)

滝本賢太郎四月馬鹿 春休みなるキャンパスの図書館で眠りぬ人は貝のごとくに   たぶん同じ本を読んでる人がいる二次文献すべて借りられていて   吐く息に吸う息の音取り囲む書架の本より聴こえくるまで   三月がめくれてあわれ新年度蝗のごとくメールは寄する   エイプリルフール・オン・ザ・ヒル散りゆくはことば差さずに見守ればよし   虚実実虚虚(うそまことまことうそうそ)ぜんぶ虚(うそ)はな散る頃からお仕事ですね   さくらはなびら髪にそれぞれあそばせて深刻なはなしなんかしない