私とライブハウス

今、世間でライブハウスが話題だ。普段はライブハウス、と言う言葉すら一年に一回も口に出さなさそうな人たちが、毎日のようにその単語をつぶやく。

私はライブハウスが好きだ。

別にそこまで頻繁にライブハウスに通っているわけではない。好きなバンドや興味のあるバンドが出るときだけチケットが手に入れば行く、その程度の音楽ファンだ。

もっと頻繁に通っている人からすれば、お前に何がわかる、と言われかねないが、ここは私の書きたいことを書く場所なので、今回は私とライブハウス、について書いてみようと思う。

先に言っておくが、感染うんぬんの話はほとんど出ないのであしからず。

私の大好きなバンドのひとつ、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんが新たな試み、CAP A ROCKというものを始めた。(試みについての詳細はCAP A ROCKのサイトやnoteを参照していただきたい)

この試みは、ライブハウスをもっとみんなが来やすく、快適な場所にしよう、というものだ。これをきっかけに、私自身もライブハウスの良さとは、と考えるようになった。バンドとの距離の近さ?一体感?何か違う気がする。

私はライブが好きだ。

しかし、大学生になるまではライブハウスというものに足を運んだことはなく、ライブを見るのはホールやアリーナクラスの会場が主だった。

そんな私が初めてライブハウスの楽しさに触れたのは、先ほども挙げたバンド、UNISON SQUARE GARDENの、CD購入特典で当選したミニライブだった。

詳細は省くが、会場はキャパ500ほどのライブハウス。私の整理番号は後ろから数えたほうが早いくらいだった。加えてその箱はステージが低めで、後方からでは背が低いとアーティストの姿はほとんど見えない。

普通のワンマンツアーよりも短い、1時間ほどの公演であったし、案の定わたしの身長と整理番号ではメンバーが人の隙間からチラチラ見えるか見えないか、だった。

それでも私はこのライブでライブハウスというものに魅せられたのだ。

ホールやアリーナとは違い、始まる前からどこか薄暗い会場。談笑する者、ただじっと前を見つめて開演を待つ者。立ちながら待っているというのに、なぜかそこまでの辛さは感じない。

SEとともに空間が闇に包まれると、わっ、と歓声が上がる。興奮を抑えきれず前に詰め寄る者もいれば、すっと後ろや横に引いて、腕を組み見つめる者もいる。

メンバーがステージに現れ、歓声ののち、一瞬の静寂。この一瞬の静寂が、どの会場でも言えることではあるが、ライブハウスという空間では特別美しく感じられた。曲の一音目を鳴らすために手を振り上げたその動きが、息を吸い込んだそのかすかな音が、私たちのすぐそばにあるのだ。

人によっては耳が痛くなってしまうほどの音とともにステージに光が灯り、演奏が始まる。徐々に高まる会場のボルテージが、手に取るように感じられる。見えるのはほぼ人の手と頭だ。それなのに、バンドの鳴らす音がすぐ近くにあって、わけもわからないまま体が動く。曲の間に少し背伸びをすると、キラキラ輝くメンバーの笑顔が見えた。そんな一瞬で、私の心は簡単に、それでいて言いようがないほど満たされた。

呆然としていても、めちゃくちゃなノリ方をしても、なぜか置いてけぼりにはされないような不思議な感覚。余計なものなんてなくバンドと、音と、一対一で向き合っているような気持ちになる。この感覚を味わって、私はライブハウスという空間が好きになった。

ライブハウスの魅力や楽しさというのは、ライブハウスで最高に良い音楽に出会わないと味わえない、と私は思う。いくら私たちがライブハウスの素晴らしさを力説しても、あの感覚を体感したことのない人にはただの狭くてうるさくてあまり清潔でない空間、それだけなのだ。

今、私たちに何ができるかはまだはっきりとはわからない。ただ、誰がなんと言おうと、私はきっとこれからもライブハウスが好きだ。


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