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マシーナリーとも子ALPHA ~機械の意識篇~

「これに乗ればいいのー?」
「ああそうだ。そいで、こいつを持て」
「なにこれ?」
「樹脂で作ったバウムクーヘンのレプリカだよ。それを食うふりして口のところまで持っていってみろ」
「んが……。ほんははんひ〜??」
「ああ、うまいうまい。じゃあ抜けていいぞ」

 台の上に立ったパワーボンバー土屋がぶるりと震えると、その身体から金色の光が躍り出た。光は徐々に人の形になっていき……やがて2050年の人類、鎖鎌の姿となった。

「これでいいのかなー」

 鎖鎌はそれまで自らが収まっていたパワーボンバー土屋の腕を掴んで角度を微調整する。
 パワーボンバー土屋は適切な予備パーツの確保と修理によってそのボディを取り戻した。だがメモリーやロボ格を甦らせ、完全な復活を遂げる方法はわからなかったのだ。過去からの記録によればマシーナリーとも子やアークドライブ田辺は死から復活を遂げたという。だが彼女らは機能を停止しただけでバラバラになるほどの外傷は負ってなかった。なら土屋はズタズタに破壊されたことで内面的要素が揮発してしまったのだろうか? それともなにかトリガーがまだ眠っていて、それの起動ができていないのだろうか。
 復活の方法はわからないが一方で奇妙なことも明らかになった。鎖鎌が徳の塊として土屋に入り込むことで、その身体を自在に動かすことができるのだ。ワニツバメに飲み込まれた錫杖といい2050年の人類にはよくわからないことが多い。土屋の中に入ったことで、鎖鎌に何か謎が解けないかと期待したがどうも中に入ってるからといってそうした機構がわかるというわけではないらしい。あくまで土屋に乗り移ったような感覚で手足を動かせるだけだというのだ。記憶を読み込んだりなどは無理なようだった。
 土屋復活は前進こそしたもののそこからどうすれば前に進むかまったくわからなかった。完全に機能停止したサイボーグを甦らせる方法は無いのだろうか? 過去に他に例はないのだろうか?
 吉村さんからは土屋をとりあえずなんとかしろ……このなんとかしろというのは何か有効に活用するかさもなきゃしまっとけという意味のなんとかしろである……と言われていた。そこで私は自分の店のマスコットキャラとして土屋を使おうと思いついた。人類の間ではこのようなキャラクターの人形を店の目印として使うプロモーションはポピュラーなようだった。そこで鎖鎌に土屋を動かしてもらい、いまこうして軒先でポーズを取らせたというわけだ。

「うん、悪くないな。このポーズなら客も一緒に写真を撮ったりしてくれるだろう」
「ほんとに〜? もっとかわいく着飾った方がいいんじゃない? アロハシャツなんてなんかチャラい感じ……」
「これでいいんだよ。いざ土屋が直せる方法がわかった時に変にふわふわした衣装着てたら驚かせてしまうだろうが」
「いきなりこれがドンと置いてあっても意味不明だからなんか解説とか首からぶら下げといた方がいいんじゃない? 創業者の像とか」
「創業者じゃねえし! うーん、まあそれももっともだな……。なんだ? いまは亡くなった創業者の友人の像、とか」
「創業者が亡くなってる?」
「亡くなったがかかってるのはそっちじゃなくて友人のほうだっ! うーん、でもなんかアレかな。湿っぽいかな……」
「そうだねえ。なんか亡くなった主人の声を蓄音機で聞く犬くらいには湿っぽいねえ……。もうメンドクサイからマスコットキャラのバウムクーヘンちゃんってことでいいんじゃない?」
「安直〜! 土屋の外見にバウムクーヘン要素ゼロだろうが!」
「大丈夫だって! ハンバーガー屋さんの前にピエロいたりするじゃん!」
「それはそうだけどなぁ〜‼︎」

***

 時計が21時を指す。エアバースト吉村はパソコンを操作しSIOS(シンギュラリティ・インターネット・おしゃべり・システム)を起動する。接続先はロンドン……。彼女の好敵手であるロンズデーライトシンシアだ。ロンドンの時刻は13時。紅茶も飲み終わった頃だろう。通信はすぐに繋がった。ディスプレイに高貴な、腕にハムスターの回し車を付けたサイボーグが映る!

「……あら? 吉村、髪切ったの?」
「あー……。こないだ床屋と戦ってな。それでやられた」
「池袋支部はあなたがリーダーに代わっても相変わらず好戦的なようね。命がいくつあっても足りないわよ」
「そう、それだ。今日はアンタに命の件で話を聞きたくてよ」
「命ぃ?」
「少し前の話なんだが、ウチの補充人員が仕事する前に殺された。機能停止なんて生易しいもんじゃなくてズタズタにされちゃってな。なんとか直せないかと思ってボディと回転体はピカピカに直せたんだが意識だけは戻らない。なにか知らないか?」
「ズタズタに……。それって例の切り裂きジャックの仕業?」
「それとは別件だ。詳しく話すと前提が死ぬほどあってめんどくせーからしないけど、まあ景気良くやられてなあ」
「ところでなんで私に聞くの? 専門じゃないわ」
「簡単な話ィー! あたし、偉いさんの友達なんてシンシアしか知らねーもん。13議員の一員のアンタなら甦ったサイボーグの過去例を知ってたり調べたりできるんじゃねーかと思ってな」
「……少し前のことです。我がロンドン支部もヤツの被害に遭いました。切り裂きジャックのね。というか最初の犠牲者が出たのはうちだったのよ」
「倫敦の切り裂き魔か……」

 エアバースト吉村はワニツバメの顔を思い浮かべた。一緒に酒を飲んだり、このあいだはバウムクーヘンを食いに来たりしたらしいが基本は敵だ。いざ戦ったらかなわねーしアイツのことも何か対策を考えないとなあ。

「昇華ソーウェル……。私の右腕のサイボーグが見るも無残にバラバラにされました。ワニの歯でズタズタにされてしまいましたし、その修復は困難を究めました」
「……直ったのか?」
「ボディはなんとかね。あとはあなた達と似たような状況よ」
「過去、似たような事例で完全に修復されたケースはなかったのか?」
「無い。そもそもサイボーグが破壊されるという事例が数えるほどしかないのよ。我々シンギュラリティのサイボーグは基本的に地球最強の存在ですからね。例えば時空改ざん工作から帰ってこなかったサイボーグなどは数例いますが……」
「仲間割れとか、過失で死んだサイボーグならいるんじゃないか? 誰だったかな……。フルメンタリかず恵! あいつはどうなった?」
「ああ、ヨーグルトで死んだあいつね……。あいつは適切な清掃をされた後、サイボーグセメタリーに保管されてます」
「甦らせるつもりは無い?」
「バカは甦らせる価値無いわよ。方法を検討する時間もムダです。まあつまりそういうこと。有能なサイボーグは基本死なないし、死んだサイボーグの大半はバカだから復活を検討されてすらしない。だからサイボーグを復活させようという試みのデータは無いのです」
「……まあ逆に言えば完全に否定されてるわけでもねーと言えるよな」
「そう来ると思ったわ。さっき言ったサイボーグセメタリーですが、日本の横須賀にあります。サイボーグセメタリーは場所としては確保されているもののサイボーグの死亡例は極端に少なく、ふだんは併設されたデータセンターにて仕事をしています」
「データセンター?」
「サイボーグの産み出す徳、作戦行動中の情報、今夜食べた晩ごはん……。そうした情報を整理し、管理している場所です」
「いろんな仕事があるんだなあ」
「確証はありませんがそこで相談すれば……サイボーグの意識のインポート/エクスポートについて何かしら調査ができるかもしれません。行ってみなさいな」
「なるほどね……。試してみる価値はありそうだな。サンキューシンシア。また知恵を借りちまったな」
「ウチにとってもその調査結果は有益となる可能性が高いですからね。ソーウェルは惜しいロボ材でした……。報告を楽しみにしていますよ、吉村」
「任された」

***



読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます