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マシーナリーとも子EX 〜黄金の皇帝篇〜

 上野。一見その姿は2020年のものと同様活気に溢れているように思える。だがそこにいる大部分の人間の顔に生気がないことにあなたは気づくだろう。そしてそもそも道を行く者のなかで人間の割合が少ないことにも!
 上野の道を行く者の大部分が人間から見れば異常な姿だということにあなたは気づく! 首から上がフクロウで肩から翼を生やした鳥人、耳と9尾のしっぽをはやした化け狐、首から上が茶碗の男、地面から上半身をはやしたスライム、猫又、バナナにんげん、龍人! 2045年では上野は亜人に支配され人類はその奴隷として働かされているのだ! 人間の奴隷は非常に低賃金かつ、休憩時間を含めて8時間労働を週に4日定められている!

 そんな上の駅の大通りからしばらく御徒町方面に向いて歩くと一件の甘味処がある。そのなかに……マシーナリーとも子とエアバースト吉村はいた!

「いつ来ても迫力あるとこだよなここは。都内でこんなに人類の割合が少ない街はほかにねーぜ」
「亜人は公には訪日外国人扱いだからな。いろいろやっても口出されづらいんだとよ」
「訪日ったってここにいる何割かは土着の亜人だろ? 日本人よりルーツ古いんじゃねえのかあ」
「そこは立ち回りってやつだよな。商人はいちばん割りがいい方法選ぶのさ」
「怖いねえ上亜商の連中は」
「おいマシーナリーとも子、あんまデカい声で組合のことディスるんじゃねーぜ。このあんみつ屋だって入ってるんだから」
「わぁーってるって。……で、これから行く店もそうなのかよ?」
「そらそうよ。この界隈で組合に入ってねえ店なんてコンビニとファミレスとブックオフくらいよ」

***

 上野の地下街。その端っこの寂しい壁にそのドアは唐突に生えていた。ドアには表札もなく、あたりには看板もなく、ただドアに1枚のザクロの写真が貼られていた。

「いかにも怪しい店だなあ」
「店主が気取ってンだよ。怪しい店のがツウっぽいからってよ……。邪魔するぜナリタァ~」

 吉村が乱暴にドアを開けると正面のカウンターに座って新聞を呼んでいた男が「わっ」と声を上げた。ロシア帽を被った中年人類男性!

「こいつはナリタだ。変なもんばっか仕入れてるから上野のボスに一目置かれて人間なのに店構えるの許されてる……。よぉ~、ピョンピョンは元気してるか?」
「吉村ァ、表で気軽にその名前出すなよ! 消されるぞ! なんの用だよ! 金ならねえぞ!」
「買い物しに来てやった客にその言い草はねえじゃねえかよ……。こいつに「泳ぎ」のパーツ売って欲しいんだよ」

 吉村がポンとマシーナリーとも子の背中を叩いて促す。

「おう……マシーナリーとも子よ。"船"と泳いで勝てるパーツを売ってもらいてえ」
「船え? 何言ってんだお前」

 マシーナリーとも子はかいつまんで話した。回転体水泳大会のこと、ウィリー美樹のこと……。

「そりゃまさしく船とケンカしようって話だな。人間の俺にはよくわからんが……」
「要するにそうだが問題はそうじゃねーんだよ。回転体なんだよ。プライドの問題だ……。ヤツには回転体もそれを補う装備もある。だが回転体のことなら私だって負けてねーと思ってる。足りないのはそれを補う別の装備だよ」
「つまりお前も…船になりてえってこったな」

 ナリタがカウンターの端に置かれた招き猫に手を伸ばし、その頭をグイと捻る! にゃーんと猫の鳴き声が店内に響いたかと思うと、マシーナリーとも子の足元の床板が発光する! やがて床が90度開くように展開するとそこには光り輝くモーターボートのドライブユニットが無数に懸架されていた!

「こいつぁ……」
「サイボーグの装備はよくわからんが……吉村の装備のことを考えるならアンタがつけるなら船外機しかない」
「しかないって言われてもどれのことだかわからねーし他になにがあるのかわかんねーんだけど」
「簡単なことだ。モーターボートの動力には内蔵タイプと外付けタイプがある。船内に取り付けられたエンジンからシャフトを繋いで外のスクリューに繋げるのがいちばん普通の内臓式。ほかにもスターンドライブとかポッドドライブとか色々あるが、まあ覚えなくていい。基本的に船内にエンジンをつけてて、ドライブをどうするかってのが内蔵式だ。外付け式はエンジンとドライブがセットになってて、それを船のお尻に取り付ける感じだ。アンタの腹を掻っ捌いて中にエンジン詰め込むわけにゃいかないだろ? だから外付け式しかない。そしてウチで外付け式でいちばんイイのはこいつだ」

 ナリタは棚の一番右上に架けられている機械を手に取った。まばゆいばかりのゴールド塗装を施された、大きめの炊飯器のような物体。その下部に無骨なタンク様のものが繋がっており、そこからは複雑な三次曲面を持つ3枚のスクリューが鈍い輝きを放っていた。炊飯器の天面には黒い筆文字状フォントでこうプリントされている……「皇帝」と!


「ヤマザキのエンペラー・アウトボードエンジンだ。キャッチコピーは"あなたのボートは今、星の海へ"」
「すげえパワーってこと?」
「出力もすごいしこのスクリューがポイントだ。フチはフィルムの様に薄く、根本に向かうにつれて辞書のように厚くなる。こいつがパワフルに水を掻き分け、推進力を生み出すんだ。さらに素材は隕鉄でできてる。去年長野県に流星雨が降ったろ? ヤマザキは違法労働者を派遣してその隕鉄の6割を回収したって話だ」
「違法なのかよ?」
「もちろん公にはなってない……。あくまで奴らはこの素材は自社工場で生み出した新素材ということにしてる。こいつをアンタには2基つけてもらう」
「1基じゃダメなの?」
「船に勝ちてえんだろ? 1基じゃただ速いだけだ。2基つければ化け物になれる」
「まあ速さが倍だもんな」
「倍だと思うか? かき分けた水はこいつのパワーでそれ自体が加速する。加速した波を隣のスクリューが捉える。船も水もさらに加速する。加速した波はさらに隣のスクリューが捉え……2基つけたときのスペックは2倍じゃない。2乗だ」
「そんなことある?」
「だが気をつけろ。この船外機を2基つけて帰ってこられたモーターボートは無い。みんなバラバラになっちまった」
「そんなもん勧めんなよ!」
「アンタがサイボーグだから勧めるんだよ。このパワーに耐えられるのは……人間が作ったものじゃねえ。シンギュラリティのサイボーグならイケるはずだ」
「ホントかな……吉村、どう思う?」
「やってみりゃいいんじゃねぇの〜?」
「軽ーい! お前私がバラバラになってもいいのかよお!」
「まあほら……そういうときは名誉の戦死ってことでよ」「死にたくねぇよ〜!」

 こうしてマシーナリーとも子は船に打ち勝つための「皇帝」を手に入れた……。決戦は週末!

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます