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マシーナリーとも子ALPHA ~徳の容れ方篇~

「うんとこしょ」
「どっこいしょ」

 ダークフォース前澤とエアバースト吉村が力を込める。それでもサインポールは抜けません。

「けっこう深く挿さってるなあ」
「爆破とかしたら傷ついちゃいますしね」

 額の汗をぬぐって思案する2機。そのとき、耳に恐るべき憤怒の声が刺しこまれるように響いた!

「お前らァーー!!!! うちのサインポールになにしてやがる!?!?!?!?」
「えああ!?」

 吉村と前澤はギョッとして声がした方向……床屋の出入り口に目線を配る! そこに立っているのは鬼の形相で仕事道具を両手いっぱいに持った床屋の親父!!!

「ああーっ!? なんだよ! 鎖鎌もう逃げられたのかよ!」
「いや見てください! あいつもう捕まって椅子に座らされてますよ!」

 窓から中を見ると理容用チェアーに座らされ、クロスを巻かれた鎖鎌が! 親父の軽快なトークに流されてしまった鎖鎌は時間を稼ぐひまもなく座らされてしまったのだ。床屋に行ったことのないみなさんは「なんだ、だったら立って助けにくればいいじゃないか」と思うかもしれない。だが床屋の椅子とクロスには不思議な呪術が施されており、ここに当てがわれた客は理容師の手による解呪……クロスをほどいてもらわない限り、自らの意思で立ち上がるのは至難の業なのだ! 鎖鎌にできるのはただおどおどと外を眺めるだけだ!

「許さねぇーっ!!!」

 親父は右手にハサミ、左手に梳きバサミを持って突撃! その速力は大したことはなく、チョキチョキとハサミを操る腕は怒りでフラフラしていておぼつかない! ……しかし!

(……動きが読めない!?)

 吉村と前澤は左右にステップして床屋の突撃を交わす! だが!

「グワァーっ!?」
「前澤ーッ!!」

 飛び退いた瞬間、前澤のセーターがズタズタに引き裂かれた! 梳きバサミでのガムシャラな斬撃は、前澤のボディを確かに捉えていたのだ! 荒荒しい切断面がその破壊力の恐ろしさを物語っている!

「前澤! 大丈夫かーっ!」
「ううっ、そ、袖が!!!」

 前澤がうずくまる! それほどのダメージなのだ! 袖がズタズタだ!

「許さねぇーっ!!!」

 親父は180度ターンし、右手にハサミ、左手に梳きバサミを持って突撃! その速力は大したことはなく、チョキチョキとハサミを操る腕は怒りでフラフラしていておぼつかない! ……しかし!

(動きが読めねぇーっ!)

 吉村は自慢の脚力を活かしてハイジャンプ! 間一髪で床屋の突撃を交わす! だが!

「うぎゃーッッッ!!」
「よ、吉村さーーーん!!!」

 吉村のジャンプが最高点まで到達したかと思われたそのとき! 吉村の長い髪の毛がパラパラと切断された! 胸ほどまでに伸ばしていたロングストレートが首ほどまでのミディアムに!

「吉村さん! 大丈夫ですか!」
「ううーっ! 髪がーっ!」

 吉村は未練がましくカットされた髪の毛を寄せ集める! さながら羅生門の老婆の如く! だが背後には床屋が迫っていた!

「許さねぇーっ!!!」

 親父は右手にハサミ、左手に梳きバサミを持って突撃! その速力は大したことはなく、チョキチョキとハサミを操る腕は怒りでフラフラしていておぼつかない! 

「吉村さん! 床屋が来てる! 逃げるんだーっ!」
「……なぬ!?」

 吉村が驚いて振り向くと眼前に床屋! 避けられない! 吉村は観念して瞳をギュッと閉じる!

「えいやーっ!」
「うわぷっ!」

 そのときである! 間の抜けた叫び声とともに白い布が投げ込まれ床屋の親父を覆った! 床屋からとびだし、布を投げつけたのは……鎖鎌だ! 鎖鎌は強靭な精神力を持って床屋の椅子の呪縛から脱し、自らの首にかけられていたクロスを得物の鎖鎌の分銅にくくりつけて回転、遠心力で投げつけたのだ!

「鎖鎌ーっ! いいタイミングだぜ!」
「早くサインポール抜こう!」
「よーしいくぞー! うんとこしょ!」
「どっこいしょ!」
「もう少しで抜けるぞ!」
「うおおおーっっ!!!」

 ジョキン!
 あとひと息でサインポールが抜けようかと思われたそのとき、一同の耳に無慈悲な切断音が鳴り響く! 床屋の店主がクロスを引き裂いて解放されたのだ!

「許さねぇーっ!!!

 親父は肩から下げた道具入れにやおらに腕を突っ込むと山ほどカミソリをとりだし、シンギュラリティ一行に投擲した! 危ない! こんな危険なものを投げられたら全員ズタズタに切り裂かれてしまうぞ!

「こんちくしょーっ!」

 髪の毛を切られた憤怒に身を任せてエアバースト吉村が前に躍り出る! 高速で回転し始める錠前のナンバー! あまりに高速で回転しているため何度もロックが解除されガチガチと掛け金が上下し、シリンダーから蒸気が噴出される!
 吉村は深く息を吸うと襲い掛かるカミソリに向かって的確かつ超高速のパンチを叩き込んだ! サイボーグに伝わる音速の格闘術、サイバーボクシングだ!
 正確に真逆のベクトルのパンチを叩き込まれたカミソリたちは、キレイに元の場所に向かって飛んでいく……床屋の親父の元に!

「ギャアアーーーーッ!!!」

 全身にカミソリを叩き込まれた床屋の店主の身体がズタズタに引き裂かれる! 

「その首、もらったァーッ!」

 間髪入れずにダークフォース前澤が吶喊! 脚部スラスターを全開にした高速機動だ! 前に突き出されたのは殺人格闘兵器トング!

「ぐぶぶっ!!!!」

 前澤はトングで床屋の頭部を鷲掴みにすると左手首を高速回転させて首をねじり切った! フェイタリイティ!

「私たちの勝利だぁーっ!」
「だぁーっ!」

 エアバースト吉村が勝鬨をあげる! つられて鎖鎌も声を上げる! シンギュラリティのサイボーグたちは力を合わせて恐るべき床屋との戦いに勝利を収めたのだ!

***

「これでよし……と」
「お、おお~!」

 クラフトワークささみが慎重にサインポールを取り付ける……。パワーボンバー土屋の修復が完了したのだ!

「どうだ前澤、こんなもんか?」
「すごい……外見は完璧ですよ! 損耗してなくなっちゃってたところもあっただろうに! 寸分たがわず土屋ですこれは!」
「へっへ~。まあ前にも言ったようにキレイに斬れてたからね。もちろん私たちの腕がいいからってのもあるけどね。ねえ森繁ちゃん?」
「無論だ。私の縫合技術は完璧だ」
「それで、これからどうするんだい?」
「どうするって……」

 ささみから問われて前澤は困った。どうするんだろう。そんなこと知らんが。見た目は完全に直ったが目を閉じ、直立不動で静かに佇んでいるパワーボンバー土屋から生気は感じられなかった。

「よくわかんないですけど、回転体は手に入ったし回したらどうにかならないんですか?」
「そんなサイボーグは単純じゃないんだよ~。掃除機じゃないんだからさ。電源入れたらポチっと動き出すようなもんじゃないんだって」
「バラバラになったサイボーグが蘇った例はないんですか?」
「そうだねぇ~~……。森繁ちゃんは知ってる?」
「うぅ~ん、私の経験だと無いが……病院に戻って記録を遡ってみればあるいは……」
「あれぇ?」

 素っ頓狂な声を聞いて前澤は土屋のほうを振り返った。鎖鎌だ。何やら土屋の身体を撫でながらなにか不思議そうな顔をしている。

「なにやってんだ鎖鎌」
「いやなんか……私……?」

 そう言いかけると鎖鎌は突然背中から倒れた。

「!? オ、オイ!!!」

 床に激突する直前で前澤はなんとか鎖鎌を受け止めた。だが……。

「エッ?!」

 軽い。鎖鎌の身体が、妙に軽いのだ!

「おーい前澤さん。こっちこっち」
「は?」

 ダークフォース前澤の背後から妙に懐かしい声が響いた。……振り向くとそこから笑顔で話しかけてくるのはパワーボンバー土屋だった。

「え?」
「いや……私。土屋さんじゃなくて鎖鎌」
「は?」
「なんか……よくわかんないけど中に入れちゃった」
「はっ?????????」
「だから私なんだって! なんか今土屋さんの中にいるの。私が。鎖鎌ちゃんが!」
「えっ……ええ!?!?!?!?!?!?!」

 前澤は土屋……鎖鎌に掴みかかった。なんで? 意味がわからない。どうして?
 救いを求めてささみと森繁に視線を向けると彼女らは関わりたくないとでも言うかのように目を背けた。

「え……全然わからん……。お前……鎖鎌、なのか?」
「なんかそうみたい。あ、いや多分戻れるけど……」

 ガクン! と土屋の身体が力を失うと代わりに鎖鎌がむくりと身体を上げた。

「アハハハハ……。なんか入れ替われた。不思議だね~」
「いや……お前……え????????」

 前澤の感情は迷子になっていた。どういうこと??? 土屋がどうこうというより……鎖鎌、お前はなんなんだ? マジで……。徳人間って、何???

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます