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マシーナリーとも子EX 〜貫く怪魚篇〜

「シューッ!!!」

 豊洲市場関係者を丸呑みしたサイバーツナは雄々しく雄叫びを上げる! その姿をパワーボンバー土屋は冷や汗をかけながら見上げていた。

「なんかやべぇ〜の出てきましたよ水縁さん!」

 ターンテーブル水縁は首のターンテーブルを高速回転させ、そこからぶら下がる武装カーテンの様子を確かめながら舌なめずりした。

「噂には聞いたことがある。各地の海で猛威を振るう半機半魚の怪物サイバーツナ……。だが奴らと繋がりがあったとは……ムッ!」

 水縁はサイバーツナが姿を表した市場、パワーボンバー土屋がぶち空けたその大穴に注目する! そこから出てきたのは……慌てた様子のイルカ! 尾鰭で立ち、その頭には奇妙なカプセルを被っている!

「ついに掴んだぞ!」
「エッ?」
「パワーボンバー、こいつはお前さんに任せた!」
「エッ?」

 言うが早いかターンテーブル水縁は駅の空中通路からジャンプ、市場へと全力ダッシュする!

「エッ? こいつって……」

 パワーボンバー土屋はおそるおそる見上げる。口から蒸気を噴き出すサイバーツナの凶暴な眼差しと目が合う!

「こいつ?」
「シューッ!!」

 サイバーツナの強烈なアゴが豊洲駅を噛み砕く!

***

「キューッ!(やばいぞ! サイバーツナが1匹逃げ出した!)」
「キューッ!(空中機動用のプロトタイプだ! やばいぞ! 技術試験班が来るのは明日だぞ! ロストしたらコトだぞ!」

 慌ててサイバーツナの姿を目で追うイルカたち!
ツナは豊洲駅上空でもんどりうち、駅周辺に対して噛みつき、ツナ缶ミサイル、左目レーザースコープからの殺人光線などで破壊の限りを尽くしていた!

「キューッ!(ハイパーウルトラソニックブースターはまだ使えないのか? あれで制御できるはず)」
「キューッ!(あれは一昨日ネッドがカニを前に歩かせるのに使って壊しちまった)」
「キューッ!(クソッ! あの大馬鹿野郎はネズミの尻尾にでも巻かれてろってんだ!)」

 その時! ガンと音が鳴りイルカたちの足元(正しくは尾鰭元と表記すべきだが便宜上こう表記する)のアスファルトが砕ける!

「キューッ!?」
「やあやあお魚さんたち……。いや、イルカは哺乳類だったかな?」

 ターンテーブル水縁! その武装カーテンからアサルトライフルを選択し5.66mmヴァーチェ弾をイルカの足元に放ったのだ! 

「キュッ、キューっ!!!!!!!」

 イルカたちが焦ってヒレでその顔を隠す!

「フン、自分たちの存在は知られたくないということか……。無駄だがね。君たちに聞きたいことがあるんだがね?」
「キュッ、キュー!!!!!」

 イルカたちはその言葉を受けるとキッと水縁を睨みつけ、背中に折りたたんでいたパイプを取り出す! 水縁は徳でその危険性を察知し、大きく横にステップした! 次の瞬間、水縁が立っていた場所が火炎放射で薙ぎ払われる!

「そうかい、素直にゲロる気はないって事かい!」
「キュキュッ、キュー!!!」

 イルカの号令! すると市場の奥からさらに十数人のイルカが巨大なカニ、クラゲに乗って現れる! その手にはやはり火炎放射!

「やる気だねえ……。かかってきな!」

***

「ンギャーッ!」
「シューッ!」

 サイバーツナが空中を泳ぐ! 泳ぐ! 魚が空を泳ぐとは奇妙な光景だがこれはこのツナがアトランティスの……イルカの聡明な頭脳により強化された改造型だからなのだ!
 その身体の後ろ半分ほど、背鰭の下あたりにご注目されたい! 緑色に発光するラインが走ったアーモンド状のデバイス! これがツナの巨大を浮かせるための反重力装置だ! そしてその下のエアインテーク! これは空気中のエーテルを捉えるための吸気口! エーテルをエネルギーとし、後方の推進装置へと伝えることでこのサイバーツナは空中を泳ぐごとが可能なのだ!

「シューッ!」
「ンギャーッ!」

 サイバーツナが豊洲駅の通路を砕く! 砕く! もはや豊洲の駅舎は穴だらけのチーズのようだ! 逃げ場を失った土屋はやむを得ず線路に飛び移る!

「シューッ!」

 サイバーツナの背中からツナ缶ミサイルが4発発射! 土屋に迫る!

「こんちくしょー!」

 土屋は飛び上がって両手両足のロケットパンチを斉射! ツナ缶を弾き返す!

「シューッ!」

 ボガン!! 弾き返したツナ缶ミサイルはサイバーツナの表面で爆発! だがサイバーツナはケロリとしている! 戦艦の装甲は自艦の主砲の直撃に耐えられるよう作られている……サイバーツナも同じなのだ!

「シューッ!!」
「ウワーッ!」

 左目レーザースコープから殺人光線発射! 土屋は戻ってきた左足ロケットパンチで慌てて地面を蹴り、すんでのところで回避!

「ちくしょ〜! どうすんだこれ〜…」

 その時! 地面…いや、線路が揺れる!
 土屋が振り向くとそこには運転手なしで自動で走行するモノレール、ゆりかもめが悠然と向かってきていた!

「シューッ!?」
「こ、こいつだ!」

 土屋はゆりかもめに向かって跳躍! 着地の寸前、振り向いてネイルガンをツナに発射!

「シュ、シューーーーッ!!!」

 続いて足ロケットパンチをゆりかもめに向かって射出! 大穴を開け中に侵入! 足ロケットパンチ装着! 下にはちょうど人類の客が座っていたが突然即死! 辿り着いたのはゆりかもめ最先端! ガラスを通じてサイバーツナと向かい合う!

「こいつでぇ!」

 土屋はゆりかもめの床に向けて腕ロケットパンチを射出! ロケットパンチは床をぶち破り、中からゴソッとケーブルを掴み取った!

「どうじゃーーーーーい!」

 ロケットパンチ接続! その瞬間、土屋は体内の擬似徳リアクターから発せられる全エネルギーをゆりかもめに流し込み超加速!

「シュっ……!?!?」

 ネイルガンで撃たれて怒り、ゆりかもめの真正面に来ていたサイバーツナ! その大口の中に巨大な弾丸と化した車両が撃ち込まれた!

 気づけば車両は加速と衝撃で宙に浮いていた。

「……どうなった!?!?

 土屋は上も下もわからない状態で必死に車両から脱出! そこから見えたのはゆりかもめの後方、尻に大穴を開けたサイバーツナの壮絶な姿! ゆりかもめアタックでその身体を貫いたのだ!

「よっしゃあ!」

***

「……さぁーて」

 一方、市場サイバーツナファクトリー内部は地獄絵図となっていた。床一面にはまるでマグロ解体ショーの如くイルカと巨大カニの屍肉、体液が混ざり合い排水溝へと音を立てて流れていった。生きているのはターンテーブル水縁以外ただひとり……その手に首を掴まれたイルカの生き残りだけだ!

「キュッ、キュイーン」
「話してもらおうか? 君たちの組織について……豊洲を占拠した目的について……このところ地上への進出活動が目立つ理由について……!」
「ギュイッ! ギュイギュイギューい!!!!」
「!!!」

 水縁はとっさにイルカを投げ飛ばした! 次の瞬間、イルカの身体が大爆発! 体内に仕込んでいた小型核爆弾が爆発したのだ! 豊洲市場の放射能濃度が急激に上昇! だがサイボーグには効かない!

「……しかしこれでは」

 水縁は懐からガイガーカウンターを取り出し、その耳障りな駆動音を聞いて舌打ちした。

「しばらくこの市場は使えない……! 得るものは少なく、失ったものは大きく、か……」

***

「イルカの死体?」

 水縁から手土産だと言って渡されたそれを受け取りながら土屋は混乱した。グロいし臭い。

「そうだ。大事な戦利品だぜ。お前さんにはつまらないものに見えるかもしれないが…」
「つまらないってより汚いスね」
「うん。その汚いものはシンギュラリティにとっちゃこの上ない情報さ。アトランティスの名前とともにそいつをモレキュラーシールドに見せてやりな」
「モレ…?」
「ああ違った。今はドゥームズデイクロックだったな…。まあとにかく、どでかい情報になるはずだ……。私から直接シンギュラリティに今知ってる情報を伝えるわけにはいかない。あとはそちらさんで推理してくれ」
「わかんないけどわかりました」
「ハハ…お前さんらしいな。確かにいつもまったくわかってなさそうでわかってたよな」
「はいい?」
「お前さんのわかってなさ、私は好きだったよ……また会おうパワーボンバー」
「え?」

 そう言うと水縁は地面を蹴り、武装カーテンを拡げていずこかへと跳躍した。

「えーっ! ちょ、ちょっと水縁さーん! 終わったんなら一緒に帰りましょうよう!」
「現地解散でいいだろう! また用があったら遊びに行くよ……みんなによろしくな!」
「ええーっ! 私イルカ持って電車乗るんですかあ!? 1機でえ!?」
「ロケットパンチで持って外出しとけよ! じゃあな!r
「あっ、そっか」

 得心したときには水縁の姿はもう見えなくなっていた。不思議で短く、急に始まった旅は急に終わった。土屋を、どこか寂しいような胸の痛みと生臭い臭いが襲った。後者はイルカの死体からだった。

「おえ……。悪くなる前に帰ろっか。暑いし」

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます