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【ロック少年・青年・中年・老年小説集】「中年からのバンドやろうぜ1…〈肥満とブルーズ、減量とロック⑪〉~ブルースハープを習おう2~」

ユキオは、ブルースハープ教室に通いだした。

土曜日午後、渋谷。


ユキオは以前、バンドをやっていた頃にホーナー社製のブルースハープを一揃い買っていた。

ステージ用としてというよりは、自作曲の録音ようであった。
ハーモニカ用のマイクもかっていた。

セカンドポジションにフィフスポジションはなんとか理解してはいた。
ギターコードでいえばセカンドポジションは1弦下に移動させたコードのハーモニカを選択すればよかった。

ユキオの歌うときのキーはだいたいB前後で、EかDのハープをハーモニカホルダーにつけて吹いていた。


今回のハーモニカ教室ではCのハーモニカが指定されていた。
すでに持っていたトンボのメジャーボーイのⅭを使うことにした。


最初の授業…ユキオは、まあまあ自分は吹けるのではないか…
そう思い込んでいたが…実際は自分の我流のいいかげんな技量を
思い知らされることになったのであった。

ベンドというブルースハープ特有の技術がある。
ベンドは音を下げる技術である。

ハーモニカには空気が通る穴に弁がついていて、
その形というか、状態で音程が設定されている。

10ホールズといわれるように、
孔が10個しかないのに、3オクターブある。
同じ穴でも吹くとドで吸うとレというように、
普通のハーモニカとはことなる構造だ。

半音や音がないところもある。
で、どうするかといえば…
音を下げることで、音数を増やすわけである。

3穴は1音半下げることができるという。

ほんまかいな…じゃあ、リトルウォルターとかの演奏は、
ベンドができなきゃ吹けないってことか…


先生が、ベンドの説明をして、
やってみせてくれる。

相変わらず、クリアで音量が大きく、
ほれぼれする。

あまりにもきれいに音が下がるので、
なんだか簡単にできそうでもある。

「では、みんなで吹いてみましょう」
3穴をまず、半音下げる。
続いて1音下げる。
1音半はできるだけでいいのでやってみましょうとのこと…。

なんか下がっている…半音はできたか?
だが、1音がどうしても下がらない…

しばらく練習した後に、
一人ずつ吹いて、先生がチェックをする。

ユキオの番がきた。
半音は下がった。
しかし、1音は無理。

「コグレさんのはフェイクといって、
唇の形を細くしてやっているようですが…
それでは1音は難しいでしょう。
最初に、教えたように、唇を使わないで、
ストローで吸うように…喉を細くするイメージで、
ゆっくり吸ってみましょう」

確かに、先生は唇は力をぬいて、
3穴いっぱいに吸うように言われていた…
しかし、緊張もあり、どうしても我流がでてしまう。

「はい、喉を、気道を細くして、口先だけでなく、
喉、気管を使って吸い込んでさげるように…
喉を狭めることで、楽に下がりますから…」

そんなこといったって無理にきまって…
あれえ?

下がった。
1音とまではいかないが、
確実に下がった。

「おお、いいですね。
いまのイメージで、
続けていけば楽にベンドをマスターできますから…
焦らずやっていきましょう」

視界が広がる…
呼吸は大変だし、疲れるが…
ハーモニカは空気を肺いっぱいに入れることもある。

明るい気持ちが湧き上がるようだった。