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英国執事の流儀(日の名残り/カズオ・イシグロ)

イギリスのダーリントンホールに長年仕える執事・スティーブンスが、6日間の短い休暇をもらい田舎町を車で旅しながら、様々な思い出を振り返る物語。
胸に秘めてきた「品格」に対する考えやダーリントン卿への敬慕、ホールで開催された国を揺るがすほどの重大な会議、同じく執事だった父や女中頭との間に起きた出来事を、ゆっくりと振り返りながら旅をする。そして最後には件の女中頭、ミス・ケントンと再会を果たす。

旅の描写はイギリスの田園風景とちょっとしたトラブル、地元の人との簡単な交流のみで、物語の主軸はあくまでスティーブンスの執事人生の回顧だ。
何よりも品格を重んじ、主人を心から慕い、自己犠牲も厭わない真面目な英国紳士。彼の穏やかな語り口調で進行する物語は驚くほどスルスルと胸に入ってきて、これが英国紳士たる所以か?翻訳が素晴らしいだけなのか?と不思議に思うほどだった。

スローな一人旅をしながら人生を振り返ると、どうにも人は感傷的になってしまう。あの時ああすればよかったと後悔の念が沸いてきて、それでも前を向いて歩かなきゃねと、自分を奮い立たせて帰路に就く。
スティーブンスが旅の締めくくりに夕焼けを眺めながら、もっと執事として必要なジョークの練習をしようと心に決める、その瞬間がとても美しかった。

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