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設定勝ち(#真相をお話しします/結城 真一郎)

5編のミステリ短編集。1冊4時間くらいあれば読めてしまう軽い文量なので、「大どんでん返し」と宣伝されてたわりに「え、そんなのアリ?」となるオチも含まれていたが、総じて設定が秀逸だった。
作者は91年生まれでまだ若いこともあり、今っぽい設定をミステリに落とし込むとこうなるのか…という感想。

※※以下、盛大なネタバレ含みます※※


『惨者面談』
東大の大学生が、バイトで家庭教師の営業に行く。しかし応対する母息子の様子がおかしい。実はこの母は偽物(殺人犯)で、ご近所トラブルで恨みを買った本物の母は、この時殺されてトイレに押し込められていた。大学生によって通報され、事件解決。

『ヤリモク』
マッチングアプリで年齢をサバ読み、若い女の子とワンナイトを繰り返す
アラフォー妻子持ちクズ男の話。と思いきや、実は男の娘がパパ活をしていて、娘を止めるため娘に似た女の子を選び成敗していた…というちょっと無理のあるオチだった。

『パンドラ』
これ、いちばん面白かった。
不妊に悩む夫婦がやっとのことで子供を授かり、その経験から夫は妻公認のもと、精子提供を行うことを決める。そしてただ一度だけ、なぜか急いでいる独り身の女性に精子提供を行ったが、十年以上が経ちその娘が面会に来て、理由を知る。当時、彼女の母の夫が殺人事件を起こし逮捕され、我が子が殺人者の子にならないよう「精子の上書き」をするためだった。
血液検査の結果、「断言はできないけれど、これであなたが父親である可能性を信じることができた」と娘は安堵し、ちょっといい話として終わる。
と見せかけて話は一変。彼が一緒に暮らす自身の子供は、もしや妻が外で精子提供を受けてできた子供では?という疑惑が出てくる。
本当のことは知らなくていいと諦める主人公の選択は、平野啓一郎『ある男』のエンディングを彷彿とさせた。

『三角奸計』
リモート飲み会で集まった学生時代の男仲間たち。社会人になり地方へ転勤した面子も含めて飲み会は進むが、友達の画面に一瞬写り込んだ女性が誰かの不倫相手で、殺人事件に発展していく。
設定は抜群に面白いけれど、トリックはだいぶ無理があるような。。

『拡散希望』
離島で暮らす4人の小学生が、初めてスマホに触れたことをきっかけにYouTuberを夢見る。が、実は彼らの親こそが著名なYouTuberで、自身の子供たちをこっそり晒して収益を得ていた、というオチ。
私もインスタに晒されて小遣い稼ぎの道具にさせられている子供を見て、彼らは成長して状況を理解したときに何を思うのかな、と考えていたことがあった。ミステリというか、今後リアルに出てきそうな話。


いかんせん一編が短いので、オチを知ったうえでもう一回読みたくなる!という類のものではないが、とにかく設定が強いの一言に尽きた。


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