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8)② 国土と国民生活

    国土
    国民生活
    職業

 国土と国民の関係や国土と共にある国民の生活と、氏家から発生した仕事=職業などについて国体の上から詳述し、国民は国土や仕事をどのように捉えて生活してゆくべきかを述べています。

        【口語訳】

   国土と国民生活

《国土》
 わが国土は、語事によればイザナギノ尊・イザナミノ尊・二尊の生み給うたものであって、我らと同胞の関係にあります。

我らが国土・草木を愛するのは、こうした同胞的親和の念からです。即ちわが国民の国土愛は神代よりの一体の関係に基づくものであって、国土は国民と生命を同じくして、わが国の道に育まれて益々豊かに万物を養い、共に大君に仕え奉るのです。

 かくて国土は、国民の生命を育て、国民の生活を維持進展させ、その精神を養う上に欠くべからざるものであって、国土・風土と国民との親しく深き関係は、よくわが国柄を現しており、到るところ国史にその跡を見ることが出来ます。

 遠き祖先よりの語り伝えがわが国性を示し、天皇御統治の大本を明らかにするものとして、撰録されて古事記となり、編纂されて日本書紀となりましたが、これに伴って風土記の撰進を命ぜられたのは、わが国体と国土との深い関係を物語るものです。
ここに「古事」と「風土」との分つことの出来ない深い関係を見ます。

 わが国の語事に於ては、国土と国民とが同胞であることが物語られています。
わが国民の国土に親しみ、国土と一になる心は非常に強いのであって、農業に従う人々が、季節の変化に応和し、随順する姿はよくこれを示しています。

それは祭祀を中心とする年中行事を始め、衣食住の生活様式の上にまで行き亙っています。

 万葉集に見える「吉野宮に幸せる時、柿本朝臣人麿の作れる歌」に、

  「やすみしし 吾が大王 神ながら 
         神さびせすと 芳野川」

  「たぎつ河内に 高殿を高しりまして登り立ち 国見をすれば畳はる青垣山 山祇の奉る御調と春べは 花かざしもち秋立てば 黄葉かざせり ゆきそふ川の神も大御食に 仕へ奉ると上つ瀬に鵜川を立て 下つ瀬に小網さし渡し 山川も依りてつかふる神の御代かも」

       反   歌
  「山川もよりてつかふる神ながら
       たぎつ河内に船出せすかも」

とあります。
この歌を誦む者は、わが国民の国土・自然を見る心を知ることが出来るでしょう。

即ち国民も国土も一になって天皇に仕えまつるのです。国民はこうした心を以て、国土・自然と親しみ、その中に生活し、又それによって産業を営むのです。

●これは神代に於て、天ッ神が我らと国土とを同胞として生み給うたところから出づるのです。

《国民生活》
 この本を一つにする親和・合体の心は、わが国民生活を常に一貫して流れています。
この精神のあるところ、国民生活は如何なる場合にも対立的でなく、一体的なものとして現れて来ます。

 わが国に於ては、政治上・社会上の制度の変遷にも拘らず、いつの時代にも常にこの心が現れています。

古くは氏族が国民生活の基本をなし、経済生活の単位であって、それは天皇の下に同一血族・同一精紳の団体を成しました。

即ち各人は氏に統合せられ、多くの氏人の上に氏上があり、これに部曲の民が附随し、氏・部としての分業分掌があり、職業によってあらゆる人と物とが相倚り相扶けて、天皇を中心として国家を成しました。

 それぞれの氏族内に於ては、氏上が氏神を祀り、氏人も氏上と一体となって同一の祖先を祭るのです。
この祭祀を通じて、氏上と氏人とはただ一つとなって祖先に帰一します。
そこに氏の政事もあり、教化もあり、またその職業もあります。こうしてこの一体たるものを氏上が率いて朝廷に奉仕しました。

 この様な親しい結合関係は、国史を通じて常に存続していました。
◆これは自我を主張する主我的な近代西洋社会のそれと全く異なるものであり、国初より連綿として続く一体的精神と事実とに基づくものであって、わが国民生活はその顕現です。

●そこには、一家・一郷・一国を通じて必ず
融和一体の心が貫いています。
即ち天皇の下に人と人、人と物とが一体となるところにわが国民生活の特質があります。

これ、義は君臣にして情は父子という一国即一家の道の布する所以であり、君民一体となり、親子相和して、美しき情緒が家庭生活・国民生活に流れている所以です。

《職業》
 氏族に於ける職業の分掌は、やがて家業尊重の精神を生んでおり、家業の尊重は家名、則ち名を重んずることとなります。

わが国の古代に於けるは、個人の氏名の意味ではなく氏の職業が名です。ここにわが国民の職業を重んじ、家名を尊重する精神を見ることが出来ます。

 勤めの尊重は、宣命を始めとして多くの史実に見られます。天武天皇の御制定になった冠位の名称にも勤務追進の文字が用いられています。
この勤務尊重の精神は、生産・創造・発展の
むすびの心であって、わが国産業の根本精神です。この精神は古来、農事に於て最もよく培われました。

●豊葦原の瑞穂の国というわが国名は、国初に於ける国民生活の基本である農事が尊重されたことを示すものであり、年中恒例の祭祀が食事に関するものの多いのもこの精神の現れです。

天照大神を奉祀する内宮に並んで外宮に豊受大神を奉祀し、上、皇室を始め奉り、国民が深厚なる崇敬を捧げ来ていることにも、深く思いを致すべきでしょう。

 国民の職業が農業の外に、商業・工業等種々なる方面に分岐発展している今日に於ては、農業を尊重すると同じみ心は、これらのあらゆる産業についても窺うことが出来ます。
 昭憲皇太后の御歌に、

  「ひのもとのくにとまさむとあき人の
        きそふ心ぞたからなりける」

と詠まれて、商業の重んずべきことを示し下さっています。我らはよくこの精神を拝して、時勢の進運に伴い、各々その職業に勤しまねばなりません。


    〜〜漢字の読みと意味〜〜

天ッ神 アマツカミ/天地創造を成した唯一神=主神
部曲の民 カキベのタミ/大和朝廷時代の豪族の私有民
分業分掌/仕事や事務をいくつかに分類し、その一つを受け持つこと
宣命 センミョウ/和文で宣命書きにした詔ミコトノリ
豊葦原の瑞穂の国 トヨアシハラミズホノクニ/神意によって稲が豊かに実り栄える国の意、日本国の美称


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