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【これからのスポーツビジネスはどうなるのか】ツール・ド・ニッポンの“仕掛人”に聞いてみた

コロナウィルスの影響でマラソンなどといった「メガ・スポーツイベント」は次々と中止が決定し、J リーグやプロ野球などといった各種競技のプロリーグも再開延期を余儀なくされていた。


僕たちスポーツファンは、この状況にストレスを覚えた。

スポーツならではのあの“感動”を味わえる日々は戻ってくるのか…

そんな中、次なるビックチャンスを虎視眈々と狙い、「スポーツイベント」の力をもって「地域活性化」を実現させようとする人物に、これからのスポーツビジネスについて聞いてみた。

中島 祥元 (nakashima yoshimoto)

1976年富山県高岡市生まれ。

早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、スポーツ関連ベンチャーの立ち上げに参加、のちに取締役を務める。 UCI(国際自転車競技連合)主管の国際大会のオーガナイズに参画。

2009 年株式会社ルーツ・スポーツ・ジャパンを設立、2012 年一般社団法人ウィズスポ(現一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)を設立し両法人の代表。

これまでにプロデューサーとして、自転車、ランニングを中心とした大小様々なスポーツイベントの立ち上げから企画運営、スポーツによる町おこし・地域活性化事業、公共スポーツ施設の事業開発等に従事。スポーツツーリズムやサイクルツーリズムの分野では官公庁の行政委員も多数務める。

ーーさっそくですが、中島さんは「ツール・ド・ニッポン」やマラソンやサイクリングイベントを含めた「500」のスポーツイベントに関わられてきました。スポーツイベントを開催させるにあたって重要な事は何だと思われますか?

「そうですね。まず、『スポーツイベントを開催させるにあたって重要な事』ってめちゃくちゃ幅広いですよね。ただ、その中でも、もっとも根本的に重要なことは『イベントを開催する目的』をしっかり定義すること。そして、関係者間で正しく共有することだと考えます。例えば僕らはランニングや自転車を使った『地域活性化』のためのスポーツイベントを数多く開催していますが、一口で『地域活性化』といっても、『地域外から多くの方に来てもらいたい』のか『域内の方にスポーツを楽しめる場を提供したい』のかで、やるべきことは全く異なります。イベントはほとんどの場合その成功自体が『目的』ではなく、何か別の目的を達成するための『手段』に過ぎないので、『何のためにやるのか』『イベントを終えたときに具体的にどのような成果をあげていることを望むのか』を明確化して、関係者全員でビジョンを共有することが大切です」

ーーなるほど。イベントを開催するにあたっての「手段」と「目的」をしっかりと把握し、それらを関係者全員で共有するということが大切なんですね。例えば、「地域外から多くの方に来てもらいたい」のか「域内の方にスポーツを楽しめる場を提供したい」という目的の違いによって、取り組む内容はどのように変わってくるのですか?

「もちろん、目的によってやることは変わります。『地域外から多くの方に来てもらいたい』という目的だったら、わざわざその土地に来てもらうための理由や目的を用意する必要がありますよね。例えばその土地ならではの温泉とか、食べ物とか、スポーツコンテンツ以外のその土地の魅力をいかに伝えられるかは重要です。競技種目にしても、『わざわざそこにいかないとできない』ようなコトの方が引き付けられますし、自転車ならば『そこにしかない山』とか『そこでしか見れない景色」』なんかも、参加者さんから選んでもらうための要素として大きいです」

ーー地域外からわざわざ足を運んでもらうからには、その「労力を上回るような満足感」を感じてもらわないといけないということですね。

「そうです。一方で『域内の方にスポーツを楽しめる場を提供したい』という目的であれば、逆に家族や会社の仲間で、気軽に参加できる種類のものを用意したりとか、様々ですね。弊社でも、外から人を呼ぶのではなく、あくまでも市民の方に参加いただき、地域内のコミュニティの活性化につなげることを目的とするランニングイベントなんかも開催しています。このように目的によって我々がやるべきことは大きく違ってくるんです」

ーーそうなってくると、その地域の自治体ともうまくコミュニケーションを取って、ビジョンを共有する必要がありますよね。

「私たちの場合は地域の方から『相談』を受けて、課題解決のためのコンテンツを創っていくのですが、当初の相談で『これがやりたい』と聞いていたものが、じっくり話を聞いていくと『それじゃないことやった方が良さそうですね?』ってなることもあります。例えば『自転車レースをやって盛り上げたい』という相談で話を聞いていくと、実は地形的にレースには不向きな土地で、レースではなく『ガイド付きサイクリングツアー』のほうがお客さんを呼べそう、とか。同じ『自転車』でも、レースとガイドツアーでは対象者が全く異なりますからね。最初から何をやるかという『手段』着目するのではなく、何のためにやるかという『目的』を しっかり時間を取って向き合って、共有していくことが大事だと感じています」

ーー寄り添って考える事大事なんですね。

「そうです。また弊社の場合は各地の方々とは一つの案件、一つのコンテンツだけで終わるのではなく、基本的には『経年的』に事業を育てていきます。長く一緒にやっていれば、だんだんと理解し合えるようになっていきます。 『ビジョンの達成』というと簡単ですが、1,2 年ですぐに達成できるわけではないので、長い目で見て、中長期的に取り組みを進めていくことが大切だと思っています」

ーーなるほど。そのような「スポーツイベント」はその地域のコミュニティに対するロイヤリティを高めたり、地域住民の健康活動や経済活動を促すといった意味で1つの「地域活性化」にアプローチすることが出来ていると思うんですが、その「地域活性化」というワードの中では、やはり「スポーツツーリズム」は欠かせない分野になりますか?

「いま自分たちがメインで取り組んでいるのが『アウトドア・スポーツツーリズム』なんですが、その中でも特に自転車を活用した『サイクルツーリズム』と呼ばれるジャンルをメインに展開しています。要は『サイクリング』と『観光・ツーリズム』を組み合わせたもので、自転車で走りながら、その土地ならではの観光資源や景観、美味しいものを楽しんでもらう。10 ㎞くらいのコースから、上級者の場合は 1 日で 200km 走る人もざらにいます。形としては一度に数百から数千人規模の参加者があるイベント開催もありますし、少人数制のサイクリングガイドツアーや、あるいは個人やグループで日常的に走りにきてもらうための仕組みもあります」

ーー参加してみたい…。

「最も有名な成功事例は愛媛県と広島県にまたがる「しまなみ海道」で、こちらには 1年間で 33万人のサイクリストが世界中から訪れます。『サイクリングしまなみ』というイベントには、全都道府県と世界 26 か国から合計 7,000 人以上集まるのですが、今年の開催は残念ながらコロナウイルスの関係で開催中止になってしまいました。また弊社では「ツ ー ル・ド・ニ ッポン( https://www.tour-denippon.jp/series/)」という全国横断的なサイクルツーリズムのプロジェクトを展開していて、全国で20 くらいの自治体と連携して事業を行っています」

ーーサイクルツーリズムの規模が凄いですね。

「このジャンルは、スポーツ庁の『スポーツツーリズム需要拡大戦略』の中で“重点施策”に位置付けられたり、国土交通省では『自転車活用推進計画』でも強力に推進するなど、国策としても非常に力を入れられています。事業を展開していくうえで、めちゃくちゃ強い追い風が吹いていると感じています。ただ、『スポーツツーリズム』とか『サイクルツーリズム』については専門分野なんで、話せばめちゃくちゃ長くなります。たぶん2 万字とか平気でいくのでこのへんにしておきます(笑)」

ーー たとえば、中島さんは何故これらの分野に目を付けられのか非常に気になります。僕はこれまでサッカー一辺倒でこういったジャンルの業界に触れたことが無かったので…

「もともと自分はこの分野だけをやっていた訳でもなくて、若い頃にはラグビーやサッカーなどの『観戦型スポーツ』、それから『スポーツ施設のマネジメント』等にも仕事して関わってきました。様々なジャンルを経験した上で、自転車やランニングなど道路を使う種目に注目し、集中しました。で、そこからさらに派生する形で、現在『スポーツツーリズム』、『サイクルツーリズム』に取り組んでいます。それらに着目した理由としては、自分の中のもう一つの軸である『地域活性化』を実現するには3れらが最高のパートナーになると思ったからです」

ーーどういうことですか?

「『スポーツツーリズム」はまさにスポーツを通して地域を活性化し、盛り上げていく取組です。また特にその中でも『道路』を使うサイクリングやランニングは、地域を『点』ではなく『面』で捉えることができるという点で非常に地域振興に親和性が高いコンテンツだということです」

ーーなるほど…

「またそれらの魅力の一つは、道路を封鎖して行うという『ロード・スポーツのダイナミズム』ですね。生活のなかでの道路として使われている場所を、その日の一日だけ封鎖して行うレースに参加する皆さん、また沿道に詰めかけるお客さんの姿を見るのは本当に心躍ります。日本で最もメジャーな『ロード・スポーツ』といえば『東京マラソン』や『箱根駅伝』に代表されるようなランニングイベントですよね。皆さん既によくご存知かと思います。海外では自転車も非常にメジャーなスポーツの 1 つで、世界最高峰の自転車レース『』ツール・ド・フランス』は全世界で 30 億人を超える人が視聴すると言われています。日本ではまだまだ馴染みは薄いかもしれませんが、『地域活性化』や『地方創生』という、これからの日本に必ず必要な文脈にも合致していますし、今後将来性の高い分野だと考えています。どうでしょう?ワクワクしてきませんか?(笑)」

ーー将来性抜群ですね。今から勉強し直す価値がありますね。

「有り難う御座います!ただ、現状では『スポーツビジネス』といえば、そのほとんどがサッカーやバスケ、野球などの『観戦型スポーツ』の事を指していますよね。スポーツツーリズムやロード・スポーツに関心のある若い方もまだまだ少ないという実感があります。だからこそ、今後の伸び代が多い領域なので、これから本気で取り組んでいける若い方がどんどん入ってくれば、今より市場が大きくなったときに、この分野のトッププレイヤーになれている可能性もあると思ってますよ」

ーー「スポーツツーリズム」や「サイクルツーリズム」の周りには追い風が吹いているという状況のなか、更に成長させていくうえで、スタジアムやアリーナなどといった「ハード面」も重要になってくると思います。そこについてはどのようにお考えでしょうか?

「自分のメイン領域の話で考えると、これまでスタジアム・アリーナはサッカー、野球、バスケットボールなどの『施設内完結型』、それも『観戦型スポーツ』の拠点としての機能・認知が主だったと思います。それに加えて、自転車やランニングなども含めた『DO スポーツ』やそれこそ地域の『スポーツツーリズム』の拠点としても活用していけたらいいのではないかと思います。例えば『サイクルツーリズムでのまちづくり』を進めていくと必ず拠点施設が必要になりますが、それを既存のスタ・アリに置いて、スタ・アリを発着として地域を広域的にサイクリングで周遊してもらうようにするとか」
「あるいはランニングだと、特に都市部では多くの人がランニングできる場所が圧倒的に不足しています。ランニングイベントの開催できるところが少なくて主催者間で場所の取り合いになり、多くは河川敷なんかでやるわけです。これからスタジアム・アリーナを新たに建設していく動きも全国にありますが、ぜひスポーツツーリズムや DO スポーツの拠点としての機能も最初から考えていただけたらいいなと思います。河川敷で開いていたランニングイベントが、もしスタ・アリ周辺でできるようになれば、その分周辺地への経済効果も大きくなります。

ちなみに弊社では、日産スタジアムと新横浜公園を活用した自転車イベントも開催していて、全国から 2,000 人の方に参加していただいています。サッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップの決勝の舞台となった日産スタジアムを、1年に1度だけ自転車で走れる一日、ということで非常に人気のイベントです。施設管理者さんとしても「公共スポーツ施設の有効活用」ということで、大切な事業ととらえてもらっています。



http://www.tour-de-nippon.jp/series/nissan-stadium/



この事業は、他のスポーツ施設でもやっていきたいので、もし興味があるスタジアム担当者さんがいたらぜひお声がけください(笑)」

ーースポーツイベントの拠点が増えることによって、業界が全体的に循環していくということですね。ちなみに、スポーツツーリズムやDOスポーツの拠点としての機能とはどんな機能のことを指しますか?

「単純な話で、自転車ならば『サイクルステーション』といって、レンタサイクルが借りられたり自転車が修理出来たり、部品を買えたり、あとはシャワーや更衣室がある機能ですね。『サイクルツーリズムでのまちづくり』を進める都市では必ずこういった施設を作ろうという話になります。どうせ作るのならば、今あるスタ・アリや今後のスタ・アリ計画の中に組み込んでしまい、スポーツを『観る人』と『する人』の両方が集まる場所として機能していけるんじゃないかと思います。これは立地にもよりますが。可能性のある施設はあると思いますよ」

ーーそういった風にハード面が熟練化していくなかで、ソフト面ではどのような適応現象がが生まれてきていますか?時代の変化と共に人々は“受信”することよりも、“発信”することに喜びを感じているように見受けられますが。

「イベントに特化するとまだそういったものはないかもしれませんが、ちょうど今後弊社でも取り組んでいこうと思っているところです。スマホアプリなんかではいわゆる「UGC」型のものはあります。ランニングならばランニングコースを共有する「runtrip」さんが有名ですね。弊社でもサイクリングコースを登録できる「ツール・ド(https://www.tourde.site/)」というアプリをやってます。これはまだ今のところは管理者権限でしかコース登録はできないのですが、今後徐々にUGC 化していくつもりです」

ーー既に動き始めているんですね。ちなみに中島さんはコロナの影響で、オンラインの需要が急激に高くなっている今、スポーツイベントについてどう考えていますか?

「これはコロナだからってことではなく、必ず来るオンライン化という社会変化がコロナの影響で早まったって感じですよね。会社を始めた10年前から同じようなことを考えてきましたが、オンライン化によって『スポーツならではのオフラインでの感動が失われるか』と聞かれたら、決してそんなことはないと思います。サービス提供の仕方や方法についてはどんどんオンライン化は加速していくでしょうけど、最終的に『リアル』でしか表現できないもの、感じられないものは残る。なのでツールとしての『オンライン』と、最終的な価値提供としての『リアル』のメリハリが必要なんじゃないかと思います。『オンラインでできるもの』『リアルである必要のない工程』は、どんどんそうなっていくんじゃないでしょうか?」
「僕は Twitter をちゃんとはじめたのが 2020 年に入ってからなんですが、やってみて感じたのが、少なくとも SNS 界隈では『スポーツビジネス』ってのはサッカー・バスケ・野球・e スポーツ・SNSマーケ・スポーツテックあたりのことを指してる人が多いなってのは感じました。自分たちがやっている『参加型スポーツ』や、あと特にマラソンや自転車などの『ロード・スポーツ』についてはあまり認知されてないんだな、と。スポーツ業界の方々はもちろん、業界を目指してる学生さんなんかにもあまり知られていないことが分かってきた。

これらのジャンルも『スポーツビジネス』として非常にダイナミックで面白いし、将来性あるのにみんな知らないのもったいないなーとは思いました。なので今は、自分がそのジャンルの伝道師として、『参加型スポーツビジネス』『ロード・スポーツ・ビジネス』の面白さや将来性、社会的意義なんかを、広く発信していけたらなと思ってます。知られてないってことは逆に言えばチャンスでもありますからね。頑張ります」

【中島さんのTwitterアカウント】
https://twitter.com/RSJnakashima?s=09

中島さんが代表を務める会社
【ルーツ・スポーツ・ジャパン】
http://roots-sports.jp/profile/company/