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海外から見た日本サッカーとは?伊達和輝「“足技が凄い選手”=“うまい選手”ではない」

今年で海外生活9年目。14歳でスペイン・バルセロナに渡り、スペイン、アルゼンチン、ドイツの三カ国でのプレー経験を持つ。現在は、TSV München 1860 サテライトでプレー。ドイツ4年目となる伊達 和輝選手(22)は、日本サッカーをどう見ているのか。トップクオリティのサッカーが繰り広げられているヨーロッパと南米でプレー経験している伊達選手ならではの意見があるのではないのか。海外サッカーをこの目で見たこともなければ、実際に体験したことのない僕は、“そこ”に身を置くリアルの選手がどのような言語化をするのかが、気になった。

伊達 和輝 プレー集(ドイツ)https://youtu.be/hc_ZckCP2XY

「足元の技術がある≠うまい選手」

「14歳の頃にスペインへ渡り、約3年間プレーをしました。僕がスペインで感じた印象は、ボールポゼッションというチームのコンセプトはどのチームも持っていて、なおかつ、ポゼッションというものは試合を戦う為の1つの手段であり、その中でも攻守による個を特に求められました。そのうえで、ボールを回す為の戦術、また、相手のポゼッションに対してどのように守るのかという理解が大事でしたね」

――なるほど。「攻守による個を求められた」ということは、個人戦術の面での成熟さが必要で、特にポゼッションサッカーに対する理解度が重要視されていたんですね。

「あくまでもポゼッションは試合に勝つための手段です。スペインの場合、ゴールを決めることが最大の評価であり、如何にその状況を打開し、ゴールするのか。そこにプラスアルファで、正しいポジショニングを取って次のプレーに繋ぐこと。如何に相手の嫌なところでボールを回せるかという、個人戦術が絡んで来るのです」

――まずはチームの戦術を理解し、それらを表現する為の個人戦術があると。

「そうです。そして、その次に効果的なドリブルが出来たりだとか、フィニッシュ能力が高い等といった、状況を一変させることの出来るような個がスペインで求められる個だと思います」

――なるほど。「チームにおける個」「個人戦術における個」「局面打開における個」という「個の三断層」が存在するんですね。一方僕はというと、「個」という言語に対する認識が非常に混在していました。特に育成年代においての「うまい選手」というのはチーム内で一番ボールを持てる選手だと認識してしまっていました。

「スペインの場合、仮に『上手い』という表現があるとしたら、ゲームをコントロールする能力が高い選手のことを言います。その中で、ポゼッションの中でゴールに繋がるドリブル突破が出来たり、どんな形でもゴールを決めきれるフィニッシュ力があるかどうかです」

――それでも結果的に スペインのトップには、特にゲームをコントロールする中盤選手が多いように見受けられます。それらの理由をどのようにお考えですか?

「 僕が思うに、育成年代から『勝つ』ということを目的とし、その中でボールポゼッションというコンセプトがあるので、ゲームをコントロールする為のゲームコントロールではなく、試合に勝つ為のゲームコントロールをすることにより、より高いコントロール能力が生まれてくるんだと思います。ボール扱いが上手かったり、足技が凄い選手に対して『上手い』という評価を与えません。それらは1つの個性やスタイルに過ぎませんので」

――そもそもの捉え方が違うんですね、例えば、日本人の育成年代選手たちはヨーロッパのトップと比べても足元の細かな技術は長けていると感じています。そんな選手たちが育成年代からスペインへ渡り、スペインでプレーする事ができると、その技術に加えてゲームを理解し実行する力が付くので、世界のトップでより活躍できる可能性もあると思うんですが。

「そうですね。細かな部分ではやはり日本人は上手いと思いますし、それは日本人の武器でもあります。しかし何度も言いますが、足元が上手いからと言ってゲーム理解力が高いということには繋がらないとうことです。ゲームをコントロールする能力に長けている選手はスペインにいくことで、よりレベルの高い選手になれることは努力次第で大いにあると思います。僕自身はスペインに行って、『自分の持っている能力をゲームで表現する』ことの重要性を学びましたし、そういった意味でもよりゴールを意識するようになりました」

【サッカーが持つ意味が日本人とは違う】

――なるほど。伊達選手はその後、アルゼンチンに行かれている訳ですがアルゼンチンではどのような事を感じる事ができましたか?

「 アルゼンチンでも『個』を強烈に意識させられましたね。 守備ならボールを奪うこと、攻撃ならボールを失わずゴールを決めることです。単純ですが、これを追求するんです。そしてどちらもそれは勝つための手段ですし、目的はいつも勝利です

――複雑性こそないものの、シンプルを突き詰めることによって“強烈な何か”を生み出すんですね。特にアルゼンチンを筆頭とした南米ではストライカーが多いように見受けられます。そこには理由があるとお考えでしょうか?

「アルゼンチンではストライカーが目立っていますが、まずは守備の印象が強く、半端ない球際です。屈強なDFが揃っています。逆に言うとそんな環境のもとで、FWはゴールを奪わなければいけないので、アルゼンチンには素晴らしいストライカーが多く存在するんだと思います」

―― なるほど。僕は日本人FWを見ていて違和感というか、面白く無さを感じています。どういうことかと簡単に言うと「貢献的なFW」がブームになってしまって、リスクを犯さなければ、エゴをも出さないFWが増えてしまっているなと。そういう意味で、アルゼンチンを筆頭とした南米ではやはりストライカーはある程度のエゴを持っているんですか?

「解釈の仕方なんですけど、アルゼンチンのFWには『俺がボール収めてゴール決めるから俺にパスを出せ』というタイプが多くて、その代わりゴールを決めなければ、チームメイトから言いたい放題言われてしまいます。そんな中でもゴールを決め続けた選手が現段階では上にいった印象です。育成年代から全選手がゴールに飢えていています」

――凄まじいですね。

「どういうことかと言うと、そうすれば、ゴールに飢えているようなFWの相手をしなければいけないDFは自然と能力が高くなるし、ゲーム理解度も向上されると思うんですよね」

――まさに「卵が先か、鶏が先か」。相乗効果ですね。練習からバチバチなんですか?

「 もちろんです!ですが、激しくプレーして仲間を怪我させろとか削れということではありません。ボールを失わない為の身体の使い方、ボールを奪う為に必要なアグレッシブさです」

――目的と手段の区別が明確にあるんですね。ちなみにですが、アルゼンチンではやはりサッカー熱は高いですか?

「 僕は全世界のサッカースタジアムに足んだ訳ではありませんが、アルゼンチンが『世界一サッカーに熱い国』だと思います。人々にとってのサッカーの持つ意味がまず違います」

――サッカーの意味とは?

「アルゼンチンではその国の歴史と同時にサッカーの歴史も語らないといけないくらいです。そのくらい全員にサッカーが根付いています。以前noteの記事で書かさせて頂いたように、サッカーのプロアカデミーに入団することで教育を受けられる子がいます。それだけサッカーが国を支えているということです。教育や衣食住をサッカーで得られる子供たちが実際にいるので、サッカーで成功するということ自体が持つ意味が、日本とでは違った意味を持っていると感じましたね」

【ゴールに如何に速く辿り着けるのかがドイツのサッカー】

――なるほど。国によってサッカー文化がまったく違いますね。面白いです。その後、伊達選手は現在までドイツでプレーされています。ドイツではどのような事を感じていますか?

「ドイツサッカーは如何に速く攻撃をし、ゴールに辿り着けるかというスタイルだと思いますし、守備でも前からどんどんプレスを掛けていきますので、スペインやアルゼンチンとは全く違う印象ですね。かなり縦に速いです」


 ――縦に速いサッカーとなると、フィジカルタフネスが求めらるのではないですか?

「そうですね。タフネスと言うと少し違う気もしますが、 スピード感の中での技術を求められます。また、推進力があるかどうかも。ドイツサッカーはスペインやアルゼンチンと比べてカウンター攻撃がより速く感じます。もちろん、ポゼッションもしますが、縦に行ける場面では速さを求められますね。そういった意味でも前に推進してくれるようなドリブラーが活きやすいし、多いですね」

――なるほど。そういう意味では伊達選手もその部類に入る選手ですよね。

「 はい。僕は走力が武器です。サイドからドリブルをしていくスタイルでプレーしています」

――日本人はドイツ人と国民性が比較的に近いため、ドイツで活躍しやすいという話をよく聞きますが、実際のところはどうなんですか?

「僕はスペインやアルゼンチンの国民性を見てきた中でドイツの国民性が日本人と似ているとは思っていません。確かに日本文化と似ている所もあります。待ち合わせ時間であったり、期限を守るといったこと。ドイツは他国のヨーロッパと比べても挨拶の際のスキンシップ、愛情表現は控えめなので、そういったところも似ていると思います。しかし、国民性という面でみるとまた違う人種ですし、それぞれの性格やサッカースタイルに合う合わないはあると思いますね」

――なるほど。何事も短絡的に物事を解釈するのは良くないですね。伊達選手、引き続き頑張ってください。

「有難う御座います。僕はこれからも現役選手としてもっともっと高いレベルに行けるように取り組んでいき、同時に僕が経験して学んだことが誰かの為になればと、子供たちにサッカーの魅力やサッカーでの可能性を伝えていきたいと思います!」

ーー有り難う御座いました。

伊達 和輝
1998年1月10日生まれ 神奈川県川崎市出身 
14歳でスペイン、バルセロナに渡り、C.E.Europa下部組織へ入団。スペインに2半年間居住し、その間にICE Francesc Masià(現地中学校)卒業。
2013年にバルセロナ選抜U-16に選出される。
17歳でアルゼンチンへ渡り、C.A.Independiente下部組織へ移籍。アルゼンチンに2年間居住。
19歳でドイツへ渡り、現在はTSV München 1860 サテライトでプレー。ドイツ4年目。
伊達 和輝 プレー集(ドイツ)https://youtu.be/hc_ZckCP2XY