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【アジア横断バックパッカー】#10  2ヶ国目:ラオス-シーパンドン デッド島に上陸

 バスは街をぬけると、草原のまっすぐな一本道を走った。途中点在する民家で人を乗せつつしばらく走り、休憩のため広場に乗り入れた。車掌のおばちゃんはバスのドアが開くと真っ先に飛び出して行った。何事かと思ったらスマートフォンを充電しているのだった。
 
 広場には売店とトイレがあった。朝から何も食べていなかったので売店をのぞいたがめぼしいものがない。ポテトチップスは1袋2万キープ。だが2万キープあればちゃんとした食事がとれる。そう思い何も買わずに我慢した。
 
 休憩ののちバスは再び走り出したが、急にUターンし元来た道を戻り始めた。さっきの広場に再び乗り入れる。誰か乗り遅れたのだろうかと見ていると、車掌のおばちゃんが降りて行った。スマートフォンを忘れたらしい。
なんでもいいから早く行ってくれ。僕はうんざりした。
 
 3時間ほどでナカサンのバスターミナルにつく。おばちゃんの説明によると、船着き場へはターミナル前の道を右に進めばあるらしい。
 言われた通り道を歩き出す。まっすぐな道が伸びているが川らしきものは見えない。道の両脇には商店が並び、結構活気がある。
 
 汗をだらだら流しながら5分ほど歩くと視界が開けた。メコン川だ。道はメコン川に突き当たり、丁字路になっている。船着き場の看板があり、細長い形のボートが並んで接岸していた。
 小さな事務所のようなところでチケットを交換し、すぐに乗船できた。屋根付きで、草刈り機のようなエンジンが積んである。車掌のおばちゃんは今度は船頭となり、船の先頭に乗った。旅行者で満員になったところで船は出港した。
 
 広いメコン川だが、4000の島と言われている通り本当に小さな島や無人の大きな島があちこちに点在し、川を渡っているという感覚があった。
 10分弱でデッド島に接岸する。遠くから見ても川側にせり出した食堂が並んでいるのが見える。観光に特化した島なのだ。船を降りてそれぞれの荷物をピックアップする。バスでギターをつま弾いていたヒッピー風のお兄さんがみんなの荷物をおろしてくれた。
 
 船着き場から上がると、入り組んだ道とレストラン、商店、ゲストハウスやちょっといいホテルが所狭しとならび、物語の舞台に迷い込んだような不思議な感覚があった。両替のレートがよくなかったのでATMを探したが見つけられず、結局両替した。
 
 時刻は昼過ぎ。まずは宿探しである。強烈に日差しが照り付け空腹でもあるし、朝まで夜行バスで寝ていたのだ。疲労はたまっているが、なんとしてでもいい宿を探すぞと僕は意気込んでいた。ネットであたりも付けていない。ここでいい宿を見つけることが、僕のバックパッカーとしての力試しになると僕は勝手に思っていた。
 
 船着き場から向かって左側に島は広くなっている。おそらく島の中心はいいホテルやゲストハウスが集まっているので値段も高いだろう。僕は中心を外して探すことにした。もうひとつ、メコン川沿い、つまり島の端の方にある宿を狙っていた。この辺はメコン川に沈む夕日がとてもきれいなのだ。そして宿はほとんどがバンガロータイプである。
 顎から汗を滴らせつつ歩く。まずは相場をつかんだ。やはりいいホテルは高い。見るからにグレードの低い安宿は高くても10万キープから4万キープだった。1軒4万キープの宿があったが川から離れていていまいちだった。値段は5万キープ前後を狙うことに決めた。
 
 だがいい宿はなかなか見つからない。高くていい宿か、安くていまいちの宿しかない。あまり歩いていると倒れるかもしれない。安そうなバンガローを見つけ、ここはどうだろうと受付を探して歩いていると、「sunset bungalow」と書いてあるゲートを見つけた。のぞいてみて僕は「おっ」と思った。バンガロータイプで、なんといっても目の前がメコン川だった。隣にメコン川を見下ろせるレストランもある。宿の人と思しきおばちゃんがいたので話しかける。おばちゃんはおっちゃんを呼んだ。夫婦らしい。ベンチに寝そべっていたおっちゃんは起きてくると、喉を鳴らして唾を吐いてから、値段は5万キープだと言った。部屋を見たいというと鍵をくれた。
 
 バンガローは1棟2部屋で、右側が僕に割り当てられた。ダブルベッドでエアコン付きだが、値段を考えるとおそらくエアコンは使えないだろうと思った。シャワーはホットシャワー。借りることにした。(この後エアコンについて尋ねると「もっと暑くなってから」という答えが返ってきた。今以上に暑くなることがあるのだろうか?)
 
 宿帳に必要事項を書き、荷物をおろしてベッドに腰かけた。ここは穴場だなと僕は満足した。値段も手ごろだし、本当に目の前がメコン川なのだ。バックパッカーとして宿を探す力は養われているようだ。
 
 …などと思ったのもしばらくしてからで、疲労からくる「僕はいったい何をやっているのだ」感に襲われていた。いつものことで、移動で疲れたりした夜は、安宿のベッドでいつもこの感覚に襲われている。食事をして休めばすぐに治る。(続きます)

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