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小2、ひだまりの廊下で読書

小学2年生も半ばになると
読める漢字も急に増えて、

読めない漢字でも
前後の脈絡から意味を解釈することを覚え、
読む楽しさを知って読書にハマる。

毎日、図書館に通うことが日課となり

朝、登校するとすぐに図書館へ急ぎ、
前の日に借りて帰った本を返し、
新たに1冊借りて、いそいそと教室へ戻る。

お昼休憩、再び図書館へ行き、また1冊。
そして、下校前に2~3冊借りて帰宅。

そんな風に日に3度、図書館通い。

お昼に図書館へ行くのはなぜかというと

短い読み物なら、朝に借りても
授業の間の小休憩に読めてしまうからだった。

その日も、
朝に借りてきたばかりの本が面白く、
授業が始まっても続きが気になって
読みたくて読みたくて仕方なかった。

だんだん我慢できなくなって

「ちょっとだけ」と
机の引き出しからずりずりと本を出して
ひざの上において読み始めた。

ちょっとだけのつもりが
つい夢中になってしまい、

目の前に先生が立っていることにも
全く気付かなかった。

名前を呼ばれて顔を上げると、
銀縁メガネの先生の顔が間近にあり
ギョッとした。

「その本、面白い?」
当時40代後半くらいの知的な女の先生は
静かな口調で私に尋ねた。

「・・・はい」
おずおず答える。

「わかりました。」

私の短い返事のあと、少し間を置くと
先生は顔色ひとつ変えずにうなずき、

おもむろに私の机を両手で持ち上げた。

「あなたは自分の椅子と、
その本を持って私について来なさい。」

淡々と言い残し
私を待たず、教室を出て行った。

考える間もなく本を脇にはさみ、
座っていた椅子を抱えて
私は先生の後を追う。

先生は廊下に出ると
廊下の窓際に私の机を置いた。

「ここに座りなさい。」

促されるままに
私は持って来た椅子を置いて座る。

「授業が終わるまで
ここでその本を読んでいなさい。」


一切表情を変えないまま
先生は教室へさっさと戻ってしまった。




古い木造校舎の長い廊下に置かれた机と椅子。

そして私。

窓の外を覗いても、
中庭の池や、飼育小屋の辺りも誰もいない。

授業中の、時間が止まったような景色は
日差しだけを浴びてとても穏やかで

誰もいない廊下は、
ホントはこんなに広かったんだと思った。


あまりに静かすぎて
見慣れた景色が違う場所みたいに見える。


長い廊下の一角で、
私はどうしていいのかわからず
机の上の本へ視線を置いていたが

椅子に座り直して
本を開き、さっきの続きを読み始めた。

読むしかない気がした。


しばらくすると廊下の向こうから
足音が聞こえてきて、本から顔を上げると
校内巡回する教頭先生がこちらへ歩いて来ている。

私に気づいているのに
速度を変えることなく、ゆっくり近づいて来る。

教頭先生は私の座る机の前まで来て立ち止まり
私と私の手に持っている本を見下ろした。


状況で察しはついているだろうに

「・・・本を、読んでいるのかな?」


教頭先生はいつものおっとりした口調で訊いた。


怒っているふうでもなく、驚いた感じもなく
でも目元は笑っているようにも見えた。

「はい、ここで読みなさいって言われました。」

「ん~・・・そうか。」

教頭先生は短い返事をしただけで、
何もなかったように通り過ぎて行った。


たぶん、この後に私は担任から
お説教を受けたと思われるが、

何を言われたのか、どうなったのか
何も記憶がない。

廊下に出されたことは
ちょっとバツが悪かったはずだが、
それ以外、印象に残る感情の記憶がない。

先生は一年生からの担任で
そのまま持ち上がりだったので
読書の楽しさもこの先生から
教えられたのだと思う。

物静かで口数は多くないが、
厳しい先生だった。

叱られることも少なくなかったと思うが、
怖い顔や、叱責の言葉など
全く覚えていない。

この廊下での読書の日以降も
私の図書館通いの日々は続き
読書に没頭した。


が、
もう授業中に読むことはしなかった。



「授業中は読まない方がいい」


肯定も否定もされず、
叱られてもいないのに私は諭された


・・・のかな?


思い出すたびに
いろんな捉え方をさせてくれる。





今日はこの辺で
ではまた。




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