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グスタフの鳥10 《第4番》その1

 2019年『スターウォーズ』は完結し、42年に及ぶ大河ドラマは一応終結した。評価はともかく見応えのある出来で、相変わらず音楽も素晴らしかった。昨今の3D映像は凄まじい。迫りくる宇宙船に何度避けようと身体が動いた事かw。しかし制作順が時系列順ではないため、辻褄あってるの?と首を傾げもした。特に特撮技術の進歩のせいで、6作目の第3話より最初に封切られた第4話は、どうしても時代が逆行して見える。まあこれは仕方ない。それに8作目の最後に登場した少年は誰だったの?ルークはかなりの修行したのに、レイは最初から色々簡単にでき過ぎてない?・・・原作者だったジョージ・ルーカスが離れてしまったので、最初の想定から随分と離れた物語になったんだろうな、と想像する。一応完結したのでルーカスはまた新たなシリーズを始めるという。スピンオフ映画やサイドストーリーも充実している。つまり、まだまだ続ける気満々なのだ。

 熱狂的なファンの満足を勝ち得るためには、恐らく並ではない努力が必要だ。見てる側はお気楽だからね。きっと制作過程でも無数のアイデアが生まれたに決まっているが、選択できるのは一つだ。それ以外は捨てるか、別な作品に持ち越さねばならない。作品を作るとはこの無数の取捨選択の連続なのだ。これは全ての芸術に共通する。選択されたものが凄くて感動するものもあれば、あれれれ?てのも中にはある。作者が捨ててしまったものへの興味は尽きないね。何故選択されなかったかは、とても興味深い考察だ。

 同じものが違う作品に出てくる事はよくある。『運命』の〈タタタターン〉の動機は『田園』や『ピアノ協奏曲第4番』にも登場する。この時期の楽聖のマイブームだったのだ。だがその使われ方は同じではない。言われなければ同じだと気づかないものすらある。「こいつ、いっつもこれやね」なんて言われたくはないから、作る側も考慮を重ねるだろう。どれも似た顔を持つブルックナーですら、全く同じ主題や動機は使わない。似ているのは発想であり、姿勢であり、音楽の空気だ。だが、我がグスタフは堂々と同じ主題を使うのだ。それはまるで、その主題で書き足りなかったものをもう少し書きたい、と言っているかの様だ。中にはまるで同じ音楽もある。『復活』の第3楽章は、歌曲『魚に説経するパドヴァの聖アントニウス』と同じだ。似ているのではない。同じ音楽なのだ。これは何故だ。そこにはいかにもマーラーらしい趣味への考察が必要だ。

 それはまるで着せ替え人形なのだ。同じ主題に違う服を着せて「この音楽はね、こうも書けるんだぜ」と披露している。文句を言われる筋合いは無い。だって本人がそう書きたいんだから。そこには意味は無いのかもしれない。この曲にもこれ必要ですか?という疑問も意味がない。R.シュトラウスはある時思った通りに弾かない楽員イラついて「何故書いた通りに弾かないんだ。一体これは誰が書いたのかね?」と詰め寄った。楽員は白い目を向けて「旦那、あっしじゃありませんぜ」と答えたとかw。その音楽が何故そうなっているのか、何故こんな組み立てられ方をしているのかといった疑問は、説明を求めても理解できないのだ。だって、そう書きたかったんだもん。でも我々はそれをあれこれ考えて楽しむ権利はある。意味を見出すのも自由だ。大丈夫。書いた人はもういないからね(笑)。

 この第4番は次なる交響曲世界への架け橋だ。どこがそんなに新しいかは、〈続き〉にたっぷり書くとして、まずは鳥だよ、鳥。鈴の音と共にいきなり《ピョピョ》と声をあげるのは、鳥以外の何者でもない。まさか河馬とは思わないだろ。《ピョピョ》の鳥の声は全編で耳にする。終楽章では強烈な絶叫になったりするが、作品の顔である第1楽章では終始穏やかで可愛らしい。鳥の歌声と思しき旋律や細かな動きは沢山出てくるが、特記しておかねばならないのは126小節目に出てくる、4本のフルートのユニゾンによる16小節にもおよぶ大らかな歌だ。長い音中心のこの主題は時折付点のリズムで少し陽気にはしゃぐ。この付点の主題を耳にして『タンホイザー』の糸車の歌を思い浮かべたら、おめでとう、あなたは立派な病気ですw。この主題の最初の三音はその後も繰り返され、鶏の雄叫びの様にも変化するが、このテーマは割と最初に登場するチェロの優美な主題から取られている。そこでは主人公が思いの丈をたっぷりと披露するが、その主題はこの鳥へと受け継がれ、第1楽章もこの主題で終わる。つまりこの三音は〈動機〉なのだ。

 マーラーの音楽を俯瞰するとある傾向に気づく。それは音楽が大自然に目を向けている時は鳥が頻繁に顔を出し、苦悩や苦闘などの精神に目が向いていると登場しない、という事だ。必ず風光明媚な避暑地で作曲してたのに、心に入り込むと何も目に入らなかったんだろうな。そうだろ?グスタフ。

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