5分間の魔法

初めてテレビ会議をした。在宅勤務が当面続く見通しとなった今、急遽テストトライをすることに。「じゃぁ、15分後に。」お昼明けに上司にそう言われ、慌ててメイクポーチを開ける。何週間ぶりかのアイライン、チーク。そして、口紅。薄く引いたファンデーションの上に色を少しずつ載せていくが、鏡をみて愕然とする。

私、こんな顔だったっけ!?

目の前に映るのはぼんやりとした長丸。やや眠そうな上瞼にしまりのない顎のライン。長く家を出ないうちに、ひどく凡庸な顔になっていた。しかも、マスクを外してメイクをした状態の顔を、久しく自分自身でさえ見ていないからショックは大きい。

これはいけない。

緊張感を持って働かなくては、と鏡の前にデスクを設置して人の視線を感じようとしたり、コルセットを巻いて姿勢を保とうとしてみたり。できる限り、シャキッと気持ちよく生きていきたいと思っていたけれど、やっぱり直接人と関わらないことで刺激は減る。気分は沈みやすいし、悲しいニュースが押し寄せる中、上向きにするのは難しい。

そうだ。

クイックメイク、と急いたことで約束の時間にはまだ7分あった。背景が真っ白い壁になるようデスクをずらし、意を決しテレビをつける。コロナのニュースが目に飛び込んでくるが直後、ブルーレイレコーダーのスイッチをON。とっさに再生ボタンを押す。

流したのは、嵐の「Happiness」。何度だって聞いたイントロを耳にするうちに脳みそにスイッチが入ったと気づく。サビのころには鼻歌を口ずさみ、小首を縦に振っていた。曲が終わり、もう少し、と思う気持ちを抑えテレビの電源をOFF。ちょうど会議にぴったりの時間だった。PCのスイッチを入れようとした際、真っ暗いモニターに映る自分と目が合って、たった一人しかいない部屋なのに、つい噴出してしまった。

顔がめっちゃはっきりしている。目尻はちゃんと上向きだし、口角だって上がってる。もしかしてメイク、しなくてよかったかも?

我ながら、何事も顔に出やすいものだと心でつぶやく。でも、それくらい単純でいいか。例え今は画面の向こうだけであろうと、幸せを浴びて、何とか明日も生き抜いていきたい。



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