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チベット・インド旅行記『韓国編』


チベット・インド旅行記
#5, 「釜山」


【前回までのあらすじ】
遥か遠く世界の秘境チベットを目指す為、埼玉県からヒッチハイクで旅をはじめたまえだゆうき。

出発から1ヶ月が過ぎた今、ようやく海を越え、韓国の地へと降り立っていた。

韓国10


「クレソ?」
(それで?)



「チョーヌン、ゴンウォン…、カッソヨ…」
(私は公園に行きました)



クククク…。と笑いをこらえるルーシー。
周りの店員もチラチラとこっちを見ている。



「クレソ?、クレソ?」
(それで?)



「アジョッシ…、イッソヨ…」
(そこにはおじさんがいました)



カチャン。


思わず、サムゲタン(参鶏湯)を食べていたレンゲをお盆に下ろし、必死で笑いをこらえるルーシー。



 


すかさず、身振り手振りで説明する。



「アジョッシ、ベリーベリー、ストロング、ベリーストロング!」

(とてもとても強いおじさんでした!)







「あーっはっはっはっは!ちょっと待って、待って!」





「ユーキーチョアヨ〜!、ハングゴ、テダネヨ〜!」
(ユーキいつの間に、そんなにハングル語覚えたの〜!?)


 


ここは、韓国の首都、ソウル市内の定食屋。




今日は全国的なサムゲタンの日らしく、ルーシーと私は、一緒に熱々のサムゲタンを食べていた。


目の前で大爆笑をしているのは、友達のルーシー(英語名)、本名はイム・キョンへーちゃん。

韓国8

丸いメガネの下には優しそうなたれ目と、ふわふわの髪型。

おしとやかな雰囲気が漂う、清楚な女の子だ。
今はソウル市内の大学に通っているらしい。



ルーシーは、私が以前スコットランドに語学留学した時に知り合った友達で、かれこれ1年ぶりくらいの再会になる。



久しぶりにあった友達が、でっかいリュックサック背負って、ヒゲボーボーに生やして、怪しげなカタコトハングル語を喋るものだから、すっかりツボにはまってしまったらしい。


韓国3



ご存知の方もいるかもしれないが。

日本語と韓国語は文法が同じで、単語も発音が似ているものが多いので、
(無理=ムリエヨ、砂漠=サマク、)

びっくりするぐらい簡単に喋れるようになる。


福岡を出港してから2週間、ソウルに着く頃には、それなりに現地の人とも意思疎通が出来るようになっていた。


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さて、時間を遡ること2週間前。

福岡を出発した高速艇ビートルは、数時間をかけて韓国の海の玄関口、釜山(プサン)に到着していた。 


韓国9


いよいよ日本を離れ、本格的な旅のスタートだ。
季節は初夏、旅をするにはもってこいの時期である。



簡単なパスポートのチェックを終えてゲートを潜ると、そこは釜山の街。
小高い山々と海に囲まれた、いかにも港町といった雰囲気、海風が気持ちいい。



市内に出ると、ハングル語の看板、看板。文字が読めないので、適当にブラブラと散歩する。


街は栄えていて、日本の地方都市と風景は似ている、交差点、ビル街、歩道に街路樹。


ところが一本脇道に逸れると、ビルとビルの間の細い通りの両側に、山積みになった白菜や、キムチ、味噌、佃煮、キムパ(韓国風海苔巻き)やトッポギなどを売る屋台がずらり連なっている。


路上の市場の風景だ。
キムチや白菜のすえた匂いが、ツーンと漂ってくる。


そんな生の匂いを胸いっぱい吸い込んで、心の中でガッツポーズ。



とうとう旅が始まった!
そんな感情がメラメラと湧いてきた。
 
 

韓国11


お腹が空いたので、こじんまりした定食屋に入ると、サザエさんみたいな髪型したおばちゃんがやってきた。



言葉が分からないので、「ペゴパ〜ペゴパ〜(腹減った〜)」と連呼していると。
「チゲ!チゲ!」と、スープやら、おかずやら、キムチやら、たらふく持ってきてくれた。


おばちゃん、食べても食べてもおかわりを持ってきてくれる。
(後に知ったが、韓国では客人をもてなす時に、わざと残せるぐらいの、多めの量の料理を出すのが礼儀らしい。)


釜山について早々、お腹いっぱいで動けなくなってしまった。


締めて3千ウォン(約300円)


「オモニ〜、マシッソヨ〜!(お母ちゃん、おいしかったよ〜)」



韓国4


韓国の方が、日本に比べて物価が安く、定食300〜400円、アイス50円、散髪800円、ギターの弦600円ほど。
(2004年のデータ)



ただ、物価が安いとはいえ宿泊費はドミトリー(相部屋)でも千円するので、韓国ではいつも通り野宿スタイルで頑張ることにする。



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流石に釜山は都会すぎて野宿できないので、地下鉄で郊外まで出て野宿ポイントを探す。


駅から徒歩で歩く事しばらく。
ありましたありました、ゴンウォン(公園)


日本の公園と比べても遜色がない、綺麗な公園だ。
ベンチもあるし、水場もある。
心が躍る。

近場のスーパーで辛ラーメンのパック買ってきて、鍋で湯を沸かして食べる。


国が変わっても、人間やる事に変わりなし。



日が暮れて寝袋を用意してのんびりギターの練習をしていると、不意に背後から声がした。

振り返ると、むすっと口をへのじに曲げた、頑固そうなおっちゃんが立っている。

日焼けした肌と、深い皺。


「おい!こんなところで何をやっているんだ」

(韓国語分からないので、あくまでも想像です)


「えーっと…、チョーヌン、イルボーニン、イムニダ。」
(私は日本人です)


「何っ!日本人だって!?一体ここで何してるんだ!?学校は!?親は!?」


私が日本人だと知っても、お構いなしにハングル語でまくし立てるおっちゃん。
訳も分からずにウンウンうなずいていると、おっちゃん「来い、来い。」と手招きを始めた。


どうやら、私をどこかに連れて行きたいらしい。

公園に荷物を置いて、おっちゃんの後をついて行くことにした。


韓国7

おっちゃんの後をついて通りを歩くこと数分。
街灯が薄暗く灯る、さびれた商店街に着いた。


ハングル語で読めないが、アーケードの入り口の文字はきっと、「〇〇銀座」と書かれているに違いない。

夜9時も過ぎて、どの店もシャッターがおりている。

商店街の中ほど、地下へと降りる階段を指差して、「ここだ。」とジェスチャー。
ネオンがパチパチと、ついたり消えたりしている。


おっちゃんの後をついて、地下への階段を降り、扉を開くと、そこには昭和を感じさせる場末のスナックがあった。


薄暗い店内、コメダ珈琲で使ってそうなレトロなチェア、バーカウンターには厚化粧のママ。


「あ〜らいらっしゃい、後ろの子はだあれ?」

(あくまでも想像です)


「すごいだろ!さっき公園で見つけてきたんだ」


まるで、雑木林ででかいカブトムシを捕まえたかのような、得意気な顔のおっちゃん。


「まぁ、飲め。」と水割りを2つ頼んで、私にもよこしてくれた。

「カムサムニダ」


おっちゃん、1杯、2杯と飲んでいるうちに気分が良くなってきて、おもむろにカラオケボックスに曲を入れて歌い始める。
こぶしの効いた演歌調の歌。


「アジョッシ〜、チョアヨ〜」
(おじさん、イイよ〜)


私とママで拍手。

ちょっと照れながらもグイッとマイクを私によこしてきた。




「さぁ、次はお前の番だ。」





お前の番だと言われても、困った。
カラオケの本をめくっても、ちんぷんかんぷんで読めない。



私もおっちゃんも困り果てていると、ママが手を叩いて言った。



「オー!シマウタ、アラヨ?」



「シマウタ…?」



「しまうた…?」




「(もしかして)島唄?」




「オーイエス!島唄!」



なんとびっくり!私の知らない間に、島唄よ風に乗り、こんな所まで来ていたとは!


喜び勇んで島唄のナンバーを入力するおっちゃん。


ママの機転のお陰で、カラオケボックスから聴き覚えのあるメロディーが流れてきた。

前奏が終わり、ハングル語の歌詞が現れる。




せーの…






「でいご〜の花が咲き〜♪」





「オー!チョアヨ〜!シマウタ、チョアヨ〜!」


本場(?)の島唄を聴いて、大喜びのおっちゃんとママ。


謎の感動と一体感が、場末のスナックを包み込んだ。


韓国6


歌い終え、おっちゃんと固い握手を交わし、心の中でTHE BOOMに感謝した。 

そうして夜も更ける頃、おっちゃんとママに別れを告げて、元の公園に戻ってきた。




緊張が解け、どっと疲れて寝袋に倒れ込む。


いや〜、それにしても強烈なアジョッシ(おっちゃん)だった。



日本を旅していても、韓国を旅していても、腹が減る事と、おっちゃんにからまれる事だけは世界共通。



うとうととまどろみながら、今日学んだ事を心にしっかりと刻み付けた。



明日は一体、どこへ行くのやら。



韓国1


つづく



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