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北京五輪を外交的ボイコットしようと言ってる人は中国の工作員?

来年開かれる北京冬季五輪について、アメリカとオーストラリアが政府使節団を派遣しない「外交的ボイコット」を決めました。

両国は対中国を見据えた新しい軍事同盟オーカスの一員であり、とくに豪州は中国に厳しい経済制裁を受けているため、米国に同調したとみられます。

一方、日本も追随するよう米国からの外交的圧力を受けているとみられていますが、岸田首相は「国益の観点から判断」とあいまいな態度を続けています。

岸田首相が米国の要求を撥ねつけられるかは、国民の世論次第と言えるでしょう。

この問題について、政治的な視点からの意見ばかりが目立ちますが、エンターテイメント産業の一員としては、あまりに大衆の心理を無視した暴論ばかりだなと感じます。

特に日本の保守派が、強硬的なことを唱えているのは大問題だと思っています。彼らは世論への影響力が強いのに、いつも中国憎しで冷静さを失っているからです。

そこでこの記事では、外交的ボイコットを進めてはいけない5つの理由をまとめてみます。

◆理由1:外交的目的を達せられない

外交的ボイコットをする目的は、「新疆ウイグルなどでの人権侵害への抗議」です。しかし、日本がボイコットしたところで中国共産党がそうした政策を改める可能性はゼロでしょう。この点、だれも異論はないと思います。中国はそんなに生易しい相手ではないです。

もしウイグル問題を解決したいならばこうしたやり方ではなく、そこでの人権侵害の証拠を集め、世界に発信するのが正攻法です。現状ではそれが不足しているように感じます。

それはともかく外交的ボイコットですが、中国包囲網の一員として日米が期待する(しかし地政学上、それに乗る可能性は低い)インドなどは「スポーツと政治は別」と、早々にボイコットを否定しています。反論しようのない正論であり、世界の大半の国もそうするでしょう。

とすれば、オーカスの数か国に日本が加わったところで、大した外交的圧力にはならず、実質的な効果はないのです。

◆理由2:各国の国民感情を考慮していない

ここがこの記事の重要な項目です。

まず五輪とは、政治とは無関係な大衆にとっては娯楽でありエンターテイメントです。なんだかんだいっても、終わればみなそれなりに満足します。そういうものです。

あの菅義偉や安倍晋三の支持率ですら、東京五輪終了後には上がったのです。当然ながら、習近平の支持率も上がるでしょう。

外交的ボイコットというものは、そういう国民にとっての楽しみを、外国が一方的にぶっつぶそうとしているように(中国民には)見えてしまいます。

するとどうなるか。

ボイコットした国への恨みだけが、残ることになります。特にアメリカに小判ザメのように日本が追随すれば、中国民の性質上、対アメリカ以上に対日感情のほうが悪化する恐れが強いと私は危惧します。

中国の中で、現在多少なりとも政府に不満を持っている人たちでさえ、政府への不満以上に外国への恨みが勝ってしまうことでしょう。

中国を民主化したいなら、本来こういう人たちと結び、内部から変えていかないといけないのです。なのに、相手国に存在するそうした貴重な味方を失う愚行ですらあるわけです。

それくらい、エンターテイメントを奪う恨みというのは恐ろしいのです。

◆理由3:中国の株が上がる

では他国の大衆はどうでしょうか。「おお、人権を守るために五輪をボイコットするとは、なんと立派な国々なんだ!」と思ってくれるでしょうか。

そんなことを考えるわけがありません。

むしろスポーツ好きの世界の大衆の目には、友好の場に政治を持ち込んだ野暮な国と映るだけでしょう。

そもそも外交的ボイコット、つまり「政治家たちは送らないが選手は送る」とはなんなのでしょうか。

結論から言えば、要するに選手までボイコットさせたらスポーツファンなど国内から批判を受けるのでそれはやりたくない。それに五輪中継利権などの実利は欲しい。でも中国の人権侵害に対決するポーズだけは取っておきたい。そうすれば次の選挙で安泰だから──。

そういう政治屋の身勝手な論理だとバレバレなわけです。とくに、関係ない他国の国民からはバレバレです。

当然、中国の政治家からもバレバレです。

ではここで考えてみてください──それに対して中国がもしボイコット国の選手を快く受け入れ、公平に扱ったらどうなるでしょうか?

中国の度量の広さを、むしろ世界中に喧伝する最高の機会になってしまいます。

さらにボイコット国(アメリカや日本)の親中的あるいはリベラルな選手たちがメダルなどを取り、「中国は公平に扱ってくれた」なんてコメントをしたら、世界中の世論は一気に中国へ好意的なものへと変貌します。

これは間違いありません。五輪は、安倍晋三や菅義偉の支持率すら上げてしまうんですから。

外交的ボイコットを唱える人たちは、大衆にとってエンタメがどれほど大きいものか。それを邪魔することがどれほど恨みを買うことか。まったく想像もしていないのではないかと思ってしまいます。

◆理由4:中国にとってノーダメージどころかメリットばかり

習近平にとってはそんなわけで、自分たちへの批判が外に向くので外交的ボイコットとやらはむしろ大歓迎です。

それを勝手に敵国がやってくれるのですから、内心では大笑いでしょう。

中共政府は今、芸能界への締め付けや実業家の粛清など、相当な荒療治で国内格差を是正しようと必死です。それは、放っておくと政府への批判が高まるからです。だからリスクを背負ってでも、必死に批判そらしをしようとしているのです。

あの中共にして、そこまで苦労していることを、敵対国みずから手助けしてやるなんて、なんと間抜けな……と私は思います。

◆理由5:日本にとってリスクは甚大

リスクとして誰もが真っ先に考える選手への妨害ですが、五輪中に選手が何らかの被害を受ける恐れは少ないと思います。それよりも、先述の通り五輪を成功させるほうが中国にとって政治的メリットが大きいからです。

しかし、派遣される選手側の心理はどうでしょうか。

政治家が自分たちの頭の上でバチバチと火花を散らし、ケンカを売っている。その相手国になんの護衛もなく、自分たちだけで派遣される気持ちはどんなものでしょう。

もし知らないうちに毒を盛られたら? 競技中や練習中、事故にでもあわされたら?

そんな風にチラとでも思ったら、完璧なパフォーマンスはできないかもしれません。

外交的ボイコットは、ほとんどライトな宣戦布告のようなものであり、メンツをつぶされた中国は必ず報復します。たとえ内心、しめしめと思っていてもです。

五輪後だと思いますが、それが尖閣諸島への電撃侵略になるのか、対日貿易に対する甚大な報復となるのか、だれにもわかりません。

確実なのは「先に手を出したのはコチラ」という、相手に戦う口実を与えることになってしまうということです。

中国は経済力も、軍事力もわが国より上です。彼らにとって足りないのは「大義名分」つまり口実だけです。それをタダで与えることの恐ろしさを、政治の専門家たちも少しは考えたらどうなのでしょうか。

いまの中国は建国以来、間違いなく最強最大です。そんな今、わざわざ対立を深める合理的理由とは何なのでしょうか。

威勢のいい政治家たちは、自分よりケンカが強い相手に絡む恐ろしさを全く理解していないように見えます。

◆結論

外交的ボイコットは、中国にとっては大した実害もなく、むしろ政治的にはメリットが多い。

一方、日本にとっては、中国の人権侵害を止めることすらできないのでメリットはありません。その代わり、確実に報復されるデメリットがあります。

◆最後に残る疑問

私がわからないのは、このようなことは直感的に誰でもわかることだと思うのに、なぜネット上では対中強硬論のような愚かな論が目立つのかということです。

自分よりケンカの強い相手に先に手を出し、国が滅びかけた歴史を忘れてしまったのでしょうか。ほんの76年前の話なのですが……。

普段は英霊だのなんだのいいながら、その英霊たちが命を懸けて残してくれた教訓をまったく生かそうとしないんだから話になりません。

私には、外交的ボイコットをすすめている人たちはよほど頭が悪いか、もしかしたら中国の対日強硬派の工作員ではないかとすら思えてしまいます。

もし本物の愛国者であり現実主義者ならば、

・相手が自分より強いときは守りを固め、敵失を待つまたは工作する
・敵国の中にいる味方を見極め、支援する
・もし強く出るならば、50年単位で流れを見て、相手が弱くなる時を待つ

こうした考え方が大事であろうと思います。

何もかも、自分が生きているうちにコトを進めようなどと考えないことです。

中国の政治家は、100年、200年先を考えて動いているように見えます。
そんな相手に、アメリカのご機嫌を取ることだけ考えている日本の政治家が立ち向かえるとはとても思えません。

お願いだから、余計なことをしてくれるなと思います。

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