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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第2話 プレゼンの一丁目一番地

丸山は続けた。

相手に興味を持たせると言っても、どう持たせるかわかるか?」

「いえ。。。」

慎吾はすぐに言葉にせずに丸山を見たが、丸山は慎吾の答えを待つような素振りだった。

「。。。例えば、相手が好きなものの話をするとかでしょうか?」

丸山はニヤリとして何か言いたそうに人差し指を立てた。

「他には?」

「他?ですか。。。困っている話とかですかね。。。
でも、何に困っているかなんてわからないですが。。。」

丸山は満足そうに頷いた。

「そうだな。好きな物、困っていること、どれもありだ。
つまり、相手に興味を持たせるのは、相手の立場に立って考えることが重要なんだ。」

「相手の立場。。。ですか。。。」

「そうだ。俺はさっきお前に対して沈黙することで興味を引き出した。
興味というよりも、焦らされて早く聴きたいという感情だな。
それと同じように、どんな言葉を投げかけたら、

もっと聞きたい

と思わせることができるかどうか?
これが、相手に興味を持たせることなんだ。」

慎吾は気づかぬうちに頭の奥の芯がカーッと熱くなっているのを感じた。

『もっと聞きたいと思わせる。。。そんなこと考えてもいなかった。
求められている事項をしっかりと、間違えずに説明することが重要だと思っていた。。。それではダメだったのか。。。』

「宮部さんへのさっきのプレゼンだが、お前はいきなり用件を切り出していった。
つまり、興味を持たせることもなく話し始めたわけだ。
それでは、いい提案をしても引っかからないのさ。
印象に残らない。
もちろん、大した提案でもないのに、キャッチーなつかみだけで興味を引くヤツもいるが、そんなものは内容がしっかりしていなければ実際に実行フェーズになってうまくいくはずがない。
それでも、全く引っかからないプレゼンをしていたのでは勿体無いわけだ。
せっかくの良いサービスも、良い製品も興味を示さなければ採用されないんだよ。」

「確かにそのまま話し始めてしまいました。印象に残すというアプローチは提案内容で勝負しようと思っていたのですが、きっと他社の方が提案内容自体も良かったのだと思います。。。」

慎吾は改めて今回採用されなかったことが悔しく思えてきた。
『相手の立場に立っていないプレゼン』
『相手の興味を引いていないプレゼン』
『一方的に自社のことを伝えていたプレゼン』
どれをとっても自分の力不足であったことは否めない。

丸山は慎吾がこれらのことの頭の整理ができた頃合いを見計らったかのように次のような質問を投げかけた。

「さて、では、宮部さんのプレゼンだが、もしもう一度お前がプレゼンをするとしたら、まずは何をするべきか?
どうだ?
何をする?」

慎吾は最初に何をすべきかを考えた。
プレゼンテーションの資料のブラッシュアップに入る前に先ほどからずっと考えっぱなしだ。
丸山部長は決して最初から答えを教えてくれない。
まずは考えさせることを必ず行ってくる。
慎吾は、

プレゼンテーションは考えること

というフレーズが頭の片隅でずっと書き込まれている感覚を持ちながら
まず、何をすべきかを考えていた。

相手を知る。。。ことでしょうか?」

丸山は目を細めて静かに答えた。

「正解。
その通りだ。
まずは、相手を知ることだよ。
相手の立場に立つには、相手を知らなければならない。
いくつくらいなのか?
どういった思考なのか?
経営者であれば企業理念や組織体系
企業の現状、戦略などあらゆるところにそれが垣間見れる。
そうすれば、相手の立場に立つことが可能になってくる。

彼を知り己を知れば百戦殆からず

孫子の兵法にある言葉だ。
まず相手を知る。
お前は、宮部さんのことをどこまで調べたかな?
もしくは、宮部さんの会社のことをどこまで調べたんだ?」

慎吾は自分たちのプレゼンの提案内容を良いものにしようということに
時間と人材を割いたため、そもそも相手のことを知ることには意識が回っていなかった。

「すみません。さらっとHPと財務諸表を見たくらいです。」

「そうか。
宮部さんは業界でも長く有名人だ。
検索すればいくらだって記事が出てくる。
インタビュー記事や対談内容など様々だ。
まずは、相手を知ることだな。」

慎吾のノートは留めている文字で埋まりつつあった。
丸山部長の言葉一つ一つが、プレゼンに向けた物でありながらも
仕事への向き合い方について話してもらっているように思えた。

「さて、今日はこのくらいにしよう。
今日の内容を踏まえて、
来週の社内の定例会議の資料。
楽しみにしてるぞ。」

そう言って丸山部長は会議室を後にした。

慎吾はしばらくそのまま会議室に残り、
宮部社長にプレゼンした資料をもう一度プロジェクターでエンターキーを押しながらスライドを送って行った。

『宮部社長の立場になってもう一度見返してみよう。』

会議室にはパチッパチッというキーボードを叩く乾いた音が響いていた。

映されるスライドを見ながら
自分が宮部社長なら採用するかどうかの観点で見てみると
あまりにも他人事のようなプレゼンに思えてきた。

『これじゃ、自分ごとにはならないな。。。』


来週の部内定例会議まで後3日。
プレゼンをする相手は、丸山部長だ。

慎吾は部署の上長となってまだ日が浅い丸山部長のこれまでのちょっとした発言と
このプレゼンフィードバックでのメモを眺めながらどのように報告すべきかを考え始めることにした。

『まずは、相手を知ること。相手の立場に立つこと。
部長だったらどんな報告を求めるのか。
何を求めて報告を聞くのだろうか。。。』

慎吾はまた考えることに集中して行った。


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