合宿'22 雨のダイナマイト

ダイナマイトと呼ばれる中3男子は、風呂の電源ボタンを連打する癖がある。上矢印ボタンを最高温60度になると、「高温」と赤く表示される。そうなるまで連打する。
電源ボタンの前を通り過ぎる際、必ず連打しないと「気持ちが悪い」。
寝る前にも必ず連打。
どうして押すのかたずねたことがあるが、押さないと寝られないらしい。

思いついたらやらないと気が済まないダイナマイトは、自分のものが勝手に移動されていたり、自分のスペースを奪われると、声を荒げる。それだけではなく、触りたいと思ったら人のものも触ってしまうし、サンダルも勝手に他人のものを履いていく。それでみんなから注意されると、それに反応して言い返してくる。
その悪癖をおもしろがるN君は、彼の不毛な言い返しに大声で言い返す。返事されると、また返したくなるダイナマイト。打てば返ってくるので、N君もまた投げ返す。
これを繰り返しているうちに、次第に、返す内容も過激になってくる。(予想通り)プロレスのマイクパフォーマンスのように、お互い罵声を浴びせた後は、スタン・ハンセンよろしく、乱闘がはじまるのは定番の流れだ。

夕方雨がふりはじめたころ、何が理由か知らないが、
ダイナマイトが「もういい!」と古民家を飛び出した。
「ごめんって!」
N君は、ダイナマイトを追いかけるが、ダイナマイトは止まらない。そのまま集落を飛び出して、街道を歩いて行った。
古民家に一人戻ったN君に事の成り行きを聞くと、言い合っているうちに「一人にしてくれ!と言って消えた」そうだ。

1時間くらい経つと、びしょぬれのダイナマイトが戻ってきた。
御嶽駅まで往復したらしい。
その後は何事もなかったように、風呂に入った。

前日二人は、言い争いの結果、プロレスして、物を壊した。翌日も同じように言い合ったわけだが、これ以上に一緒にいると、迷惑をかけると思ってダイナマイトは一人になったのかもしれない。
今年は暴発しないダイナマイト。実は「噴火」に到達しないように、自ら「ガス抜き」の方法を覚えたようだった。そこに彼の成長を見た気がしている。

夜寝るとき、N君はダイナマイトにまた話しかけた。
「ごめんな!ダイナマイト、一緒に寝よう」
「いやだ!気持ち悪い」
「今日はいい日だったな」
「いろいろあったけどな」
少年漫画のような、気恥ずかしい会話も素直に出てくる彼らの関係をうらやましく思った。


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