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『デスノートTHE MUSICAL』【#まどか観劇記録2020 3/60】

2020.1.19~2.9池袋の東京建物Brillia HALLにて『デスノート THE MUSICAL』が上演中。東京公演の後は、大阪、名古屋など地方での公演も予定されているこの作品。原作『DEATH NOTE』の記憶もうろ覚えで観に行ったにも関わらずかなりの衝撃を受け…、その理由についてミュージカルの視点からと、原作がある作品という視点から書き残しておきたいと思います。

まずはあらすじ。
成績優秀な高校生・夜神 月(やがみライト)は、ある日、一冊のノートを拾う。そのノートは、死神が退屈しのぎに地上に落とした“死のノート”(デスノート)であり、そのノートに名前を書かれた人物は死ぬというもの。
「自分こそが神に選ばれ、犯罪者のいない世界を創る“新世界の神”だ」と、ライトはデスノートを使い、犯罪者の粛清を始めていく。世間はそれを行う人物を称賛を込めて「キラ」と呼び始めるが、警察は手掛かりさえつかめないでいた。そこへ、これまであらゆる難事件を解決してきた謎の名探偵L(エル)が捜査に加わり、ライトとの頭脳戦を繰り広げていく。

私が考えるいいミュージカルの条件とは。
① ストーリーが面白い(舞台作品として)
② 音楽がよい。
③ 歌がうまい

おそらく専門的な見地からはもっとほかの要素があるのでしょうが、観客として私が大事だな実感したのはこの3つです。

① ストーリーが面白い。

当たり前のことではあるのですが、ミュージカルに限らず、ストーリーが面白いこと、これはすべての作品にとって大事です。そしてその面白さは舞台としての面白さかどうかです。90~120分の上演時間の中でいかに観客を惹きつけ、その心を揺さぶり、納得感のあるラストに導くか。長々と時間を費やすことができる表現媒体と違い、舞台は時間が限られている。そこにどれだけ物語をわからせる情報を入れるのか、そして入れすぎないのか、脚本、演出に求められることはとても困難だと思います。

今回の『デスノート THE MUSICAL』では、前半でデスノートの存在、キラとなった月とLの対立構造とそれぞれの人となりを、スピード感あふれる展開で起きる事件の描写で印象付け、第二のキラが登場するところまでを描く。休憩をはさんだ後半では第二のキラにまつわるエピソードや登場人物が増えるが、それによって話を広がらせすぎず、きちんとエンディングに収束させた。
やや後半の展開が急だったように感じるところもありましたが、役者の表現が豊かなのと、舞台装置の使い方が秀逸だったので最後まで引き込まれて観ることができました。特に、月役村井良太さんののラストの演技は圧巻のひと言。

② 音楽がよい

ミュージカルといえば音楽、歌ではないでしょうか。まずもって音楽がよくなければ世界観は崩れてしまう。今回、キャストは一新されていますが、2015年の舞台初演時に話題になった時から、演出の栗山民也をはじめとするメインのスタッフは変わっていません。特に、世界的な作曲家フランク・ワイルドボーン、音楽スーパーバイザーのジェイソン・ハウランドが作り上げた劇中曲はそのまま使われています。
私は以前の舞台は見ていないのですが、日本語の歌詞にも合い、世界観を増幅させるような音楽が素晴らしくとても印象に残っています。しかも、生のオーケストラ演奏なんです。ここにもこの作品が音楽に掛ける気持ちの強さが表れていると感じました。

音楽は気持ちを操ることができると思っています。悲しい雰囲気の曲を聞くと悲しくなり、楽しい雰囲気の曲を聞くと楽しくなる。中でも心理的に揺さぶったり畳みかけるような緊張感を助長する方向への音楽の及ぼす影響は大きいと思っていて、それがこの作品では、デスノートの人命がかかった月とLの頭脳戦の緊張感を際立たせるように効果的すぎるほどに効果的だと感じました。

③ 歌がよい

これはミュージカルとしての歌という意味です。ミュージカルでは単に歌うのではなく、歌いながらも言葉を伝え、ストーリーを伝えなければいけない。ストーリーや音楽はミュージカルでなくても舞台作品に必要なものですが、歌だけはミュージカルにのみ必要なものです。その歌が耳に入ってこない、言葉が聞こえない、などとなれば、普通にせりふを言う作品でよかったではないかとなってしまう。
しかし、その点では今回のキャスト(アンサンブルも含む)全員歌のレベルが高かったのです。全員歌がうまい。そして、歌にすることでセリフとして話すよりも伝わる演技となっていたところが、まさにミュージカルとして素晴らしいと感じました。個人個人で聞かせるるところはもちろん、大勢の歩行者がキラについて歌い上げるところなど、狂気と熱狂をただ叫ぶよりも音楽に乗せたことでより、客席にその狂気の熱が伝わってきた。

ミュージカル初挑戦の主要キャストもいる中、歌唱の面でレベルをそろえてきたところに、作品としてのクオリティに対する覚悟が感じられました。韓国でミュージカル女優として活躍するパク・ヘナは圧巻で、観劇後数日間ずっと彼女の歌う悲哀に満ちた曲が頭の中をまわっていたほどです。

まとめ

この3つが揃ったからこそ、今回の公演においてキャスト一新という挑戦が成功したのだと思います。

すでに人気の出ているキャストを一新することにはメリットもデメリットもあります。
例えば、すでにその登場人物として認知されている人が出れば一定の集客が望めること。例えば、映画化されたデスノートのキャストがそのまま舞台をやるとなればかなりのチケットが売れそうなことは想像しやすいと思います。
逆にキャストが固定することのデメリットは、すでに「この人が演じるこの役」というイメージ像が出来上がってしまっているため(それも強烈に)、原作にのっとった人物像から離れてしまう可能性があるということ。人によっては役名より役者名に目を奪われてしまう人がいるかもしれない。そして今回の作品を観るに、制作側としてどちらで勝負したかったかは明確だと思います。

原作ものとして

まだまだ語りたいことはありますが、最後に再度思うのは原作の強さです。私個人の感想になりますが、『DEATH NOTE』の表現にはミュージカルが最も適しているとまで思った作品でした。舞台の上演時間に届ける濃度としても表現方法としても。ハリウッドでは代々受け継がれ演じられ続けている作品があります。タイトルを聞いただけで多くの人がああ、と思い浮かぶような不朽の名作たち。今回のキャスト一新が成功したということで、『デスノート THE MUSICAL』はそのような作品となる可能性があるではないかとまで感じました。
そして、観劇後に原作を読み返したくなったことも付け加えます。舞台を見ることで高まった気持ちがさらに詳細な原作のあれこれを思いかえすきっかけとなる。いい意味で原作に立ち戻りたくなる作品。原作ものの舞台化という意味ではひとつの成功の形だと思います。

東京では2/9まで。その後、静岡、大阪、福岡でも上演予定。一見の価値あり、です。

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* 観劇直後の興奮冷めやらぬツイート *


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