子どもと本をつなぐ仕事






子どもと本をつなぐ仕事というと、どんな職業を思い浮かべるだろうか。書店員、教員、図書館司書、文庫活動実践者、ストーリーテラーなど、子どもと本の現場にいる大人がその役割を担っている場合が多いだろう。私は、学生・院生時代を通して幼稚園の絵本クラブで文庫活動を実践していたことから司書を志した。学校図書館と児童図書館では、司書として子どもと本をつなぐ仕事に携わった。図書館用語で言う「児童サービス」と呼ばれる部門だ。この「児童サービス」の観点から、子どもと本をつなぐ仕事を「学校図書館司書」「児童図書館司書」「文庫活動実践者」の順に紹介してみたいと思う。

まず、「学校図書館司書」の役割についてお話しする。それは、大きく分けて2つあり、児童・生徒の読書活動の推進、調べ学習のスキル向上である。読みたいと思える本を自分で選べるようになってほしい、紙の資料やインターネットを使って知りたいことを調べる力を身につけてほしい、というのが司書の願いである。日本ではまだ、司書が1校に一人配置されている自治体のほうが珍しい。私も地方都市で4つの小中学校を兼任した。教科書には、図書館資料を使うことが想定された単元が並び、それらを把握して資料提供・授業参画することも司書の仕事だった。
低学年では、調べ学習がはじまっていないかわりに「図書の時間」が設けられており、おはなし会を実施していた。子どもたちに集中してもらうために導入として取り入れる手遊び歌から勝負は決まっている。先生も乗ってくれるクラスもあり、よみ手としては大変ありがたかった。中学年では教科書単元に合わせて「百科事典の使い方」の授業に入った。「アンパンマンは百科事典に載っていると思う?」と問いかけると、急に知っている単語が出てきたことに児童は沸き立ち、突如アンパンマンのテーマソングを歌ってくれた。アンパンマンは子ども向けの百科事典『ポプラディア』にはキャラクター名としてしっかり記載がある。一方、ガンダムは「機動戦士ガンダム」で採られているため、「カ」ではなく正式名称の頭文字「キ」で探す必要がある。そういうときには「さくいん」を使うことも伝えていった。そして、高学年では、パソコンルームと図書室を行き来する子どもたちに資料を提供したり、知りたいことの検索に付き合ったりしていた。
図書館を活用した教育で先進的な取り組みをしている地域は、全国に点在する。司書や図書館司書教諭の実践が前例を作り、やがて近隣の自治体や司書を配置した自治体に広まっていく。読書週間、調べ学習など学校図書館における取り組みは貸出冊数に比例し、目に見える変化として実績になる。図書館活用教育が根付いた地域は先進地となる。
日本は敗戦後、英米を真似て図書館を作ってきた。児童サービスに関しては戦前にもあったものの、東京子ども図書館を設立した石井桃子氏らの活動により全国に広まっていった。当時の子育て世代の母親たちが子どもの本連絡協議会を発足させ、草の根的な運動を実らせたことによるところも大きい。しかし、学校図書館という分野においてはまだまだ約40年前のイギリスのような現状である。

次に「児童図書館司書」について、まず、児童書専門の図書館は全国に少数ながら存在し、沿革も選書基準も多様である。私の勤務した児童図書館は、70年代に設立された子ども図書館で、大学が地域に開放していた。その小さな図書館は、京都という地域柄利用者が多彩で、館内には様々な国の言語が飛び交う。その隣で、地元の子育て世代ものんびりと子どもとやりとりする。イベントは、乳幼児と保護者を対象にしたわらべうたと絵本の集い、小学生向けの工作会、ブックトークにおはなし会、映画上映会まで行う。利用者の年齢層は0歳児から大人までというところが特徴的で、図書館は地域に根付いたサードスペースになっていた。
学生時代の先輩と私の2人で運営していたため、仕事内容は多岐にわたる。図書館運営業務は、一般的に、貸出・返却、選書、レファレンスサービス、リクエスト受付、督促、テーマ展示などだ。しかし、これに、イベントの企画・実施、ブログの更新、ホームページ用のエッセイと本紹介文の作成、ボードゲームの貸出、広報、記録入力が加わった。館内で利用者から遊びに誘われてうっかり盛り上がったら最後、残りの時間は高速でキーボードを叩く破目になる。しかし、児童書専門図書館では、物語を通して子どもとつながる密度の濃い時間を過ごすことができた。利用者層の顔を思い浮かべて、見計らい本から選書する。メインイベントであるおはなし会の後には、発語や物語の捉え方を記録して振り返る。子どもと1対1で対話できたことから多くの学びを得た。

最後に「文庫活動実践者」について紹介する。まず、文庫活動とは、地域の子どものために図書を収集・選書し、定期的に貸出を行う活動である。自宅を開放して行う家庭文庫もある。私の行っていた文庫活動は、週に1回、幼稚園の絵本クラブで絵本をよむ活動だ。文庫では、図書館のように本をかりることができるので、子どもたちは、絵本を自分で選んで貸出していく。文庫には、絵本のプログラムの時間、貸出の時間、よみあいの時間があり約1時間で活動は終了する。その後、実践を振り返り深めていく時間も日常的にあった。文庫活動は、おなじみの子どもたちと本を通しての関わりが長期間できる点が特徴である。子どもたちが自由に選べるよう3歳児クラスの子どもにも時間をかけて本を選んでもらう。はじめはスタッフのすすめる本をかりていた子どもも卒園の頃には、自分の好きな絵本はどんな本なのかわかるようになっている。
絵本を幼い子どもたちと一緒によむ活動を通して、実感することがある。言葉は、ただの音の連なりではない。よみ手が意図せずとも、その時々の思いを乗せて発せられている。私は、絵本のよみ語りやストーリーテリングの実践のなかで、季節の変化やその日の出来事、自分の子ども時代のエピソードを自分の言葉で子どもに話すことも広い意味でのお話なのではないかと思うようになった。
「子どもを言葉で可愛がってください」と学生時代にストーリーテリングの先生が言ってくださった言葉を思い出す。先生は偶然にも、私がはじめて自分で選んだ本の書き手だった。子どもたちは、他でもない自分に向けられて語られる言葉によって、目の前の大人の思いの部分を受け取ってしまう/受け取ることができるのだと考える。

SNSを含めた子どもを取り巻く環境には、様々なレベルの種々雑多な言葉があふれている。それらの言葉をぶつけることで、自身の内面の不安を一時的に解消しようとするような現象は恐ろしい。しかし、ただ思っているだけでは現象に1ミリも届かない。だから、耳を塞ぎたくなる言葉以上に、私は他のたくさんの言葉やお話を届けたい。
私は、今も子どもの本の現場につながりを持っている。おはなし会という場でも、会話のなかでも、自分自身の発する言葉と声に意識的でありたい。たとえ一瞬でも、物語の世界と接続した安全圏として場が機能することで、子どもが自分と向き合う時間を生み出すことができたらと思う。生まれては消えるおはなし会の場において、物語を通して伝えられることがあると信じて、この先も語ることを続けていく。

#PS2021

<参考文献>
・E・コルウェル、石井桃子訳『子どもと本の世界に生きて 一児童図書館員のあゆんだ道』こぐま社、1994年。
・五十嵐絹子『学校図書館ビフォー・アフター物語―図書館活用教育の全国展開を願って』国土社、2009年。

<参考ホームページ>
・カレントアウェアネス NO.297 (2008.9)
カレント№297.indd (ndl.go.jp)
検索日:2021.05.07
検索ワード:「児童サービス」「戦前」