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ダンテの神曲 三韻句法

イタリアのダンテ。2000年、英国の「タイムズ」紙が文芸付録で「過去千年間の最高傑作は何か」というアンケートを高名な文芸批評家たちに対して発したところ「神曲」が選ばれたそうです。
ダンテはこの作品を「Commedia(喜劇)」と名付けています。日本語で「神曲」と呼び始めたのは森鴎外と言われています。アンデルセン原作森鴎外訳「即興詩人」の中に「神曲」と題された章があり、そこでこの作品が「何等の快事ぞ。神曲は今我書となりぬ」に始まる紹介が行われたためです。

鴎外はダンテの作品を「幽味にして恍惚。~~誰か来りて余がが楽しみを分つ者ぞ」と日記に残していますが、文学の素養の乏しい私にはそこまでの感想を持つことはありませんでした。

むしろ、その詩の構成には驚かされます。ダンテの神曲は三韻句法という形式で成り立っています。テルツァ・リーマ(Terza rima )。
「ABA BCB CDC DED.......」のパターンで作られた三行連、で書かれています。

Nel mezzo del cammin di nostra vita(A)
mi ritrovai per una selva oscura(B)
ché la diritta via era smarrita(A)

E quanto a dir qual era è cosa dura(B)
esta selva selvaggia e aspra e forte(C)
che nel pensier rinova la paura(B)

tant'è amara che poco è piú morte(C)
ma per trattar del ben chʼio vi trovai(D)
dirò de lʼaltre cose chʼiʼ vʼho scorte(C)

Io non so ben ridir comʼiʼ vʼentrai(D)
tantʼera pien di sonno a quel punto(E)
che la verace via abbandonai(D)

これは日本語訳では分かりません。ダンテの神曲は何冊か翻訳本があり、私は「河出文庫 神曲地獄編 平川祐広訳」を読みました。森鴎外ほどではありませんが、引き込まれていくものがあります。

これ以外にも、ダンテの神曲を幾何学的・数的に研究した人がいます。慶應義塾大学の藤谷道夫教授はの「ダンテ『神曲』の幾何学的構成について」はネットで読むことができます。

ダンテの神曲の韻の音の美しさは、Podcastでダウンロードすることができます。出だしの有名な箇所は、
Nel mezzo del cammin di nostra vita
mi ritrovai per una selva oscura
ché la diritta via era smarrita
(人生の道の半ばで 正道を踏み外した私が 目を覚ました時は暗い森の中にいた)

平川氏は解説で「西洋文学の主流は、中国文学の主流もそうだが、本当は詩poetryである。それなのになぜ日本で詩ではなく小説が読まれたのか。それは散文の小説はまだしも訳しやすい、それに反して詩は訳することが大変難しい。意味を伝えることはできても詩情を伝えることは容易でない。それもあってダンテの『神曲』も長い間日本人に親しまれずにきたのである」

詩情を味わうには翻訳を読むだけではなく、音を聞いて、さらに声に出してみないと難しいでしょう。今は、Podcastもあり、神曲の詩情に触れやすくなっています。

写真は、ラヴェンナにあるダンテの墓です。

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