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現代アートの言語化は難しい

上野の森美術館で開催されているVOCA展2021では、現代アートの作家さんたちの大作を鑑賞することができます。作品の横には推薦人の解説があります。推薦人は、学芸員、キュレーター、美術館館長、などなど。

作品はどれも大作。圧倒される熱量を放出している作品もあれば、人間の目の錯覚を利用した作品、和をかもしだした作品、など若手の現代アート作家の作品が展示されています。

私は、それらの作品もさることながら、推薦人の解説文に興味を惹かれました。限られた文字数で作品を表す、あるいは解説する。
若手の作家さんたちと話していると、「言語化が難しい」という言葉を聞くことがあります。作品を文字で表現することの何が難しいのだろうと、何のことだかよく分かりませんでしたが、なるなどなるほど、その難しさが分かりました。

推薦人の解説文は、どれもレトリックを駆使した「アート」のようです。作品と同じように難解なものもあります。作品の圧に負けじと解説文が「アート」化しているようです。
作品と解説文が一体となって1つのアート作品になっているようでもあります。

レトリックについては、佐藤信夫氏が著書「レトリックの記号論 (講談社学術文庫)」で次のように書いています。

「古来レトリックの理論が、しゃれた魅力的なことばづかいというものを探しているつもりで研究をかさねていった結果、当事者たちもいっこうに気がつかずに見出しかけていたものは、新しいものの見方が新しいことばづかいを要求する、という事情であった」

斬新な現代アートには、魅力的なことばづかいを常に探求しないといけないのでしょう。

例えば、一番気になったこの作品についての解説は、

「パネル一面に描かれた地図。周囲を囲む紙面には、有機的・抽象的なイメージが連なっている。4色の色鉛筆という限定された画材を用い、線描や痕跡を重ねることで描き出される風景。重なる線の集積からは徒歩で地域の道を覚えるように線描を刻んでいく加藤の身体性や、多数の線が引かれた時間の累積が想像される」
(作品は加藤真史さん、解説は千葉市美術館の畑井恵さん、です)

難解です。「有機的」「線描を刻んでいく身体性」「多数の線が引かれた時間の累積」

西洋絵画の鑑賞は、宗教や歴史の知識があるとより楽しめますが、それが西洋絵画は難しいと思わせることにもなっているようです。

現代アートの理解については、それを語るときの表現力の難しさ、かもしれません。「色が綺麗ですね」「何かをイメージできますね」というようなありふれた感想では、作家さんたちがいう「言語化」にはほど遠いのかもしれません。

学芸員、キュレーターは、芸術家でもあり「言語化」のプロフェッショナルでないと勤まらないと思わせる展示会でした。





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