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月と陽のあいだに 113

青嵐せいらんの章

月蛾げつがきゅう(6)

 「月蛾宮の暮らしはいかがですか?」
 とこに起き上がったコヘルは、白玲はくれいを見て微笑ほほえんだ。暗紫あんし回廊かいろうを歩いていた時に比べても、顔色はすぐれず、やせたようだった。白玲は見舞いが遅れたことをびた。
 「お気になさいますな。叙位式じょいしきで、あなた様が皇女殿下になられるのをこの目で見ることができて、本当に嬉しく思いました」
 アルシーはお役に立っておりますかと問われて、白玲は困ったように笑った。
「アルシーはいろいろ気遣ってくれますが、なかなか仲良くなれません。月族と陽族の血を引いた同じ『はざまの子』として、通じ合うものがあるかと思っていたので、少し残念です」
 白玲の言葉に、コヘルは少し考え込んだ。
「おそらく私のことが原因でしょう。あの子は私が輝陽きよう国に向かうことに反対でした。やまいのこともありますが、自分より殿下のことを気にかける私に反発したのでしょう。
 床に就いてからは、殿下のせいで病が重くなったと思っている節があります。いくら違うと言っても聞く耳を持ちません。
 しかし、殿下のことをもっとよく知れば、きっと心を開くことでしょう。今しばらくお時間をお与えください」
 もちろんですと、白玲はうなずいた。
「アルシーの気持ちは、よくわかります。私が婆様に甘えたかったように、アルシーもコヘル様に甘えたいのだと思います。どうかアルシーとの時間を大切になさってくださいませ」

 そうですね、と優しい目をして笑うコヘルに、白玲は菓子のかごを差し出した。
白村はくそんに訪ねてきてくださったとき、お土産みやげにいただいたお菓子を作りました。召し上がっていただけると嬉しいのですが」
コヘルは目を細めて籠をのぞき込むと、菓子を一つつまんで口に入れた。甘酸っぱい果実の香りが口の中に広がり、思わずほうっと息をついた。
「これは美味しい。今度アルシーにも作り方を教えてください。また食べたくなるかもしれませんから」
「その時は私が作ってお持ちします。いつでも何度でも」
白玲は、思わずコヘルの手を握った。

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