
C向けアプリ世界大戦 🌎 | 競合が1億DL獲得し "完敗" した悔しい話
こんにちは、XYZGOATの代表をしている @macyamazaki_ です。
このnoteでは、前職の株式会社バベルにて VP of Product として0→1でグローバル開発をしていた際の話を書いております。
2020年3月、バベルでグローバル向けに 「iface」というAI顔交換アプリのiOS版をリリースしました。ノンプロモながらこれまでにアメリカ、イギリス全世界で数百万DLを突破しています。(すごくないですか…?)これだけ聞くと自慢話に聞こえますね。。。
しかし、、、、、、同時期に出た競合アプリ 「Reface」 (リフェイス) は1億DLを獲得していまして、悔しくも競争には完敗してしまいました。
当時を振り返りながら、競合アプリとの戦い、勝敗を分けた差分や学びをこの記事に書いています。
今後グローバルにプロダクトを出していく方々の参考になれば嬉しいです!
この記事で話していること
先にサマリーです。以下の内容をまとめています。
・私は誰か?
・株式会社バベルについて
・バベルが開発したAI顔交換アプリ「iface」について
・競合アプリ「Reface」の快進撃
・差がついたポイントと学び
・感想
・最後に
私は誰か? (自己紹介)
手短に私についての自己紹介をさせてください。
大学時代
・早稲田大学3年時にiOSアプリを個人開発 → カテゴリランキングでTop20にランクイン。寝る時以外はずっとコードを書くかマーケをしていた。
・アメリカへ留学そこで外国籍の友達にも使ってもらえるような ”グローバル規模でプロダクトを作る” ことを志す。
・2016年グローバル市場に対して、本気で戦っている日本のスタートアップがメルカリだったので「世界で戦える環境に身を置きたい」と入社。
メルカリ時代
・はじめはPMのインターンとして、US@Tokyo という東京オフィスからUSプロダクトを作るチームに参加。
・その後メルカリヨーロッパ(UK)に半年間赴任し、すぐにお金に変えることができる機能をUKに導入するチームで、出品数を伸ばすことができた。
・帰国後にリリース前のメルペイを経て子会社のソウゾウにてmertripという旅行記シェアアプリを開発するチームで、初代PMを担当。

バベル時代
・2018年にバベルCEO杉山さんから「一緒に0からグローバルプロダクトを作ろうよ」と誘われる。初めからグローバルを狙った0からのチーム組成や、スタートアップで小さく試していくチャンスに魅力を感じた。
・彼と初めて会った1年後の2019年5月にバベルにJoin。 "iface" を0から開発することになる。
バベルについて
バベルはこれまで、動画事業や中国の越境事業などを行ってきました。現在はAIオートメーションを様々な領域に展開する事業を展開しています。今は文字起こし機能を備えたWeb会議記録ツール「ailead」を中心に展開しています。
バベルに関する詳しい話はCEOのnoteをご覧ください ↓
iface 🇯🇵 について
私が入社した2019年5月当時、バベルは動画事業を行っていました。
TikTokやYouTubeといった動画プラットフォームが台頭してきていながらも、プロではない個人が動画コンテンツを作るハードルの高さを感じていて、それをAIで解決できる手段がないか模索していました。
ちょうどその頃、中国のAppStoreにて2週間連続で総合ランキング1位になっていた AI顔変換アプリ "Zao" を発見。
ZaoはAIの力で誰もが自撮り1枚を取るだけで顔交換が楽しめるアプリで、個人が動画コンテンツを作るハードルを極限まで下げたプロダクトで個人的には感動(爆笑)しました!

オフィスのメンバーで小一時間笑っていたことを覚えています。
「これだ!!!」と思いバベルでも英語圏で同じタイプのプロダクトを作ろうと、2020年3月に AI顔変換アプリ・ iface をリリースしました。
↓ AI顔交換アプリがどのようなプロダクトかは動画で見ると一番わかりやすいです
自撮り写真を1枚撮るだけで、歌手や映画の中の主人公に自分がなれる顔交換アプリです。GAN (Generative Adversarial Network) を使ったAIモデルが搭載されていて、動画の各フレームの画像を生成することによって動画で顔交換が可能になっています。

iface 🇯🇵 はリリースから1年間で、バイラルの力のみでグローバル100万強のダウンロードを獲得しました。
競合アプリ・Reface 🇺🇦 の快進撃
同じ時期に、3年間AIによる顔交換の技術を研究していたウクライナ🇺🇦のスタートアップが Reface というプロダクトをローンチしていました。
アプリ参入の時期はiface 🇯🇵 の方が3ヶ月ほど早かったです。競合の Reface🇺🇦 のリリース当初、顔交換AIの精度は iface 🇯🇵 > Reface 🇺🇦 と優っていたため、ダウンロード数でも一歩リードしていました。
が、競合のReface 🇺🇦は創業時から 3年かけて研究し続けていたAIの顔交換技術を持っていました。
リリースから2ヶ月後ほど経ったある日、Reface 🇺🇦の顔交換AIの大型アップデートにて精度が格段に向上(動画からブレが消えていたり、顔を馴染ませる技術が強化されていました)し、頭ひとつ抜けた状況になりました。
そして先にグローバルでバイラルの火をつけたのはReface 🇺🇦..…
Reface🇺🇦 が🇹🇭 タイ で初めにバズりました。
「ディズニープリンセスになってみた」というTikTokチャレンジが特にタイで爆発的に広がり、アプリを公開してから初めの3ヶ月で100万ダウンロードを彼らは達成していました。。。。
ここから一気に差を離されていきました 😱😱😱
その後アジアを超え、アメリカにまで話題が拡散。
競合のReface 🇺🇦 の 「憧れのVictoria Secret のモデルになれる」 顔交換動画をアメリカ人女性たちが、一斉にInstgaramやSnapchatで拡散し始めました🔥
@reface Weekly catwalk. Which day is your fav? #reface #refaceapp #catwalk #vs #vsmodels #refaceappchallenge #faceswap #foryou #viral #model #vssupermodel #fy
♬ som original - edits
これでバイラルでの爆発が全世界的に広まりました。
その結果、、、同時期にでた競合アプリ・Reface🇺🇦 のDL数は、1年間の短い期間で、1億DLを突破 😳リリースから1億DLへの到達スピードは Instagram やTiktok よりも遥かに爆速でした。

どこで差がついたか
同じコンセプトのアプリで100倍以上の差がついて、iface 🇯🇵 は負けてしまいました。文章では伝わりにくいかもしれませんが相当悔しいです。
ここからは反省を込めた振り返りです。
① プロダクトに内在されているAIの精度
バベルのiface 🇯🇵 とReface 🇺🇦 の顔交換の精度(動画に自然に馴染んでいるか、ユーザーの顔に似ているか等)はリリース当初 iface🇯🇵 の方が、間違いなく上回っていました。
AIの精度が高いと当然ながら生成される動画が面白くなるので、バイラル係数も引き上がります。
ですが最終的にはこの2ヶ月後に Reface🇺🇦 の顔交換AIのアップデートにより逆転されてしまいました・・・
顔交換AIの学習やアップデートには3~4ヶ月、さらに長くかかることがあります。そのため、リリースされていない競合の動きを読んで先手を打つことが非常に大切でした。
② Android版への対応の遅れ
最初 iface 🇯🇵は iOS版のみでリリースしていました。
理由としてはグローバルプロダクトの注意点として、Android版を出すとARPU (1ユーザーあたりの平均売上) がほぼ確実に下がるからです。
Android は発展途上国 & 人口の多い国のユーザーが多数を占めていて、中国、インド、ブラジルなどのAndroid比率が極端に高い国のユーザーが押し寄せてきます。
iOSよりもARPUが極端に低いAndroid版を出すと、赤字幅が増大し会社自体へ与えるダメージが大きいと判断し、Android版を開発する意思決定を取ることができませんでした。
当時、iface 🇯🇵 の広告やサブスクでのアプリ売上のうち、9割近くがサーバー代に消えていました。Android版を出していたら、間違いなくサーバー代が回収できずに赤字が拡大して会社の財務状況にも影響が出ていたと思います。
一方で競合のReface🇺🇦 はリリース初期から攻めの姿勢でiOSとAndroid版の両方を展開していました。
今思うと、バイラルが非常に重要なプロダクトにおいてはiOSとAndroidの両OSがリリースされていることがマストです。
反省としてはある程度の赤字を許容する覚悟が足りませんでした。
③ 差がジリジリと広がっていった際の初期対応
徐々に競合のReface 🇺🇦がリードしていく中の対応にも反省があります。
「AIの精度以外で競争しなければならない」と考えてiface 🇯🇵に、複数の機能をリリースしました。
例えば、WhatsappやiMessage のスタンプセットを作れるツール(LINEのスタンプのようなイメージ)や、メディアとして顔交換を楽しむ機能(次のバットマンの主演はどっちの顔が良い?と投票できる機能など)を導入しました。
が、状況は大きく変わリませんでした。よく考えてみると戦況が動き出す前の戦略や準備の時点で勝負が決まっていたのだと思います。
小手先の工夫ではなく、あくまでユーザーのコアな体験を磨き上げることを優先すべきでした。
④ プロダクト以外での差別化
競合のReface 🇺🇦は資金調達の時点で、アメリカのセレブを味方につけていました。
ジャスティンビーバーやアリアナ・グランデのマネジメントを行っているScooter Braun や Lil Nas X、マイリー・サイラス、ブリトニー・スピアーズのマネージャーである Adam Leber といった著名人を、投資家として迎え入れていました。
その結果、ジャスティンビーバーやマイリーサイラスがTwitterで、競合のRefaceを取り上げて大バズり。あえなく、バベルのゲームセットとなりました…
When your godmother @dollyparton looks better in your own video than you do. #midnightsky on #reface ! 👄 pic.twitter.com/6P1qX6xW9p
— Miley Ray Cyrus (@MileyCyrus) August 26, 2020
自分も含めてプロダクト以外のBiz Devで差別化することは考えていましたが、資本としてセレブリティを入れる打ち手は全く考えていませんでした。ここに関しては競合が完全に上手だったと感じます。
その中でもよかったこと
悔しい思いで一杯ですが、良かったこともあります。
エンジニア不足に悩まされることはなかった。
フィリピン🇵🇭 やインドネシア🇮🇩 にてシニアエンジニアを採用し、迅速に開発を始めることができた。
グローバル展開を Day 1 から目指していて、社内チームのコミュニケーションも全て英語に統一。
ありがちな日本語→英語に翻訳するようなコストが0だった
グローバル戦のスピード感とスケールの大きさを肌で実感できたこと(言語化は後日noteで書くかも)
AIオートメーションの事業機会は大きく、今回のiface 🇯🇵以外でも AI × グローバルでは様々なビジネスが生まれるだろうと感じています!
→ 引き続きiface 🇯🇵でもコンセプトを変えながら再チャレンジをしている最中です!
"相当な覚悟がないとグローバルでは勝てない"
領域のアップサイドと競合環境を冷静に分析して、リソースやお金を前のめりに投下する覚悟があれば、この戦いに勝てる可能性は十分あった と思います。
結局のところ自分たちが、どこまでいくのか分からない中で不確実性の波にお金とリソースをつぎ込む意思決定ができませんでした。
今振り返ればあそこが踏ん張りどころだと分かるけど、渦中にいるとまるで分からない(私の実力不足が大きいですが)。
AI精度の向上とバックエンド、さらにはAndroid版開発の投資を惜しまずにすればよかった。そしてお金が足りなそうな場合はCEOとも相談して手段を選ばずにお金を調達するべきでした。
"波が来たときに沖にいることはできた" しかしその 波の大きさを過小評価してしまい投資に踏み切ることができなかった。
競合のReface 🇺🇦は、 SensorTower による概算だと、いまだに毎月数億円の売上を出しているそうです。
全然人件費やサーバー代はペイできる計算だし、そこから動画制作事務所とのコネクションを作ってハリウッドなどの伝統的な会社との取引も作れたはず。投資する金額の何倍ものリターンになっていると思います。
iface🇯🇵 vs Reface🇺🇦 のようなバイラルによってユーザーに広がっていく市場は、まさに勝者総取りです。フリマアプリ市場のメルカリのようにとにかく前のめりに投資して踏み込めたプレイヤーが勝つことを改めて認識しました。
このような市場は戦いのスケールが大きくなってくるとチャレンジャー側はひっくり返せません。
「自分達が張っている領域や仮説を信じ抜いて、不確実性が高くとも、リソースとお金を前のめりに投下する」。これができないと、グローバルで大勝ちすることはできないと感じました。
全部”たられば” の話で意味はないかもしれません。ただ、手が届きかけたものに対する思いは尽きないものです。
個人的な感想
今までの海外挑戦を振り返ってみると、、、
🇺🇸 メルカリUSにいた頃は個人として正直大きな価値を出すことはできませんでした(🌎 海外挑戦1回目)
🇬🇧 メルカリヨーロッパに行くと、ユーザーをつぶさに観察したり、文化の違いや物事の考え方の違いにフィットして自分たちを客観視できるようになりました(🌎 海外挑戦2回目)
🇺🇸 バベルのifaceでは、波が来るバッチリのタイミングで沖にいたが、勝ちきれなかった(🌎 海外挑戦3回目)
ジリジリではあるものの、回数を重ねるごとに成功に近づいてきている実感はあります!
が、この壁はまだまだ相当高そうなので毎回反省しながら何度も何度も打席に立ち続けるしかないです。
国内の新規事業の成功確率も高くない中で、海外における事業の成功確率はもっと低いのが現実だと思います。
それでも何回も諦めずにチャレンジして人生をかけてやっていきたいと考えています。
これから何をするか
2022年4月にXYZ GOATという会社を創業しました!
一言で言うと「経験豊富な海外エンジニアとPMの自分というプロダクトチームで解決する、"グローバルプロダクトを作ることに特化したプロダクト開発傭兵集団" 」です。
note や Twitterでも発信していくのでぜひフォローお願いします。
特にTwitterでは海外のPM論の記事をまとめていたり、リサーチ結果をTweetしています。以下Tweet例 ↓
PMが各分野で "最低限身必要な知識" まとめ
— Yamazaki | Babel (@macyamazaki_) October 11, 2021
技術
❶ 技術スタック
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❷ Excelでの数値計算
❸ データ分析
↓ Shopify PM の方の記事をまとめました pic.twitter.com/70hKShM3u1
『PMに必要な"ソフト" スキル』 by Google PM @manosaie
— Yamazaki | Babel (@macyamazaki_) September 13, 2021
❶ ソフトスキルが足りないPMの典型的な失敗例
❷ どうすればその失敗を防ぐことができるか
以下要約です pic.twitter.com/z5KMdtR3VW
✌🏻 meety でおはなし ✌🏻
noteには書けないような裏話に興味がある方、ぜひ気軽にmeetyしましょう〜
このnoteのもっと深い話
海外エンジニア採用ってぶっちゃけどう?
海外挑戦への壁打ち(役に立てるかは分かりません)
副業の相談 etc…
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