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『「テロル」と戦争』 スラヴォイ・ジジェク

精神分析のラカン理論を援用して、映画などの大衆文化から思想的イデオロギーまで大胆に切りきざむ、スロベニアの思想家スラヴォイ・ジジェク。
政治的な言説に、あまり直接ふれることのないジジェクが、2001年9月11日の米同時多発テロと、その後の世界情勢につき動かされて書いた、5つの貴重なエッセイをまとめたのが本書だ。

冒頭に掲げた、映画『マトリックス』のセリフを起点として、テロリズムと報復戦争についての考察が進められる。「9.11」が勃発したとき、文明国のだれもが、世界貿易センタービルに飛行機が追突する光景に釘づけになり、そのテレビ映像を何度も見たくなった。
ジジェクは、その映像に私たちの住む文明社会の見せかけを粉砕し、第三世界で起きている生々しい「本当の現実」を突きつける力があった、という。

だが、旧ユーゴスラビアで反体制的な政治活動にたずさわってもきたジジェクにとり、ことはそれほど単純ではない。「9.11」以降においても、「米国かテロリストかという二者択一は私たちの選択肢にはならない」のだ。
アメリカの覇権主義も、原理主義的テロもひとしく見せかけであり、たがいに相容れない悪夢としてしか経験できないものだからだ。
マスメディアの報道だけでは飽き足らない人に、より根本的な「ものごとの見方」を示してくれる、新世紀の戦争論である。


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