ヴィシー留学記 あとがき

ある日、インド人の男はハイネケンを飲みながら、僕にこんな話をした。

「僕はもう結婚はしないことに決めたんだ。」
「どうして?」
「3年前に手痛い失恋をしてね。僕はその時、もうこんなことは経験したくないと思った。」
「そっか・・・僕も同じような経験があるよ。」
「・・・そうか」
「君はその人と長く付き合っていたのかい?」
「うん。長かったよ。彼女はコロンビア人だった。とても優しくてね、頭の良い人だった。でも、彼女は突然国に帰ってしまった。僕を置いてね。」「・・・理由もなく?」
「理由はあったと思うけど、うまく言えないんだ。」
「そっか。君はその人のことをまだ忘れられないんだね?」
「・・・きっと僕は一生、忘れられない。」
「その気持ちはわかるよ。でも、いつか新しい人が見つかるはずだ。」
「僕は・・・もう恋愛はしないつもりだ。それが楽に生きる方法だよ。自分を守る方法だ。僕は一人で生きて行こうと思う。」

別の日、韓国人の女はハイネケンを飲みながら、僕にこんな話をした。

「ねぇ、セックスなんて、二人でやるスポーツみたいなものよ。」
「・・・つまり、気持ちは必要ない?」
「うん。私はやれと言われたら、誰とでもできると思う。」
「でも、僕にとっては、そうじゃない・・・と思う。」
「本当?じゃあ、君は恋とセックスはどちらが重要だと思う?」
「僕にとっては、限りなく近いものだと思う。どちらがより重要かを決めることはとても難しいよ。」
「それはつまらない理想論よ・・・ねぇ、よく考えてみて。男こそチャンスがあれば、誰とでもできるでしょう?君にもし美人が突然やってきて、今晩どう?って言われたらするんじゃない?」
「・・・(僕はしばらく考えてから)そうだね、するかもしれない。」
「ということは、君も結局、誰とでもできるということじゃない?だったら、セックスなんて、大して重要なことじゃないでしょう。」
「・・・たしかに論理的にはそうだ。でも、何かその結論は感情的に間違っているような気がするよ。それに・・・君がそう言う事は僕にとってはとても悲しいことだ。」
「うん。君の言いたいこともわかる。でも、私が言いたいのは、恋はもっともっと重いものだということよ。」
「そうだね、それはその通りだ。」
「だから、私が恋に落ちることはとても難しいわ。私はこう見えて、人を信じることについてはとても慎重なの。だって、それって怖いことでしょう?」

僕はヴィシーでそれぞれとよくハイネケンを飲んだ。国なんて関係なかった。僕らにはとにかくハイネケンが必要だった。確かなことは一つだけだった。