象徴的日記 2017.04.12

朝鮮出兵に赴いた農民は、自分がなぜ戦わなければならないのかわからなかった。彼はただ穏やかに、祖国で暮らしたいだけである。愛する人といれれば、それで充分な男であった。しかし、その幸せのためには、戦いに参加しなければならなかった。彼は運命に従うほかなかったのである。

そんな意欲の低い男でも、朝鮮兵が見えると、矢のように一目散に駆けていった。それはまるで月が男を魅了したようであった。そして、ある程度の距離まで近づくことに成功すると、相手も彼の存在をしかと認めた。しかし、そこで一瞬の均衡状態に入った。それは確かに一瞬だったのだが、永遠のように長く感じられる瞬間であった。

ただ、当然のように、先に動かなければいけないのは攻める側の日本である。海を渡った異国で、残された時間は少ない。彼は早く勝利をおさめるために、勇み足で相手との距離をさらに詰め始めた。しかし、そこで一発の銃弾が彼の脇腹に飛び込んできた。その痛みに、彼は跪いたが、なんとか撃ち返そうと、意識の端で引き金を引いた。相手も倒れたようだが、彼は相手が負傷したことをその時に知る由はなかった。すでに意識がなかったからである。

脇腹の傷はそれなりに深かった。ただ、命に問題はなく、致命傷にならなかったのは、不幸中の幸いであった。また、後でわかったことであるが、彼が撃った朝鮮兵も致命傷にはならず、助かったそうである。

彼は日本に戻ってから、相手の朝鮮兵のことをしばしば考えるようになった。彼は相手の人生がうまくいくように、しばしば祈った。それは罪滅ぼしでも、偽善でもなく、自然な感情だった。どこかでつながっているような、そんな心持ちがしたのである。考えるに、朝鮮は本来、敵ではない。隣国の尊敬すべき存在であった。きっと相手もなぜ戦わなければならなかったのか、わかっていないだろう。もちろん彼もどうして戦争になってしまったのか、わからなかった。

ただ二人の間には、傷跡だけが生きた証として残った。彼らはもう二度と会うことはない。しかし、同じ傷を持って、これから行きていくのだった。