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すてきすてきすてき!(ft.『sutekina』)【Sandwiches #31】

 ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ! 壁越しに聞こえる目覚ましアラーム音はいっこう鳴り止む気配がありません。あいかわらずねぼすけな隣人をにらみつつ、「楽曲紹介」シリーズの続きを書いてまいりましょう。今日は2016年リリースのデビューアルバム「Orang.Pendek」から、M5『sutekina』を取り上げます。

 この曲は、散歩に出た隣町で「知らないあなた」と出会い、「なんだかとっても素敵な音が」聞こえるような、一瞬のインスピレーションを受けるも、またすぐに忘れてゆく。そんな一連の流れを淡々とえがいた曲になっています。「sutekina」なんて曲名、なんだかいま見返すと雑だねえとも思いますけれども、えてしてタイトルはそんなものよな。

 んでもってこの「すてき」ってことばはわたしの脳内辞書の「お気に入り」フォルダ、とくにその上位に登録されているもんでよく使うのですが、すてきってなんぞやとね、ふと考えたわけです(そういえば先日も、暮らしの手帖社から出版されている『すてきなあなたに』という書籍についてふれたばかりでしたね)。

 すてきすてきすてき! どんな意味なのや、どうやってできたことばなのや、と、気になってきませんか。めっぽう安易やと承知のうえで、きょうはこのすてきについて調べた結果を書き残してみたい。最近ね、辞書など引かんもんやから、「そんなん知ってるわあ!」ってな向きもご堪忍ください。

 ささ、おおまかには、上に貼ったコトバンクにあるとおり……「①心を引き付けられるさま。すばらしいさま」「②程度のはなはだしいさま。並はずれたさま。」といった字義のようです。普段、どちらかといえば①の意味で使うことの方が多い気がしますが、「すてき」と何かを形容するとき、なんだかふうわり穏やかな、落ち着いたニュアンスを含んでいるものと勝手な印象を持っていたことに気づきました。実際には、②のようにエクストリームなすばらさしさを言い表すこともあるのですね。

 よくサイトを読めば、そもそもはこの②のほうが本来の意味で、もうすこしてやわらかい①のニュアンスは「一九世紀初頭ころから、江戸のやや俗な新しい流行語として、庶民の間で用いられはじめたものらしい」とある。そもそもの由来は「すばらしい」の「す」に「的」がついたものとのこと。

 「漢字文化資料館」というサイトをあたってみれば、「江戸の終わりから明治にかけての時期には、泥棒のことを「泥的」、官僚のことを「官的」というような俗語があって、それと似たような用い方をされたものなのでしょう。」と言うが、これは噛み砕けばギャル言葉の「〜系」とか、そういうあれやろうか? あれれ、では「素敵」って漢字はどこから? などと考えながら読んでいくと、

 となると「すてき」とは「す的」なのであって、「素敵」は当て字だ、ということになります。事実、「すばらしい」を「素晴らしい」と書くことから生じたのでしょうか、「すてき」を「素的」と書く書き表し方もあって、昔はこちらの方が「素敵」よりも優勢だったといいます。つまり、「素敵」に「敵」が使われているのには、きちんとした理由は全くない、ということになるのです。

【引用元】漢字文化資料館 / 「素敵」という熟語には、どうして「敵」という漢字が使われているのですか?(https://kanjibunka.com/kanji-faq/mean/q0374/

  とあって、そうか、いまでは「素敵」と書くけれど、由来から考えれば「敵」も当て字やったわけですね。しかしてこの「敵」がどこから湧いてきたかについては諸説あるようです(わたし個人として納得感があったのは、「語源由来辞典」というサイトで見つけた「すばらしすぎて敵わない(かなわない)」の「敵わない」から「敵」が拾われたという説でした)。

 辞書的なおはなしはこの辺にして……とかく、そんな「敵わない!」と思えるほどの「すてき」がぽっとこころに灯るのは、いったいどんなときやろうか。ひとや、ものに心がひきつけられるとき、わたしは何をみてそう感じているのかしらん。複雑怪奇なその演算作用をまるっと「す・て・き」の三文字にパッケして、それ以上は野暮やぼや、とまあそれがことばの金型にはめられたmoodの結果でしょう。

 「sutekina」では、その瞬間を「音楽が聞こえた気がした なんだかとっても素敵な音が」などとのたまっています。ふと感じた「すてき」が、メロディとなってどこからともなく溢れ出す映画的モーメント(芝居くささもなんのその!)。それはいつだって偶然、だけど運命的なせめぎあいで、ばちりと刻んで残したいと願ってもなかなか難しいもんです。晩御飯とふかふかのベッド、赤毛のあの子やエトセトラ、普遍なそれらもいっぱいだしね、結局ふうっと振り返ったときには、見えなくなってしまうのね。


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