掃除機と向き合う。
掃除機を、かれこれ15年以上使い続けている。
最近の掃除機は軽量化されスタイリッシュなデザインだが、うちのはもちろん象さんタイプだ。
動かしても重く、グズグズとしている。吸引力が弱いのでゴミを吸い取り切れず、吸わないどころかお尻から出る風でゴミを撒き散らしてしまう有様だ。
結局雑巾や紙で残った塵芥を集めて、後始末しなくてはならない。
しかし私は、掃除機を買い換えようと思ったことはない。この掃除機が今、全力を出せていないことに気付いていたからだ。
何故か。 答えはひとつ。掃除機が汚いのだ。
宝塚の生徒の毎日はせわしなく、いつも時間に追われている。公演中は舞台中心の生活になるし、作る期間は朝から晩までお稽古場にいることもある。
その結果、家事は隙間時間に片付けることになり、掃除機のケアなどつい後回しになっていた。
今の私は時間があり余っている。
ある穏やかな昼下がり、一念発起した私は掃除機の大掃除に取り掛かった。
掃除機を助けたい。
吸込み口に溜まっている埃を徹底的に取り除く。割り箸、ハサミ、ヘアピンを操って、掃除機からゴミを引き剥がす。
絡まる糸屑は呪われた蜘蛛の罠のように、執拗に私を苦しめた。
しかし、なんという爽快感!! 何が何でも、すべての埃を取り去りたい。完璧な形を目指したい。
長い間生活をともにしてきたこの掃除機と、こんなに真剣に向き合ったことがあっただろうか。無心に、私は掃除機を掃除した。
両腕が疲れ切った頃、私は立ち上がり、厳かに掃除機のスイッチを入れた。
初めて聞くような可愛らしい音を立て、掃除機は動き出した。
信じられない吸引力だ。少し鼻(首?)を引っ張るだけで車輪はくるくるとまわる。
「こら!ちょっと待ちなさい!そんなに走らないで!」健康なゴールデンレトリバーのように、掃除機は軽快に走り出した。
元気いっぱいの掃除機を見て、私は思った。
今まで、苦しかっただろう。存分に実力を発揮できず、どれほどのストレスを感じていたことだろう。
それなのに、吸引力が弱い、お前ももうトシね、などと乱暴に鼻(首?)を引っ張ったり、胴体を冷蔵庫の角にぶつけたり、私がしたひどい仕打ちの数々。
ごめんね、掃除機。有難う、掃除機。 お引っ越しまでの短い間だけど、その能力を存分に解き放ってほしい。
家が綺麗になった。
素晴らしい掃除機も素晴らしい人も、中にゴミが溜まっていたら力を使えない。
絡まった糸屑をほったらかしにしていたら、今だ!という時に、思い切り活躍することができない。
日々環境を整えて、メンテナンスを怠らず、いつでも最高のコンディションでいること。そういう毎日が、本領発揮の土台となるのかもしれない。
あなたの掃除機はどうですか。あなたの心身はどうですか。
今一度、こう問いかけることが必要なのではないだろうか。
私は、まだ知らなかった。
掃除機を詰まらせるようなだらしのない人など、私だけであることを。
そして今時の掃除機は、もうメンテナンス不要であることを。
読んでくださり、本当に有難うございました。 あなたとの、この出会いを大切に思います。 これからも宜しくお願いします!