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青年団 東京ノート

ずっと観たかった劇団青年団の『東京ノート』を観ました。青年団らしい、抑えの効いた淡々としたお芝居。見ているときも、見終わったあとも、心のなかにいろんなものが湧き上がって感想を一言で表せない。
言葉を探して感想まとめを読んでいました。

近未来の日本。ヨーロッパで大きな戦争が起きていているという設定で、そこから避難してきた絵画を預かっている美術館のロビー。そこが、この舞台の設定。

「遠い戦争という大きな背景を前に、日々の生活を送る現代人の姿が克明に描写され、その中から現代社会の様々な問題点と危機があぶり出される」(青年団ホームページより)

美術館のロビーや階段のあちこちで交わされる会話。会話はとても自然で、サラッとしている…ようにみえる。けれど…サラッとしているように見えて、実はそうでもないことがわかってくる。

会話の中で、言葉を発する一人ひとりのなかに、ずっしりと重いものがあることが垣間見える瞬間があちこちにあり、じわじわと引き込まれていく。

青年団のお芝居を初めて観たのは1992年、大学一年生のとき。そのとき履修していた演劇のゼミ(内野儀先生)で「青年団っていうちょっと他にない面白い劇団がある」と教えられ、その日の帰りに今はなきシードホールに行って観たのが『さよならだけが人生か』という演目でした。

この時が初演だったこの作品は、劇団青年団の出世作となり、その後も各所で再演されているようです。私はそのとき初めて見た俳優の松田弘子さんと山内健司さんのお芝居に衝撃を受けました。もうお芝居と思えない実在感で。「え、これはお芝居なの?」と混乱したのを覚えています。

そのお二人が今回の東京ノートにも出演されていて本当にすごいなぁと思いました。あれから30年くらい年齢を重ねていらっしゃるのに、全く衰えない存在感。今回も、もうその人にしかみえませんでした。山内健司さんのなんとも言えない「おっさん」風情は誰にも真似できないものだと思います。

松田弘子さんと並んで大好きな女優さんである能島瑞穂さん。能島瑞穂さんは青年団のお芝居『走りながら眠れ』で伊藤野枝を演じた演技がとても好きでした。

伊藤野枝(1895−1923)の略歴を見ると人々が眉をひそめるようなぶっ飛んだ人物でもあるのですが、法律婚をしていないパートナーと一緒に自然に子育てをしているシーンがとてもナチュラルで好感を持ちました。女性の力が弱かった時代、家の仕事が女の仕事と思われてた時代に、野枝が小さい子を育てながらも翻訳や研究に勤しみ、それをパートナーの大杉栄も心から応援していて、二人で子育てや家事も自然にやっている様子が描かれてた。

今回はこの松田弘子さん演じる長女と、能島瑞穂さん演じる次男の妻、この、血の繋がりのない二人のやりとりに最後の最後で泣いてしまった。

たった一言のセリフで。(ネタバレになっちゃうから書きませんが)

それまで淡々と見てたのにカーテンコールで涙が止まらない。

青年団の作品はそういうことがたまにあるんです。

平田オリザ氏の戯曲は説明的なところが全くない。セリフの端々からいろんなものを浮かび上がらせていく。そして最後のトドメのセリフで、観客である私の心の中に溜まった何かが溢れ出しました。

カーテンコールは役者さんが全員揃ってお辞儀をして、舞台袖にはけてから、もう一回だけ舞台上に戻ってきて、お辞儀をする。彼らのとても控えめなカーテンコールにいつも好感を持っています。かっこいい。

東京ノートは、相田和弘監督の『演劇』という映画の中で、稽古シーンがかなりの尺を取って見せられていたので、本物を見るのを楽しみにしていました。もう一回映画のほうも見たいなぁ。

そして、平田オリザ氏率いる青年団は、今、兵庫県の豊岡市というところに、新しい劇場を作ろうとしています。ただ劇を見せるだけのハコではなく、世界と地域をつなぐ、公共性の高い存在としての劇場。初めてのクラウドファンディングをしているとのことで、さっそく支援しました。

新しい劇場ができたら、行ってみたいな〜。江原河畔劇場。



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