「蜘蛛の糸」

間もなく　大手町です
との
アナウンスに促されて腰を上げる
と
何人かが出口ドアに向かう
するすると電車はホームに入り
見ると
反対ホームにも
電車
一瞬、向こうが早く到着し
ドアが開く

ここは
東京の、日本の
ビジネスエリートが闊歩する
大手町、丸の内エリア
男女のビジネスエリートたちは
ホーム階から改札階をひと息に上る
地下鉄半蔵門線は深い
長いながい
一本の鋼鉄の坂
行儀よく左側にきちんと
しかも
一段おきに並ぶ男女
ごめんなさいよ
との
言葉もなく
右側をすり抜けていく
脚に自信の
男ら　女ら
ああ
先を越された…
ホームに降りた僕は
鋼鉄の坂に続く
長くながく伸びた列の
最後尾につかねばならぬ
そうこうしているうち
また電車が入ってきた
上へうえへと伸びる列
その
上を
うえを
首を曲げて見上げる
と
自分は
蜘蛛の糸にすがる
地獄の餓鬼
……
あの景色
この町から消えて久しい
２０２１年２月