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『ある男』を観て満足したネタバレ全開話感想

掲題の通り、本記事は邦画『ある男』のネタバレ記事なのでそれが辛い人は読まないで下さい。
とても面白かったのですが、何故私が本作品を実に満足して面白く受け取ったのかを文章に書き出しながら整理したいと思います。

前提

この映画は原作の小説があるそうです。

僕はそれも知らずに、他の映画の予告が面白そうだったので観に行きました。
なので、以下に書き綴る文章はファンやマニアの賛辞ではなく全くの部外者が感動を零すような性格であるものと認識して下さい。
さらに言えば、監督も役者も一人として知らないし観た記憶も無いです。

本作の構成

一見ミステリーのようですが、実際としてはサスペンスドラマなのだと思います。

事故死した男の兄が葬儀に現れるが遺影を見て「違うが?」となり、そこから弁護士が調査を進める内容となります。
死んだ男の本当の名前は?みたいな謎から始まるがゆえに、頭を使って情報を拾い零さないように緊張感を持ってみるような作品かと序盤ちょっと思いました。

実際には、謎解きという程でもない丁寧な聞き込み確認の過程と併せながら主要人物の心の中を解題し、それをコース料理のように味わう作品でした。

主人公が『帰化した在日』

主人公は在日韓国人か在日朝鮮人かはわかりませんが在日三世で今は日本に帰化しています。

弁護士として立派に活躍しているのに、妻の父はナチュラルな差別主義者で彼の経歴を知りながら心無いことを言います。しかし主人公の事は気に入っているようで「君は違うよ」と本気の笑顔で言ったりと、無自覚な邪悪という感じで程よい吐き気が出ます。

また別の心無い男が、主人公のことを指しているわけではありませんが「北朝鮮に日本人が誘拐されているんだ!」と騒ぎ立てるシーンもあります。

さらには、収監中の男と面会したときには出会い頭から顔を見ただけで「あんたは在日だな」などと言われます。
(その時の押さえた表情の下に感情が沸き立つ様子の演技が実に良かったです)

主人公に、何らかの逃れられない過去というものを背負わせたいのであればいろいろな設定が候補になるのだとは思うのですけれど、在日というワードは特に邦画界ではハマるものだなと思いました。

在日というテーマを玩具にするわけでも神聖視するわけでもない、丁寧な取り上げ方・作品に活かす肉付けの仕方だと感じます。

死刑囚の息子

事故死した男の正体は死刑囚の息子で、父の呪縛から逃れたい思いで戸籍交換ブローカーの手を借り別人になっていた事がわかります。

その、死刑囚の息子という背景の重さや、そこからの苦しみから自分を痛めつけるようにボクシングをしている部分などの描写が良く、この男は何故これまでこういう行動を取ってきたのか?がよく伝わってくる作品でした。
簡単に言えば、映画が上手い、描写演出誘導が上手い。
(たぶん、原作からしてそこの描写が上手い)

死刑囚の息子は父と顔がそっくりなので、女とセックスする段になっても鏡に写った自分の顔を見てもう駄目になってしまうところなどが説得力ありました。
殺人を犯した父から血まみれの紙幣を「小遣いだ」と渡される凄惨なシーンを子供時代に体験しているのですが、その時の記憶が呪縛の原点になっているのだと説得力を持って示されます。

子役含めて、みんな演技が良い

子役の演技の下手さで一気に冷めてしまう作品が私には多いのですが、本作では子役がたくさん出てくるのに違和感ある演技が見えず没入感を維持して最後まで観れました。

特に、主人公の息子が玩具を投げて父親のドリンクを倒し調査資料を濡らして激怒されて泣くシーンは圧巻です。
これは本当に演技無しで泣いているのでは?虐待?この監督訴えられない?って思うほどです。
映画のラストに「怒られた子供はCGです。傷付いた子供も動物も本作品にはいません」とか出ても良いくらいです。

事故死した男も、様々な心理状態での様子を見事に演じ分けられていて『役者は凄い!』と再実感。
脚本が良いときの良い演技の掛け合わせというものは、こんなにも気持ちよく観れるものなのですね。

素晴らしいラスト

映画冒頭でバーのシーンがあるのですが、ラストはまたそこに飛びます。
よくある他の客との雑談の中で自己紹介をすることになるのですが、ここまで本作を観てきたが故にその何気ない行動に何重もの意味や選択を考えさせられる事になります。

ここまで味わい深いラストを邦画で観るのは何年ぶりでしょうか。
『良質の邦画が観たい(特撮・アニメジャンルは除く)』という人には安心してオススメできる一品となっております。

まとめ

ストーリーと映像とキャラクターの全てを美味しく組み合わせてのエンドは是非みんなにも体験して貰いたいです。

褒めっぱなしでは何なのであえて言えば。
これはドラマとして面白いので、映画館のスクリーンで無くてもほぼ同質の感動が得られるのかなと思うと……

今必ず映画館に走って観に行かねば!!という作品というよりかは、アマプラなどのサブスクでも良いので「人生で一回はどこかで観ておいて」というロングランなコンテンツかと思いました。

無職へのお布施

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