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メディアやSNSの発信だけじゃダメ。フレスコボールをもっと身近にする「拠点」――朝倉弥生さんインタビュー

朝倉弥生さん(以下、弥生さん)は、逗子海岸にフレスコボールを根付かせ、広げていった第一人者です。2017年末ごろから本格的に逗子海岸に通い、トップ選手も巻き込みながら、地元のファミリー層などに拡大。

2018年末に発表された『FRESCOBALL AWARD 2018』では、最優秀サポート賞を受賞されました。(※詳細はこちら

2019年度からは、フレスコボール協会主導で「クラブ制度」も実施されます。そのモデルケースとして期待されている「逗子フレスコボールクラブ」が、どのようにできたのか、弥生さんをはじめとする逗子メンバーがどんな思いで活動しているのか……。

フレスコボールや他スポーツで拠点づくりを考えている方は、特に必読の内容です。

また、普及においても欠かせないトッププレイヤーのあり方についても、言いにくいことをストレートに言っていただきました。最後までぜひ、お付き合いください。

1人で行っても、誰でもフレスコボールができるような場所をつくろう

― 弥生さんがフレスコボールと出会ったのはいつですか?

弥生 10年以上ブラジルのダンスをやってるんですけど、ブラジルつながりで、フレスコボール協会から「イベントをやりたい」というオファーがありました。それで、フレスコの大会とコラボイベントをやったのが、第1回のジャパンオープン(2015年)。

ラケット競技は私が一番苦手なスポーツだったから、友だちはその場で体験してたけど私は遠くで見てたんです。でも倉茂(倉茂孝明:日本代表)とかと別の機会にフレスコの練習会をやることになって、初めてフレスコをしたのが実は逗子なんです。

― そうなんですか!?

弥生 逗子はその前から夏に飲みに来てたから馴染みがあって、2015年の11月にフレスコボールを始めました。でもそのあとは代々木公園とかでやってましたね。その頃は、冬に海に行くっていう感覚がなくて。

― その頃は、まだ普通の感覚を持ってたんですね(笑)。

弥生 まだ普通だったね(笑)。逗子に通年で来るようになったのは本当にここ1年ちょっと。海上自衛隊メンバーと一緒にやるようになって、横須賀との中間地点を探して、逗子で始めることにしました。

― 意識的に「拠点をつくろう」と思っていたんですか?

弥生 都内だと、みんなの予定とか場所とか時間を確認しながら「来れる?来れない?」ってしなきゃいけない。それがストレスになるくらいなら、ラケットを持っていれば1人で行ってもやれるような場所ができたらいい。

だからまずは、とにかく続けることに意義があると思って、忙しくても毎週行こうと思っていました。で、気になってる人がいたらどんどんナンパしちゃう。

こっちも気がついたら声をかけるけど、向こうから声をかけられることの方が多かったですね。「ずっと気になってて、今日は意を決して声をかけてみました」みたいな人も結構いて。

― 2018年の春くらいにはすでに結構盛り上がってましたよね。

弥生 実は、逗子は久野さん(久野雅実:逗子在住の選手)がコーチとして、ずっと前から近所のお母さま方にちょこちょこ教えていたという下地があって。たまたま声をかけた子が、「久野さんを知ってます」という風につながってから、一気に地元のメンバーが増えました。

リスクを伴う「クラブチーム化」に踏み切った理由

― 今年から、試験的に「クラブ制度」が導入されますが、どのタイミングで話があったんですか。

弥生 昨年(2018年)12月のブラジルで、窪島会長から話をいただきました。2019年3月1日から一応クラブとして正式にスタートする予定です。

やっぱり地元の人に代表をやってもらいたいということで、代表は久野さん。副代表に私と外山(外山祐次)さん、事務局長が奥ちゃん(奥村和秋)。たまたま、必要なポジションに必要な人がいたからこそ、成り立っていると思います。

でも逗子は、平塚みたいにビーチスポーツ施設があるわけじゃなく、みんなが好きに散歩したり、遊んだりしている場所。だから、アクティビティとしてやる分には最高なんだけど、これから市に申請して、毎週、長時間占有しちゃうと、厳しいところもあるかもしれない。

私たちとしても、ただ楽しくやっているだけじゃダメになっちゃったなっていうところはあります。

― 少し義務がプラスされた。

弥生 そう。安定稼働に入るまではカオスなんだろうなと思います。クラブになると、正式にクレームをあげる矛先ができちゃうわけで、いろんなことを言われるだろうし、失敗もするだろうし。ただ、「やっちゃいけない失敗」もあるから、そこだけは気をつけながらですね。

― やっちゃいけない失敗というのは?

弥生 ここ(逗子海岸)でフレスコボールができなくなるような失敗だけは、絶対しちゃいけない。そのために最低限、ルールも必要です。

そのリスクも考えたけれども、今のフレスコの状況を考えたときに、クラブとして最初に動けるのは、メンバーがたまたま揃っていた逗子しかない。だから今回は、窪島会長の熱い思いに応えてみようかなと思ってやることにしました。

理想は、協会ですら見本にできるような組織。そういう「逗子フレスコボールクラブ」になれたら最高だなと思っています。

フレスコボールの拠点づくりで大切なこと

― 今後、他の地域でフレスコボールを広げようと思ったときに、やっておいた方が良いことはありますか?

弥生 本気で広めようと思うなら、最低でも1年は、毎週同じ場所で、誰かがいる状態をつくること。1回見かけた人が「あれ、何だろう?」と思って、それが1年間同じところにずっとあったら、「聞いてみよう、行ってみよう」と思う人も増えてきます。

そこで「これ何ですか?」って言われたときに、面倒くさがらずにきちんと受け答えをする。来た人とどんどん打つし、その時は自分たちの練習は二の次、三の次。「自分の練習だけして周りは無視」っていうのを、逗子はしなかったんですよ。

― 声をかけにくいオーラが出ていると敬遠されますしね。

弥生 そうしていくと、地元の人同士で話題にあがったときに「あれ、私知ってるよ!」っていうような流れもできるだろうし。継続しているからこそ、そうやって新規の人が生まれるんです。

人って、身近で手の届くところにあって初めて、触ってみようかなと思える。だから底辺がそうやってコツコツやっていかないと、どんなにメディア露出や情報発信しても広がらないと思います。

何で10代の頃に出会わなかったんだろう

― そういうことを当初から意識的にやっていたことで、自然発生的に人数が増えていったんですね。

弥生 あとは、たとえば外山さんとかは「今日は弥生さんがいないけど俺がいるじゃん」って言える自覚をちゃんと持って活動しているんです。というより、楽しいことは共有したい、楽しい気持ちをみんなにおすそ分けしたいっていう思いを持っているかどうか。

みんな、楽しくなくなったらやらないですよ。毎回出会いがあるし、毎回おもしろい話もあるし。何で10代の頃に出会わなかったんだろうと思うくらい。

逗子のいいところは、ファミリー人口が多くて子どもたちの参加が多いところ。ブラジルにはあまり子どもがいなくて、30代・40代以上が多いって聞いているから、なおさらです。

― フレスコボールには、ブラジルの文化を日本に取り入れるという意図もありつつ、日本風に違和感なく溶け込んでいる感じはありますよね。

弥生 そういうのは日本人の得意分野だと思います。フレスコボールって相手と戦わない競技。実質的には、大会があるから戦ってはいるけど、普段やる分には戦わない。だから、こんなにラケット競技が嫌いな私でも続くんだろうなと思います。

あとすごく思うのは、たとえば逗子海岸で、他のいろんなビーチ・マリンスポーツをやっていても、見かけた人が立ち止まったり声をかけたり、「やってみたい」という風にあまりなってないんですよね。その点、フレスコは声をかけやすいのかもしれないです。

ブラジルで感じた「日本代表」のあり方

― 弥生さんは今回(2018年)、ブラジルにも一緒に行きましたが、そこで思ったことは何でしょうか。

弥生 日本代表のあり方というのを、すごく考える機会になりましたよね。「日本代表の選考基準は、大会での成績だけじゃいけないと思います」ということは今回会長に言いました。

選手は選手で、日本を背負うのであれば、背負うだけの自覚とか、人間性を備えた人に行ってほしい。協会としても、スムーズに遠征できるようにマニュアル化するとか、やるべきことはあると思うというのも、外山さんと一緒に伝えさせてもらいました。

― フレスコボールが広がっていくためには、自分たちが楽しいだけじゃいけないことは当然出てきますよね。

弥生 そもそも国内大会ですら、昨年のジャパンオープン2日目は、飲んで酔っ払っちゃってる人がいたじゃないですか。

ブラジルから時間をかけて来てくれた招待選手たちにも失礼ですし、何かあったときに文句を言われるのは協会。そういう周りにかかる迷惑とか責任とかを考えられる人に代表になってほしいと思いますね。

― なるほど。堂々と「日本代表です」と胸を張れるように、自分を省みたいと思います。逗子フレスコボールクラブの今後にも期待しています。ありがとうございました!

次のインタビューもお楽しみに!

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