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呪縛

この前、会社の先輩と話をしていた。
その先輩には唯一、僕の心に起こっていることを正直に話した。

毎日起きるのが辛いこと。会社に来るだけで泣きそうになること。休みの日に何もできず落ち込むこと。病院へ行ったこと。何の気力もないこと。自殺を考えたこと。

その人は急に怒り出して、大きな声を出してこう言った。

「そんなことを考えるくらいなら、こんな仕事辞めなよ。ジュンがそんなになってまで、自分を犠牲にしてまで続けるほどの仕事じゃない。この仕事だけじゃない。どんな仕事だってそう。仕事なんて、自分の命ほどの大切なものじゃない。ジュンがそんなことを考えているなら、今すぐにでも辞めなよ。だから、自殺なんてこと絶対に考えちゃだめ。そんなことをもし次に考える時が来たら、すぐに連絡して。絶対にだめだからね。」


今の世の中、「死にたい」なんてことを口にする奴は腐る程いる。
日常的に使う言葉だ。
もちろん良いことではないけど。
そんな中、職場の彼女はそんな風に声を荒げて僕を叱った。

僕はそんな死にそうな顔で言っただろうか。
そういえば、あれも真夜中のことだったっけ。

もちろん、僕は冗談でそんなことを話した訳ではない。
それは彼女も分かっているだろう。
だからこそ、怒ったのかもしれない。

実際のところ、前回も書いたが僕には死ぬ勇気なんてない。
というより、死ぬという気力すらない。

自殺をするにしても、それなりの準備が必要だ。

親しい人お世話になった人への挨拶回り、死んだ後に出てきたら困るものの処分、死ぬ為の道具を買いに行かないといけない、飼っている猫の引き取り手を探す、思い残すことがないように行きたかったところへ行っておく、地味にためていたお金を使い切る、そういえば海にも行きたかったんだ。後、ネットで見た美味しいスイーツも食べておかないと。

そんなことを考えているうちに
死ぬ準備って大変
って思って気力がなくなる。

そもそも、仕事の日は何もできないくらい疲れきって家に帰るなり動けないし、休みの日も動くこともできずに家にいる生活だ。
前述したものができるような状態じゃない。

死ぬことにも労力が要る。


「お前が死にたいと思って過ごした今日は、誰かが生きたいと思って叶わなかった明日だ」

みたいな言葉があった。
正確に覚えてないので、少し違うかもしれないが。

そんなこと言われたって、僕は僕のことしか考えてない。
誰かのことなんて考えられない。
自分のことで精一杯だから。
他人なんて知ったこっちゃない。
みんなそうだろ。
「あぁ、今日という日は昨日無念にも死んだ人の為に頑張らなきゃ」
なんて思って生きているやついるのか?
いるのかもしれないけど、僕は会ったことがない。


話を元に戻そう。

つまり、彼女が言いたかったことは
自分を大切にしてほしい
ということだ。

医師にも言われたことだが
自分の健康より大切なものなんてない。
いざとなったら、全てを捨てても構わない。
まだ若いんだから、いくらでもやり直しは効く。

病にかかる前の僕は
仕事で悩んで死ぬくらいなら辞めれば良いのに。辞めた後に何言われようが、シフトが回らなくなろうが、会社が潰れようが、知ったこっちゃないだろ。
って思っていた。
だけど、そうじゃない。
きっと、辞めるという選択肢が自分の中から消えているんだ。
そんな簡単なことすら考えられないくらい
思考力を奪っていってしまうのが、この病の恐ろしいところだ。

ガンや結核、黒死病のように
死が明確にまとわりついてくる病気だったら
大変な病気だねって同情してくれるだろう。
風邪だったとしても同情してくれる。

だけど、この病の場合
死に至らしめることが多い病気であるにも関わらず
その意識は断然低い。

みんな、この病によって死んだ人たちを知っているはずなのに。
この病と死が周りの人は結びついていない。
どうにかすれば止められるとでも思っているのだろう。

僕は自分がこの病にかかるまで分からなかった。
この病がこんなにも死と隣り合わせだということに。
僕自身、意識が薄かったんだ。

ジョンのこと(前回の記事)があって
初めて自覚したけど
自分が同じ病になって痛感した。

この闇はどこまでも深い。
自分の中に深く深く根を張り
どこまでどこまでも広がっていく。
そして、その闇の底が見えないことで
不安は大きくなっていく。

そしていつしか僕自身を飲み込み
死の世界へと引き摺り込む。


職場の彼女は
そこまで見えていたのだろうか。
僕の中に、僕の言葉の中に
深い闇を見つけたのだろうか。
人一倍優しい人で、その優しさが時に鬱陶しい時もあるが。
あんなに面と向かって
「自殺なんてだめ!」
と怒る人は初めて見た。

「死なないっすよ」
と僕は返した。
「なら良いけど」
と彼女は言った。

きっと僕は自殺を考えるたびに
彼女の顔を思い出すことになるだろう。
それくらい印象的な出来事だった。

ある意味、呪縛かもしれない。




jun.

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