おもてなしの心を学んだ話し
20代の頃、すでに事業で成功していた実業家の人と親しくなり、よく彼の豪邸に招かれてご馳走を頂いた。
料理の品数がとにかく多く、毎回数人で訪問した僕たちの人数よりもはるかに多い分量だった。
その日も、男3人が寄ってたかって食べてもテーブルの料理は半分も減らなかった。当然僕たちは満腹の意を表明して箸を置いた。
毎回のことなので、あまりにも気の毒に思って僕はその人に聞いた。
「いつもご馳走をありがとうございます。でも、毎回食べ切れないほどの量です。残しては勿体ないと思いますし、失礼だとも思いますので、ほどほどで結構です」
と、僕が言うとその実業家はうんうんと頷いてから、
「人の腹具合というのは、それぞれだ。もしキミたちが、僕が出した料理を全部平らげてご馳走様と言われても、本当に満腹になったのか僕には分からない。でも量がたくさんあって満腹になれば、いくら食べ盛りのキミたちでも箸を置くだろう。そうすると、あぁ満腹になってくれたんだなと僕は分かり、安心する」
と、教えられた。
「何も残すほど料理を出すのはキミたちだけの為ではなく、僕自身の為でもあるんだよ。それに残ったものは、今晩うちの子供や孫たちが家に来るので、間違いなく全部消滅するから、安心して欲しい」
とも話された。
成功するには成功者から学べ、とはよく言われる。
それは単に表面的な言動や仕事ぶりだけを学ぶ、というのではなく「なぜそれを行っているのか」という、深い処のその人の思考、心がけ、生きる哲学みたいなものから学ばなければいけない、とその時教えて貰ったような気もした。
優しさとは観察眼から生まれてくると思う。
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